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もう一つのブラジルW杯 ロボカップ、日本勢の優勝も

サッカーの聖地ブラジルで7月下旬、もうひとつのW杯が開かれた。東部の町ジョアン・ペソアで開催された「ロボカップ」はロボットのサッカー世界大会だ。目標は「2050年、人間の世界王者に勝つ」こと。欧米のほか日本や中国など世界約40カ国・地域の研究機関が技術を競った。玩具の域を大きく逸脱したロボの一挙手一投足に企業も熱い視線を注ぐ。

高度な機械要素の勝負に

ロボットがサッカーで熱戦。ブラジルで世界大会、高度な人工知能や機械の性能を披露

ロボットがサッカーで熱戦。ブラジルで世界大会、高度な人工知能や機械の性能を披露

試合終了のホイッスル――。千葉工業大学の12人のメンバーは飛び上がり、拳を突き上げた。子供大のヒト型ロボで競う種目の決勝戦、英ハートフォードシャー大学を下し頂点を極めた。4日間にわたる戦いの日々は平たんではなかった。

初日の予選2試合を終え、千葉工大の林原靖男教授が直面したのは無線通信の不具合だ。「日本では起きなかった不具合。『大会の魔物』としかいいようがない」――。千葉工大のロボットが採用した無線規格は、欧米に比べ弱い。他国の無線が飛び交うなか、ロボ同士が情報を交換し、攻撃や守備など最適な行動を選ぶ連携システムがまひしてしまっていたのだ。

こうした不具合を抱えて同大が選んだのは、あえて高度なシステムを放棄する戦術。部分的に通信を切り、個々のロボに判断を委ねる。走力やボディーバランスで真っ向勝負する形だ。人間でいうなら、パス回しを重視するチームワーク型でなく、スター選手の個人プレーに任せる「パワープレー」といったところか。部品の性能や強度といった高度な機械要素の勝負だ。

なかでも「これを無くして成り立たない」と林原教授が断言するのが、双葉電子工業が生産するモーター「RS405CB」。小型ながら大きな力を出せ、精密な動作にも優れる。双葉電子は2011年から千葉工大と協力。割安に提供する一方で性能の評価や故障例といったリポートを受け取り、改善を重ねてきた。

例えば軸の強度。転ぶことが当たり前のヒト型ロボットでは、モーターの出力軸へ不意に大きな力がかかる。千葉工大からの実地試験の情報をもとにねじれに強い形状に部材を変更した。「ロボット向け部品は研究機関から愛好家まで顧客の知識レベルが非常に高い。使用者が持つ情報を集めることが肝心」。電子機器事業部の鈴木康之主任技師は話す。

ドローン(無人ヘリコプター)や自動運転車、医療などロボットが様々な分野で活躍しだしているが、ヒト型ロボットはその究極に位置する。しかも複数のロボットが連携し、障害を越えてボールを小さなゴールに入れる。ロボカップは運動能力(機械)と知能(AI)の双方で過酷な水準を要求される最高峰だ。

それだけに、どんな実用化がこの先にあるのか、まだ明確ではない。双葉電子の三橋正徳・営業第一ユニットリーダーは、「様々なモデルを安定生産できる体制はすぐには整わない。市場が明確に現れてから参入するのでは遅い」と断言する。

コスト競争力が焦点

「チアゴ・シウバ!」。現地の少年が自国ブラジルの代表選手の名前を叫んで絶賛したのは、非ヒト型の種目、「ミドルサイズ」に登場したロボット。三角帽子のような形で人間の小走り以上のスピードで動く。ロボ同士が「ドンッ」と音を立てて激しくぶつかる肉弾戦や、浮き球も駆使する華やかなゲーム展開が魅力だ。

部品について意見を交わす九州工業大学と北京信息科技大学のメンバー

サッカー本場ファンをも熱狂させるプレーを可能にするのが、スイスのマクソンモータ社のモーター。30キログラムほどにもなるロボットを縦横無尽に走らせる力を出せる。九州工業大学大学院の石井和男教授は「大半のチームのロボに搭載されているはず。数年前からデファクトスタンダード(事実上の標準)になっている」と明かす。

実はこれとほぼ同等の性能を持つ製品を日本の電機メーカーもそろえているが、この分野では普及していない。同種目で2位と好成績を収めた中国・北京信息科技大学の学生は話す。「日本製は価格が高すぎる。ロボットはモーターだけでできているのではない。カメラシステムやバッテリーなどほかにも予算を振り向けなければいけない部分はたくさんある」

ロボット開発は性能重視からコスト競争力を問われる局面に移っている。日系企業にも危機感が漂う。

「6軸力センサー」半額に

ロボカップは運動能力と知能の双方で過酷な水準を要求される

ミネベアが得意とするのは多関節ロボットやパワーアシストスーツなどに活用される「6軸力センサー」だ。ロボットが動く際、力の大きさや方向を認識するためには欠かせない。05年にはそれまでと方式を大幅に変更、小型軽量化に成功したが1個で約70万円と価格の高さが課題に残った。

計測機器事業部の浅川英男事業部長は「性能では期待に応えられたが、コスト面で至らない部分があった」と振り返る。設計や治具、部材などの一切を見直して工程の数を60%削減。性能を維持しながら価格を半分以下の30万円程度に抑えることに成功した。

安川電機は昨年9月、イスラエルの歩行アシスト装置メーカー、アルゴ・メディカル・テクノロジーズと資本提携した。津田純嗣会長兼社長は「介護分野への貢献はロボットメーカーとしての使命だ」と力を込める。

ロボットメーカーであると同時に、モーターなどの部品の供給者でもある同社にとって提携の意義は大きい。ロボット市場は国内だけでも15年に1兆5千億円、35年には9兆7千億円を超える見通し。今デファクトをつかむ意味は大きい。

 ▼ロボカップ ロボカップの源流は日本にある。ペット型ロボット「AIBO」の開発に関わったソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明社長兼所長らが1993年に創設。97年に名古屋で第1回大会を開いた。ソニーはロボット事業から撤退したが、ロボカップは数々のロボット企業を輩出した。物流ロボットの米キバ・システムズ創業者はこの大会の常連だった。ソフトバンクが出資する仏アルデバラン・ロボティクスも深く関わる。

[日経産業新聞2014年8月21日付]

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