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熟年離婚と再婚 お金で考える損得勘定

 パートナーと仲良く暮らすのは理想だが、様々な事情で離婚を考える夫婦もあるだろう。離婚自体は珍しくないが、最近目立つのは熟年カップルだ。いざ別れると経済的な困難に直面する女性も多い。離婚・再婚にまつわる年金や相続などの損得を頭に入れておきたい。

東京都内に住む田中恵美子さん(仮名、50)は会社員の夫(53)との離婚を考えている。結婚して22年。大学生と高校生の子どもがおり、自身はパートで年100万円程度の収入を得ている。原因は夫の不貞だが、教育費などがかさんで蓄えは少なく、財産分与は高が知れている。専門家に相談し別居したが……。

国内の離婚件数は年間約23万組。婚姻件数は約66万組に上るので、単純に割れば、おおよそ3組に1組が別れている計算だ(グラフA)。同居期間別に見ると、結婚5年未満の割合が減る一方で、20年以上の「熟年離婚」がじわりと増えている。(グラフB)。

慰謝料ない場合も

一般に離婚の際の金銭的な取り決め事項は、(1)財産分与(2)慰謝料(3)養育費(子がいる場合)(4)年金分割――とされる。これらが離婚で得るお金ともいえる。財産分与は夫婦それぞれが結婚前にためた分などを除き、婚姻期間中に築いた財産を折半するのが基本だ。慰謝料の額は様々だが「離婚理由で最も多い『性格の不一致』では通常発生しない」と弁護士の武内優宏氏。

年金分割は年金を受け取る権利を夫婦で分ける。結婚期間が長ければ分割する部分が増えるので熟年世代にメリットがあるとされる。多いのは夫から妻に差額の50%を分けるパターン。ただし、対象は厚生年金(公務員は共済年金)の報酬比例部分だけ。しかも婚姻期間のみだ。「夫の年金すべてが分割されると思い込んでいる妻もいるが、それは勘違い」と社会保険労務士の望月厚子氏は指摘する。夫が自営業などで厚生年金に入ったことがなければ、そもそも分割する年金はない。

これらを取り決めて別れるが「離婚すると生活水準が下がるケースは多い。経済的に自立していないと困窮する女性もいる」と話すのは行政書士の藤原文氏。その後の生活への不安などから、別居や家庭内別居という選択肢をとる人もいる。冒頭の田中さんは夫と話し合い、生活費である婚姻費用で月約20万円を受け取ることに。夫が退職金を受け取ったタイミングで離婚手続きをしたいと考えている。

離婚すると失うものも多い。まずは相続の権利だ。法律では夫の相続財産の2分の1以上が妻の取り分だが、もらえなくなる。年金制度の手当や加算もなくなる。

そのひとつが、夫が先立った場合に妻ら遺族が受け取る遺族年金だ。受給の際に65歳以上の妻は自分の老齢基礎年金と併せて夫の報酬比例部分の4分の3を受け取ることができる。「夫が結婚前から積み上げてきた厚生年金全体が対象で、しかも非課税。年金分割と比べて手厚い」と望月氏は説明する。別れれば当然ながら受け取る権利を失う。

もうひとつが加給年金だ。厚生年金に長く加入するともらえる年金制度の扶養手当のようなもので、夫が65歳になると、妻が年下で年収850万円未満などの条件を満たせば、妻が65歳になるまで加算を受けることができる(現在は年約38万円)。支給前に別れれば加算はなく、支給開始後ならその時点で消滅する。

また妻が65歳になると加給年金に代わり、振替加算が上乗せされる。65歳になる前に別れるとやはり権利を失うが、こちらは一度もらい始めれば、その後離婚しても死ぬまで受け取ることができる。ただし、妻自身の厚生年金の被保険者期間と離婚分割で得た期間の合計が20年以上になる場合は加算されない。

一方、離婚や死別を経験しても、よい出会いがあれば再婚を考える女性もいるだろう。厚生労働省の人口動態統計では「全婚姻件数に占める夫妻とも再婚、またはどちらか一方が再婚」の比率は4組に1組に上る。ただ熟年世代の場合は注意点も多い。

再婚は遺言が必須

再婚すれば新たな相続権が発生する。取り分が減る子どもや親族から反対される可能性はある。それでも新たな妻に納まるなら「家族関係が複雑になるので夫に遺言を書いてもらうのは必須」と弁護士の武内氏は指摘する。夫に生命保険に加入してもらい保険金を妻が遺留分の調整に使えるようにするなど対応を考えておくとよいだろう。

年金では、条件を満たせば再婚後の夫に加給年金が付くなど加算がある。一方で前夫と死別して遺族年金をもらっている女性の場合は、再婚すると権利を失うので要注意だ。ほかにも相手が高齢だったり、親がいたりすれば、介護負担が発生する可能性もある。事実婚などの選択肢を交えて、慎重に考える必要があるだろう。(編集委員 土井誠司)

税金・保険料、支払い新たに


 離婚の際の財産分与は課税されないが、これまで夫婦で住んでいた家を、妻がもらった場合などは税金がかかる。税理士の福田真弓氏は「意外に見落としがちだが、登録免許税などが発生する。固定資産税も今後は妻が自分で払わなければならない」と指摘する。
 60歳未満で第3号被保険者だった妻は、夫と別れて扶養を外れると社会保険料ゼロの恩恵を失う。通常は第1号被保険者に種別変更となり、国民年金保険料(月1万5250円=2014年度)と国民健康保険料(自治体などによって異なる)は自分で払う必要がある。支払いが厳しければ、国民年金は免除申請をし、国民健康保険では市町村によっては保険料の減免措置があるので調べたい。

[日本経済新聞朝刊2014年8月20日付]

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