2018年8月22日(水)

日の丸半導体 衰退招いた「分業嫌い」の真相
電子立国は、なぜ凋落したか(4)

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2014/8/21 7:00
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 本や雑誌の編集者(=設計者)の最大の仕事は、「読者が何を読みたがっているか」を探り当てることだ。この仕事に大きな装置は要らない。

 印刷(本や雑誌の製造)は装置産業である。大部数の印刷には輪転機が必要だ。そのための投資金額は大きい。

 となれば、印刷における最大のコスト要因は装置(印刷機)の減価償却である。言い換えれば資本コストだ。もう一つ言い換えれば、時間コストである。大金を投資して買った装置が遊んでいる時間、これこそが最大のコストということになる。

 ここから出版社と印刷会社の分業が導かれる。出版社は内容や読者対象ごとに小さく分かれ、印刷は印刷会社に外注する。印刷会社は巨大化し、群小多数の出版社から印刷を受注する。多数の出版社からの受注によって、印刷機が遊んでいる時間を極小化する。

 出版社、すなわちファブレスの設計会社は、印刷機(製造装置)を持つ必要がなくなる。これは減価償却負担が軽くなることを意味する。

 半導体の場合も、ファウンドリを利用するチップ設計者はファブレスになり、製造装置への投資負担を免れる。そうなれば狭い分野の品種に事業を特化して、他社の追随を許さない製品への道を開きやすい。

■減価償却が半導体製造の最大コスト

 製造技術が高度化し、大口径ウエハー(シリコンの円板で、近年は口径30センチが主流)に微細加工を施すようになるにつれ、製造装置は高額になり、半導体製造工場への設備投資は巨額になる。その減価償却が半導体製造における最大のコストになってくる。

 半導体製造工場への巨額の設備投資、これを1社が設計した集積回路の製造だけで償却できるか。マイクロプロセッサー大手のインテルには可能だった。またメモリーの大メーカーであれば、何とかなる。しかし、そのインテルやメモリー最大手のサムスン電子さえ、ファウンドリ事業に乗り出しているのが事実だ。

 ファウンドリは、なるべく多数の会社から設計を受注し、製造ラインの稼働率を上げ、投資の償却を図る。すべての設計者に門戸を開いて製造を引き受ければ、装置の稼働率を上げることができる。個々の製品種別の好不況の影響も小さくなる。

 ファウンドリ事業で世界一の企業はTSMCである。1987年にモリス・チャン氏が創立した。ファウンドリのビジネスモデルを確立するうえで、チャン氏の果たした役割は大きい。

■分業を嫌った減価償却コストへの低意識

 日本の半導体メーカーは、ファブレス‐ファウンドリの分業に、ごく近年まで背を向け続ける。そしてひたすら衰退していく。2000年代の後半からは、さすがの日本企業も統合を維持できなくなり、ファブレスへ向かい始める。

 日本の半導体メーカーが設計と製造の分業に消極的だった理由の一つに、減価償却コストへの意識の低さがある。筆者はそう考えている。

 日本の半導体技術者はランニング・コストには敏感だが、減価償却コストへの意識は低い。技術者の意識の低さを経営者がとがめなかったとすれば、あるいは技術者の意識を高める努力を経営者がしなかったとすれば、減価償却コストへの意識の低さは、企業の体質だということになる。

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