「パックご飯」が値上がり コメ離れなのにどうして?

電子レンジで数分温めるだけでほかほかのご飯が食べられる「パックご飯」の価格が上昇しています。日本人のコメ離れが言われて久しいなか、なぜ上がってるのでしょうか。食習慣の変化やメーカーの努力に加え、コロナの影響が色濃く出ています。
今年1~6月の生産量2%増
「パックご飯」は正式には無菌化包装米飯と言われています。1988年にサトウ食品が日本で初めて製造・販売をしました。テーブルマークやアイリスオーヤマなど多くの企業が参入しています。最大手のサトウ食品を例にとると、現在までに25種類以上のパックご飯を販売しています。日経POSデータで値段をみますと、2020年のスーパーのパックご飯全体の販売価格は前の年に比べ3%高くなりました。個別の商品でみると売れ筋のサトウ食品「サトウのごはん 新潟県産コシヒカリ」(200グラム5個入り)は今年7月には549.6円。1年前に比べ約9円値上がりしました。

なぜ価格が上がっているのでしょうか?コメ人気が戻ってきたのでしょうか。いえ、違います。日本人1人あたりのコメ消費量は2019年度は53キロ。1962年の118.3キログラムをピークに年々減少しています。食べる量はピーク時の半分以下です。一方、パックご飯の生産量は2009年以降右肩上がり。2020年の生産量は19万7185トンと過去最高を更新しました(農林水産省の食品産業動態調査)。今年1~6月の合計で10万2264トンと前年同期比で2.2%増となっています。
面倒な炊飯避ける動き
パックご飯の人気上がり続けている理由は3つあります。ひとつが食習慣の変化です。調査会社のマイボイスコムの2020年秋に実施した調査で、「ほぼ毎日、1日1回以上炊飯する」人の割合は50%。10年前に比べ10.3ポイント低下しています。自分で炊かなくなった人が手軽に食べられるパックご飯を買っているのです。単価を比較すると、ご飯茶わん1膳分で、コメを炊飯する場合とパックご飯を比べるとパックご飯の方が3倍以上高いのですが、コメを研ぐ、炊くなどの一連の作業と時間を思えば高くないと考える層がじわりと増えています。
昔に比べておいしいとの認識が消費者に広がってきています。家で炊飯するコメとパックご飯は風味や食感で大きなが違いがなくりました。原料にブランド米の「ゆめぴりか」や「つや姫」といった香りやうまみなど食味の評価が高いコメを使った商品も増えています。
さらに保存食としての需要が増えています。2011年の東日本大震災などをきっかけに防災意識が高まり、パックご飯も備えとしてストックしておく食品の一つになったのです。さらに昨年春以降のコロナ感染拡大による外出自粛で家で食事する機会が増え、手軽に食べられるよう常備する人が増えました。
手軽においしいご飯が食べられるようになったことに新型コロナの外出自粛も重なって、買っておこうとする人が増えたことが価格の上昇につながっています。値段の方程式はこうなります。「パックご飯の価格は買いだめ需要によって決まる」

企業の売り上げや株価にも明確にあらわれています。サトウ食品の2021年4月期は純利益が前年同月比2.2倍の14億円だった。売上高も469億円と5%増で売上高、利益ともに過去最高となりました。同社の株価も直近で5400円前後で推移していて1年前に比べ33%上昇しています。
JAも参入・関連商品も
新しい取り組みも出てきました。JA全農は今年4月にパックご飯事業に参入。6月には新ブランド「農協ごはん」を打ち出しインターネットで販売しています。パックご飯を引き立てる新しい食品も出てきました。食品メーカーのヤマモリが2月に「パックごはん用まぜごはんの素」を発売しました。今までは、炊飯器で炊く前にコメに混ぜるタイプがほとんどで、パックご飯に混ぜるだけというのは珍しいです。
利便性や安全・安心・高品質が消費者に受け入れられ、日常食としての利用が増加しています。今後も人気が続くとみられています。コメ本体の価格は下がっても、加工したパックご飯の価格は上がるという現象は珍しくなくなるかもしれません。
(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。