塩をかけるのはスイカだけ? フルーツとのうまい関係
魅惑のソルトワールド(57)

時間がたつのは早いもの。暑かった夏が終わり、すっかり秋の気配が漂う。「味覚の秋」「食欲の秋」とも言われ、おいしいものがたくさん出回る季節でもある。秋のフルーツの代表格といえば、ぶどうや柿、梨などだが、近年は晩生の桃もよく見かける。フルーツを「塩」でさらにおいしく食べるにはーー。それが今回のテーマだ。
フルーツに塩と聞くと、意外な組み合わせのように思われるかもしれない。だが、スイカを思い出してほしい。塩をかけて食べる方も多いだろう。実はフルーツに塩をかけて食べるのは、日本だけに限らない。台湾やベトナム、タイ、カンボジア、ミャンマーなどにもある食習慣なのだ。
いずれの国や地域も、フルーツの生産が盛んで、街中を歩けば、カットフルーツやフルーツジュースの屋台をよく見かける。しかも、どれも非常に安い。フルーツを買うと、塩の小袋がついてきたり、塩をかけてくれたりすることも少なくない。
これには気候が深く関係している。湿度が高く高温な時期が多いこれらの国・地域では、体温の過剰な上昇を防ぐため、本能的に水分が多く、身体を冷やす働きをする果物をよく口にする。果物を食べると、水分だけでなく、ナトリウムの排出を促すカリウムも多く摂取できる。果物には利尿作用もあるため、不足しがちになる塩分を補うために、自然と塩をかけるようになったようだ。
日本も地球温暖化の影響のせいか、気温や湿度が異常に高い日々が増えている。フルーツ果汁入りの飲料に塩をブレンドしたものや、フルーツ×塩の組み合わせを提供するレストランなどが登場するようになったのも、こうした日本の気候変動を反映したものなのだろう。
もちろん、習慣として根付くようになるには、おいしくなければ、が前提となる。「スイカに塩」で分かるように、塩をかけると、スイカの甘さが引き立ち、より甘く感じられる。
パイナップルなど酸味の強いフルーツに塩をかければ、逆に酸味を抑えてくれるし、グレープフルーツなどに塩をかけると、苦味を抑え、食べやすくなる。「フルーツに塩」は様々な利点があるからこそ、人々の間に定着してきたのだろう。

海外には何と「フルーツ専用」の塩も
海外に目を転じれば、タイには「ローイゲーオ」と呼ばれる伝統的なスイーツがある。塩をまぶして軽く脱水したフルーツを、塩と砂糖でできたシロップに浮かべて食べるデザートのことで、中でもライチが有名だ。
このローイゲーオをヒントに、キリンの「世界のキッチンから」シリーズの「ソルティライチ」が生まれたそうだ。ソルティライチのヒットを見れば、日本人にも味覚的に受け入れられるもの、であることが分かるはずだ。
ベトナムでは、一般的なスーパーマーケットでフルーツ専用の塩が売られている。しかも、かなり細分化されており、生のグアバの売り場には「グアバ専用」の、生のマンゴーの売り場には「マンゴー専用」の塩がそれぞれ並んでいる。
いずれも塩単体ではなく、唐辛子などを加え辛味を出した調味塩になっている点が面白い。甘味に辛味や塩味との組み合わせは、なかなか日本ではお目にかからない。もっとも塩味が全体の甘さを引き立て、甘さの後に辛さ、さらにまた甘さが続き……と、絶妙な味わいの変化は実際、癖になりそうでもある。
海老のフレーバーがついた変わり種もある。フルーツをフルーツとしてでなく、サラダのような一品として食べているお国柄が、そこにうかがえる。
カンボジアでは、未熟のタマリンドやグアバに塩と唐辛子などで作られた辛くてしょっぱい調味料をつけて食べる「マチュー」と呼ばれるおやつがある。パイナップルなど熟したフルーツには、ベトナム同様、唐辛子と塩でできた調味塩「オンバルマテッ」をつけて食べるそうだ。どちらも屋台で気軽に食べられたり、専門店があったり。それだけ愛されているメニューということだろう。
日本ではフルーツ専用の塩は製造されていないが、エン(東京・港)がフリーズドライで乾燥させたフルーツを塩でコーティングした「フルッソ」という商品を発売している。フランボワーズ、パイナップル、ブルーベリーの3種類があり、西オーストラリアの湖塩でコーティングされているので、口の中でフルーツ×塩の味わいが楽しめる。そのままでもおやつとしておいしいし、料理用の調味料としても使える。

自宅で楽しむ旬の果物と塩の組み合わせ
フルーツ×塩の組み合わせは、自宅でも簡単に楽しめる。最もお手軽なのが、フルーツのカルパッチョ。熟し切ったものより、まだ若くて食感のある状態のフルーツの方がおすすめだ。
作り方は至ってシンプル。薄くスライスしたフルーツを皿に並べ、そこにお好みの塩とオリーブオイルをかけるだけ。辛味が欲しければ乾燥唐辛子を輪切りしたものを上に散らしたり、粗びきのブラックペッパーを振りかけたりしてもおいしい。
もちろん、フルーツにどんな塩を合わせるかもポイントだ。多種多様な味わいがあり、一概にこの塩がよいとは言いがたいが、秋の代表的フルーツに合う塩をいくつか挙げてみよう。
▼黄桃
まだ若くて食感のある状態なら、塩も少し食感がある小さめのフレークタイプのものがおすすめ。完熟の場合は、食感が主張しない粒が細かい塩がいい。
例)若い桃:塩の花(新潟県/海水塩)
完熟桃:オージーレイクソルト(オーストラリア/湖塩)
▼ぶどう(デラウェア)華やかな香りがあり甘さがさらりとしたぶどうには、香りを開いてくれるタイプで粒が細かいしょっぱみの弱いまろやかな塩がおすすめ。凝縮感が出てワインのような雰囲気がでる。
例)つるみの磯塩(大分県/海水塩)
▼いちじく濃厚な甘味と、とろりとした食感のあるいちじくには、しょっぱさがあまり強くなく、甘味やうまみの濃い塩がおすすめ。いちじくがより熟したような凝縮感を味わえる。
例)わじまの海塩(石川県/海水塩)
▼梨さわやかな香りとさらりとした甘さがある梨には、香りを引き立ててくれる塩がおすすめ。
例)青い海(沖縄県/海水塩)
▼柿まだ若くて食感のある柿には、塩も少し食感のある粒が大きめのタイプがおすすめ。完熟した柿の場合は、甘味の強い塩を加えることでより濃厚になる。
例)若い柿:矢堅目の藻塩(長崎県/海水塩)
完熟柿:一の塩さらさらタイプ(佐賀県/海水塩)
アジア諸国で広く親しまれているフルーツ×塩の組み合わせ。ぜひ自宅でもチャレンジしてみてほしい。新しい味覚の世界にきっとハマるのではないだろうか。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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