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「逆張り」メディア、弁護士ドットコム急成長の秘訣

ブロガー 藤代 裕之

事件事故や芸能人の離婚など、さまざまなニュースに対して、弁護士が関連する法律を解説する。そんな記事をポータルサイトに配信するのが「弁護士ドットコム」だ。昨年、トピックス編集長に亀松太郎さん(44)が就任して編集部を強化。月100本以上の記事を配信し、月間のサイト訪問者数は1年半で140万人から、661万人と4倍以上に急成長している。

無理だと思った記事数10倍

弁護士ドットコムのトップページ

弁護士ドットコムは、日本最大級の弁護士検索と法律相談サイトで、全国の弁護士の5分の1にあたる約7000人が登録している。2005年に弁護士の元榮太一郎社長が創業、弁護士を地域や得意分野から検索することや弁護士が質問に回答するQ&Aサービスなどを提供している。

サイトの知名度を高めようと12年4月から記事制作を開始した。弁護士によるニュース解説というユニークな視点が評価され、同年6月からヤフーにも配信するようになったが、訪問者数は100万人前後で伸び悩んでいた。

サイトが変化するきっかけは亀松さんが関わるようになってからだ。朝日新聞の記者から、J-CASTニュース、ニコニコニュース(ドワンゴ)編集長を歴任、ネットニュースを知り尽くした存在だ。ドワンゴ退職の挨拶に弁護士ドットコムを訪れ、元榮社長から誘われたのがきっかけで13年1月に副編集長という肩書きで関わるようになった。

弁護士ドットコム・トピックス編集長の亀松太郎さん

当時の編集体制は、元榮社長が編集長をしながら、兼任の社員が1人担当して月10本の記事を配信していた。元榮社長の要望は「記事本数を10倍にしたい」。亀松さんは「正直無理だなと思った。ただ、独立して最初の仕事だったし、期待してくれているのはありがたい。できなかったら謝ればいい」と振り返る。

編集業務をステップに分解

弁護士ドットコムへの訪問者数は急増している

まず、知り合いのフリーランスや元記者の主婦らに声をかけ、プロジェクト的に記事を作り始めた。記事は、2月に40本、3月60本、と順調に増え、6月に92本、7月に100本を達成した。だが、翌月は90本に落ちてしまった。兼業で取り組んでいる人が多く、子育てが忙しい、他の仕事ができた、などの理由で業務が安定せず、人の入れ替わりも激しかったためだ。亀松さんも副編集長という肩書きながら、フリーランスとして業務を請け負うスタイルで、「自分もフリーで、フリーに頼むという状況は不安定すぎる」と判断、内製化に舵(かじ)を切った。

13年4月に記者1人を弁護士ドットコムに採用、現在は5人の社内編集者兼ライターと20人ほどの外部ライターらが記事制作を支える。

記事化するテーマは時事性を重視する。「一般の人にとって法律は縁遠いが、芸能界の離婚と結びつけると興味を持つ。専門的な知識がある人と、一般の人の間に入り、翻訳することに価値がある、これは機械には置き換えられない」と亀松さん。

記事制作を効率化するため、編集業務をステップに分解する工夫も取り入れた。会議で日々のニュースやソーシャルメディアなどで話題を探すネタ出し、外部ライターによる記事リードの執筆、編集者による確認、弁護士へのコメント依頼、コメントの編集、などに分けて担当する。

どの弁護士に頼むかも重要なポイントだ。「マスメディアに登場する弁護士にコメントを求めているわけではない。専門性のある弁護士に依頼している」。依頼を受けた弁護士はリードを見ながら、メールで加筆する。

ドワンゴ川上会長に学んだ逆張り発想

弁護士ドットコムは、法律にからんだ記事制作以外にも、記者会見の速報も行っている。人員的には厳しいが、ヤフートピックスに載る記事とソーシャルは傾向が違っており、ソーシャル経由の訪問者を増やすことを考えた結果という。STAP細胞問題やPC遠隔操作事件といった社会の注目を集めるストレートニュースの速報はツイッターやフェイスブックで拡散し、爆発的なアクセスを生む。

記者会見の速報、一問一答をいち早く配信するなど既存マスメディアにない機動力を生かしているが、速報はレッドオーシャンだという。「STAP細胞のように大きなニュースとなり、既存マスメディアが本気でのりこんでくると記者の数が違うので勝ち目がない。いかにゲリラ戦を闘うかだ」と、他のメディアが記事にしないことに取り組もうと常に考えている。新聞が解説を重視している場合はストレートニュースを、速報が出そうなら法律的な観点を盛り込んだ解説記事をいち早く出すなど、ニュースの空白地を探し続けている。

この「逆張りのニュース」には、ニコニコニュース時代にドワンゴの川上量生会長の近くで仕事をした経験が生きているという。「川上さんは人がやらないことをやると成功確率が高いという考え方を持っていた。失敗もあるが、はまったときには強いインパクトを与える」と亀松さん。ニコニコニュースでは、新宿駅で痴漢容疑をかけられた男性が警察の取り調べ後にホームから転落した事件を独自記事として取り上げたが、これは川上会長から声をかけられたものだった。一部の夕刊紙が書いている程度だったが、ネットでは話題が広がっており、記事化すると反響があった。

独自コンテンツの勝算

亀松太郎さんは朝日新聞やJ-CASTニュースを経て、ニコニコニュースの編集長を務めた

記事本数は月間130本になり、編集部の人員も「もう少し増やすかもしれない」という。これまでの記事が累計で1500本を超えており、テーマごとにパッケージ化して書籍化するなど、独自コンテンツを生かした展開を試みるつもりだ。

ニュース業界では、キュレーションサイトのようなプラットフォームが大きな注目を集める。グノシーやスマートニュースは数十億円単位で資金を調達している。だが、亀松さんはプラットフォームには興味がない、という。「皆がプラットフォームにいったら、コンテンツをやったらいい」と逆張りスタイルでニュースの世界に挑む。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://gatonews.hatenablog.com/)を執筆、日本のアルファブロガーの一人として知られる。

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