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日の丸半導体 衰退招いた「分業嫌い」の真相

電子立国は、なぜ凋落したか(4)

日経テクノロジーオンライン
日本の電子産業の衰退に歯止めがかからない。特に凋落を一般社会に印象づけたのは、2012年におけるテレビ事業の極度の不振だ。テレビの内需と生産は2010年にピークに達したが、2011年と2012年には壊滅的に急減した。元・日経エレクトロニクス編集長で技術ジャーナリストの西村吉雄氏が、政策・経済のマクロ動向、産業史、電子技術の変遷などの多面的な視点で、電子立国の凋落の真相を解き明かしていく連載「電子立国は、なぜ凋落したか」。第4回と次回(第5回)では、1980年代後半に世界出荷の半数のシェアを誇り、日本経済成長のけん引役だった半導体産業の衰退について検証する。

1980年代後半ごろから電子産業では新たな分業がいくつか発展した。工場を持たないテレビ・メーカーを実現した米ビジオ、米アップルの「iPhone」をめぐるグローバルな分業、そしてパソコンにおける水平分業などが、その例である(図1)。そして半導体産業でも、設計と製造の分業が盛んになった。

ファブレスとファウンドリの分業

1980年代後半から、半導体分野で設計と製造を別々の企業が担うという分業が発展する。半導体工場を持たない「ファブレス」の設計会社と、半導体製造サービスに特化した「シリコン・ファウンドリ」による分業、これが次第に広まる。

なおファブレス(fabless)という言葉は、「fabrication less」から来ている。「製造工場を持たない」という意味である。またファウンドリ(foundry)には本来、鋳物、鋳物工場という意味がある。「鋳物を鋳造するように、シリコンで半導体製品を製造する工場」といったところか。

純粋のファウンドリは、自社ブランドの半導体製品を持たない。その意味で、ファウンドリは製造を受注するサービス業であって、メーカーではない。製品ブランドは発注者(ファブレス設計会社)が持つ。製造工場を持っていなくても、「メーカー」は発注者である。製造者責任も発注者に帰する。

日本の半導体メーカーは、この設計と製造の分業を嫌った。設計と製造を統合した事業形態(IDM:Integrated Device Manufacturer)に最近まで固執し続ける。これが日本半導体産業の衰退の一因、筆者はそう考えている。

ファブレスとファウンドリの存在感大きく

米調査会社のIC Insightsが実施した、ファウンドリも含めた2013年の半導体売上高調査によると、ランキングの1位は米インテルで、売上高は483億ドル(米ドル、以下同じ)だった。

2位は韓国サムスン電子で売上高は344億ドルである。3位は台湾のファウンドリTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co., Ltd.)で、売上高は199億ドル、4位にはファブレスの米クアルコムが入り、売上高は172億ドルである。ファウンドリとファブレスが、それぞれ3位と4位を占めるに至っている。

なお5位には、メモリー・メーカーの米マイクロンテクノロジーが入った。前年10位だったマイクロンのランキング上昇は、日本のエルピーダメモリを買収した効果である。

成長率はファウンドリとファブレスが高く、統合メーカーは低調だった。2012年に対する成長率はそれぞれ、インテルは2%減、サムスン7%増、TSMC17%増、クアルコム31%増である。中期的にもファウンドリとファブレスの成長率が統合メーカーより高いと、複数の調査会社が予測する。これまで統合メーカーだったところが、自社生産を減らし、ファウンドリへの生産委託を増やしている。

さらにパソコンからモバイル機器への市場転換は、インテルの存在感を小さくし、ファブレス企業(特にクアルコム)の躍進につながっている。ファブレスの躍進は当然ファウンドリに有利に働く。設計と製造の分業、すなわちファブレスとファウンドリの組み合わせは、存在感をますます大きくしている。

インテルやサムスンもファウンドリ事業に積極的

半導体メーカー・ランキングの上位2社、インテルとサムスン電子は、設計と製造の統合を基本としてきた。インテルはパソコン向けマイクロプロセッサー、サムスン電子は同じくパソコン向けメモリーの最大手だ。その生産規模によって自社生産ラインの償却が可能だった。

しかし、サムスン電子は大手ファウンドリでもある。IC Insightsの調べによれば、同社の2012年の半導体事業の売り上げの伸びは前年比で4%減だったのに対し、ファウンドリ事業は倍増。世界第3位のファウンドリに躍進する。ただし、2013年には4位に落ちている。それでもファウンドリ事業の成長率は15%で、同社の半導体事業全体の成長率(7%)より高い。

世界最大の半導体メーカーであるインテルも、これからはファウンドリ事業に積極的に取り組むという。純粋な統合メーカー(IDM)は事実上、存在しなくなるということである。半導体産業における設計と製造の分業は、ここまできた。

分業には必然性がある

半導体分野の設計と製造の分業について、筆者の思いは複雑である。自慢したい気持ちと悔しい気持ちとが相半ばする。

集積回路では設計と製造の分業に必然性がある。筆者がこう意識したのは1980年代の前半である。取材の場や学会などで気になることが起こっていた。

集積回路の製造技術に従事している技術者と、同じ集積回路の設計者とでは、興味や関心が、ひどく違ってきたのである。「設計技術者と製造技術者は、もはや文化が違い、コミュニティーが違う」。こんな発言を国際会議で聞いて、この現象を筆者は記事にした。

集積回路における設計と製造の関係は、雑誌の編集と印刷の関係に、よく似ている。このことにすぐに気づいた。筆者自身が当時は出版社に勤務し、雑誌の編集に従事していたからである。

雑誌では、編集は出版社、印刷は印刷会社の分業となっている。その最大の理由は、印刷機の減価償却コストだ。それを巨大少数の印刷会社が担い、群小多数の出版社から印刷を受注して印刷機の稼働率を高め、印刷機への投資を償却する。

集積回路の設計と製造も、同じ形の分業を採用したほうが合理的ではないか。1980年代の半ばには、こう考えるようになる。講演などでも繰り返し、分業の必然を説いた。私がこう主張するようになったのは、TSMCが創業される前のことである。

1980年代の後半になると、集積回路における設計と製造の分業は、世界的に大きな潮流となる。世界の半導体産業は筆者の説く方向に動いていた。以上は一種の自慢話である。

しかし日本の半導体メーカーは、設計と製造の分業を嫌い続ける。「理屈ではあなたの言う通りだと思うよ。でもウチの会社じゃ無理だね」。何人かの半導体メーカー幹部が、私的な席では筆者にそう告げた。私の主張は、日本の半導体経営を動かすには至らなかった。そして日本の半導体産業は衰退していく。

ジャーナリストとしての言葉の力が弱かったせいに違いない。今になって、無念に思う。ここまで日本の半導体産業が衰退すると、さすがに悔しい。その反省を含め、半導体産業における設計と製造の分業を、産業構造の視点から考え直してみたい。

重い投資負担から設計者を解放

設計と製造の分業は珍しくない。建設業、ファッション産業、出版業などにおいて、設計と製造は早くから分業している。既に触れたように、本や雑誌の設計(編集)は出版社が担い、製造(印刷・造本)は印刷会社が分担する。この分業は、半導体における設計‐製造関係とよく似ている(図2)。

本や雑誌の編集者(=設計者)の最大の仕事は、「読者が何を読みたがっているか」を探り当てることだ。この仕事に大きな装置は要らない。

印刷(本や雑誌の製造)は装置産業である。大部数の印刷には輪転機が必要だ。そのための投資金額は大きい。

となれば、印刷における最大のコスト要因は装置(印刷機)の減価償却である。言い換えれば資本コストだ。もう一つ言い換えれば、時間コストである。大金を投資して買った装置が遊んでいる時間、これこそが最大のコストということになる。

ここから出版社と印刷会社の分業が導かれる。出版社は内容や読者対象ごとに小さく分かれ、印刷は印刷会社に外注する。印刷会社は巨大化し、群小多数の出版社から印刷を受注する。多数の出版社からの受注によって、印刷機が遊んでいる時間を極小化する。

出版社、すなわちファブレスの設計会社は、印刷機(製造装置)を持つ必要がなくなる。これは減価償却負担が軽くなることを意味する。

半導体の場合も、ファウンドリを利用するチップ設計者はファブレスになり、製造装置への投資負担を免れる。そうなれば狭い分野の品種に事業を特化して、他社の追随を許さない製品への道を開きやすい。

減価償却が半導体製造の最大コスト

製造技術が高度化し、大口径ウエハー(シリコンの円板で、近年は口径30センチが主流)に微細加工を施すようになるにつれ、製造装置は高額になり、半導体製造工場への設備投資は巨額になる。その減価償却が半導体製造における最大のコストになってくる。

半導体製造工場への巨額の設備投資、これを1社が設計した集積回路の製造だけで償却できるか。マイクロプロセッサー大手のインテルには可能だった。またメモリーの大メーカーであれば、何とかなる。しかし、そのインテルやメモリー最大手のサムスン電子さえ、ファウンドリ事業に乗り出しているのが事実だ。

ファウンドリは、なるべく多数の会社から設計を受注し、製造ラインの稼働率を上げ、投資の償却を図る。すべての設計者に門戸を開いて製造を引き受ければ、装置の稼働率を上げることができる。個々の製品種別の好不況の影響も小さくなる。

ファウンドリ事業で世界一の企業はTSMCである。1987年にモリス・チャン氏が創立した。ファウンドリのビジネスモデルを確立するうえで、チャン氏の果たした役割は大きい。

分業を嫌った減価償却コストへの低意識

日本の半導体メーカーは、ファブレス‐ファウンドリの分業に、ごく近年まで背を向け続ける。そしてひたすら衰退していく。2000年代の後半からは、さすがの日本企業も統合を維持できなくなり、ファブレスへ向かい始める。

日本の半導体メーカーが設計と製造の分業に消極的だった理由の一つに、減価償却コストへの意識の低さがある。筆者はそう考えている。

日本の半導体技術者はランニング・コストには敏感だが、減価償却コストへの意識は低い。技術者の意識の低さを経営者がとがめなかったとすれば、あるいは技術者の意識を高める努力を経営者がしなかったとすれば、減価償却コストへの意識の低さは、企業の体質だということになる。

売り上げと同相の投資、売り上げと逆相の償却負担

図3を見てほしい。この図は国内半導体メーカー12社の、集積回路売上高合計と設備投資金額合計の年次推移である。売り上げが伸びたとき、その当年に設備投資金額を増やす、この傾向が歴然だ。売り上げが落ちると設備投資も減らす。これもはっきりしている。そうするとどうなるか。

その結果が図4である。この図は図3と同じ12社の、売上高合計と減価償却費合計の年次推移である。減価償却負担は、売り上げが減ったときに、しばしば大きくなっている。この状況が何度も見られる。

例えば1985~1986年には、売り上げが急減しているのに、減価償却費は大きく上に膨らんでいる。好況だった1980年代前半(特に1984年)に投資を積み上げ、その償却負担が不況期に重くなってしまったのだろう。設備投資を売り上げと同相で実施した結果、減価償却負担が売り上げと逆相になる、これが頻繁だ。利益は乱高下したに違いない。

「売り上げと同相の投資、売り上げと逆相の償却負担」という構図は、テレビ事業の設備投資でも観察された。減価償却コストへの意識の低さは、半導体産業だけのものではないのかもしれない。ただし、この問題には税制の影響もあった。

定率法では投資初年の減価償却額が大きい。売り上げの大きい年に投資を実施すると、その年の償却額を大きくでき、節税効果がある。この効果を意識すると、売り上げの大きい年に投資したくなる。(続く)

[日経テクノロジーオンライン2014年3月6日付の記事を基に再構成]

西村 吉雄(にしむら・よしお) 技術ジャーナリスト 1942年生まれ。1971年、東京工業大学大学院博士課程修了、工学博士。東京工業大学大学院に在学中の1967~1968年、仏モンペリエ大学固体電子工学研究センターに留学。1971年、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社。1979~1990年、『日経エレクトロニクス』編集長。その後、同社で発行人、編集委員などを務める。2002年、東京大学大学院工学系研究科教授。2003年に同大学を定年退官後、東京工業大学監事、早稲田大学大学院政治学研究科客員教授などを歴任。現在はフリーランスの技術ジャーナリスト。著書に『硅石器時代の技術と文明』『半導体産業のゆくえ』『産学連携』『電子情報通信と産業』など。
[参考]日経BP社は2014年7月14日、電子書籍「電子立国は、なぜ凋落したか」を発行した。かつては世界を席巻し、自動車と並ぶ外貨の稼ぎ頭だった日本の電子産業の凋落ぶりがすさまじい。その真相を、元日経エレクトロニクス編集長で技術ジャーナリストの西村吉雄氏が、多面的な視点で解き明かす。

電子立国は、なぜ凋落したか

著者:西村 吉雄
出版:日経BP社
価格:1,944円(税込み)

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