リメーク、リブート…映画界にあふれる3つのR
日経BPヒット総研 品田英雄
アンデルセンの『雪の女王』を下敷きにした『アナと雪の女王』の歴史的大ヒット、日本が生んだ世界的スターを題材にした『ゴジラ』、これまでに何度も映画化されている『猿の惑星』……。世界の映画興行収入の7割を生み出す米国映画業界は、今、"再登板"ものであふれている。
リメーク、リブート、リ・イマジネーションと呼ばれる製作手法だ。どれも過去の作品を現代的にアレンジしたもので、素人目には同じように見えるが、詳しく中身を見ると考え方も作り方も異なっているのがわかる。
リメークは、もう一度作るという意味で、モノクロ・サイレントであった作品をカラー・トーキーで撮影するといった、技術の進歩に合わせて再映画化する伝統的な手法だ。
最近の話題作でいうと『華麗なるギャツビー』。原作はF・スコット・フィッツジェラルドによる米国文学の名作で、ロバート・レッドフォード主演で1974年に映画化されたものが有名だ。
それをレオナルド・ディカプリオ主演によって2013年にリメークした。ネット上では、レッドフォードとディカプリオのどちらの演技が魅力的かの意見も戦わされた。ほかにも、日本映画『Shall We Dance?』や、スウェーデン映画『ドラゴンタトゥーの女』のように、米国外でヒットした作品をハリウッドが作り直す場合もある。
だが、最近は単純なリメークではなく、オリジナルの設定を活かしながら、新しい物語にする作品が増えている。
現在公開中の『マレフィセント』。ディズニーの名作アニメ『眠れる森の美女』を、美女に呪いをかけた魔女マレフィセントの視点から描いている。マレフィセントは魔女ではなく妖精であり、彼女が永遠の眠りの呪いをかけようと思い至った背景には、人間側のひどい仕打ちがあったから、という発想だ。
主演はアンジェリーナ・ジョリー。世界での興行収入は6億ドルを突破して、彼女の主演作でも最大のヒットとなっている。

リブートとは「再起動」の意味で、作品の核となる要素とコンセプトを生かしつつ、これまでの作品との整合性にとらわれないでシリーズ作品を作ること。バットマンの『ダークナイト』シリーズ、スパイダーマンの『アメイジング』シリーズなど、この手法が急速に映画界に増えつつある。
日本生まれのゴジラを基にして作られたのが、現在公開中の『GODZILLA ゴジラ』だ。63の国と地域で初登場1位となり、累計の興行収入はすでに5億ドルを超えている。

今作はオリジナル版とはいくつもの異なる設定がある。オリジナルではジュラ紀から白亜紀にかけて生息していた巨大生物であったのが、より古いペルム紀の爬虫類へと変わった。また、度重なる核実験で生息地を追い出されて出現したオリジナルに対し、今回は連続的な核実験により地球全体の放射能濃度が上昇したため、地上へ出てきたことになっている。さらに、放射熱線の原理がキチンと説明されてもいる。
ゴジラは2004年にも米国で製作されたが、形も動きも「単なる巨大なトカゲで、全然ゴジラらしくない」と酷評され、興行的に大失敗に終わっている。今回は、十分にオリジナルへの敬意が感じられ、ファンの間で評価が高い。
ほかにも、2014年7月には『猿の惑星:創世記』に続く新作『猿の惑星:新世紀』が米国で公開になり、オープニング興行収入7260万ドルと好調なスタートを切った。日本では9月19日に公開される。

リブートは元々、使用中のコンピューターに再起動をかけるというIT用語から来ていて、今あるものを断ち切るニュアンスが漂う。映画会社は出演者やスタッフを一新しながらも、ある程度の売り上げが見込めるため、進めやすい企画だ。
さらに、基本設定だけを残し、新たな作品になったものをリ・イマジネーション――「再創造」と呼ぶケースも増えている。
代表作が『バットマン』や『チャーリーとチョコレート工場』などを監督したティム・バートンが、2001年に手がけた『PLANET OF THE APES/猿の惑星』だ。
何度も映画化されている『猿の惑星』をティム・バートン監督は、猿が人間を支配しているという設定以外はオリジナルという新しいストーリーの映画にした。リブートとの境目が明確でないとの声もあるが、それ以来、オリジナルから離れた作品にはリ・イマジネーションという言葉が使われつつある。
こうした再登板ブームをハリウッドのアイデア不足と指摘する向きもある。だが、視点を変える面白さや監督の演出力を比較する楽しさがあるのも事実。また見る側に共通の知識があるために、作品に奥行きが生まれるというメリットもある。失敗作もあるが、ヒット作はそれにもまして多い。映画界の3つのRブームはまだまだ続きそうだ。

日経BPヒット総合研究所 上席研究員。日経エンタテインメント!編集委員。学習院大学卒業後、ラジオ関東(現ラジオ日本)入社、音楽番組を担当する。87年日経BP社に入社。記者としてエンタテインメント産業を担当する。97年に「日経エンタテインメント!」を創刊、編集長に就任する。発行人を経て編集委員。著書に「ヒットを読む」(日経文庫)がある。