余計な一言を「好かれる言葉」に変える25のフレーズ

気を使ったつもりが、みるみる相手が不機嫌になってしまった覚えはありませんか? 自分でも無意識のうちに使っている言葉を見直し、人間関係を円滑にするスキルを教えます。
「マイナス口調」の常態化で損をしている人が多い
相手を傷つけないようにやんわり伝えたり、回りくどく理由を述べたり──実はこの日本特有のコミュニケーションでは、「言いたいことが全く相手に伝わらず、お互いにストレスがたまるだけ」と、産業カウンセラーとして2万人以上に指導してきた大野萌子さんは言う。「コミュニケーションの基本は言葉。職場でも家庭でも、自分の気持ちを『率直』かつ『穏やか』に伝えるのがポイントです」。
また、無意識のうちに「マイナス発言」が習慣化し、損をする人も多いので気を付けたい。例えば、誰かを褒めるときに「『やれば』できる」「『今日は』調子がいいね」と余計な一言があるとそれが嫌みになったり、ハラスメントになったりしかねない。「私たちは自分を日本語の自由な使い手だと思っていますが、実はそうではない。特に習慣は恐ろしく、批判的・否定的なニュアンスを含む言葉でも、繰り返し使ってしまう。今日からちょっとした言い換えを意識して、人間関係が良くなるトレーニングを重ねましょう」。

「挨拶」編 その人の第一印象を決める
×仕事は順調?
○最近、どう?
「はい」か「いいえ」を促す質問で問い詰めない
「はい」か「いいえ」の2択しかない質問は、相手を追い詰めるクローズドクエスチョン。「どう?」というオープンクエスチョンなら、聞かれたほうも答えやすく、場も和む。
×大変ですね
○仕事が忙しいんですね
「大変」は薄っぺらい同情に捉えられがち
物事の大変さは当事者にしか分からない。「相手が『仕事が忙しくて大変』と言うなら、『仕事が忙しいんですね』と発した言葉を繰り返すほうが、気持ちに寄り添えます」。
×連絡がなかったから心配していた
○久しぶりに連絡をもらえてうれしい
相手を責めずに、自分の気持ちを伝えて
「連絡がなかった」と言われると、相手は責められているように感じる。それよりも「連絡をくれてありがとう」「うれしい!」と感謝の言葉を伝えるほうが、気持ち良く話せる。
「お願いごと」編 気持ち良く引き受けてもらうために
×ちゃんと しっかり 徹底的に
○この作業はここまでやってください
曖昧な表現は危険! 具体的に伝えて
「ちゃんと」「しっかり」「徹底的」では、「何をどこまでやるか」が伝わらない。「これも、『後で』と同じ危険な言葉。具体的な内容や数値を示して、行き違いを防いで!」。
×できれば早めにお願いします
○月末までにお願いします
時間や期日をしっかり明示
「できれば早め」は今日中か、今週中か(人によっては今月中という場合も!)、受け取り方が違う。「期日を示し、『難しい場合はご相談ください』と言うほうがスマート」。
×それはしないでください
○それはこうしてください
お願い事は否定形でなく「肯定形」で
人は「否定形で指示される」より、「肯定形で依頼される」ほうが気分良く動ける。「否定形でばかり話していると、ネガティブな印象を与えて自分の好感度が下がりますよ」。
気を使ったつもりで「できれば」と言うと、相手が「できないなら、やらなくていいんだな」と、勝手に優先順位を下げてしまう場合が。頼み事は、締め切りを確実に伝えよう。
「断り方」編 意志をはっきり+代案を提示
×私には無理です
○私にはまだそのスキルがないのでできません
できないアピールに終始しないで
できない理由は具体的に説明を。無理アピールを頻発していると、「そんなことないよ」と言ってもらいたい「かまってちゃん」だと思われ、仕事を任せてもらえなくなるかも。
×できればやりたいのですが
○都合が悪いためできません
断る際は素直に 余計な一言に注意
やんわり断ったつもりでも、相手からは「やりたいならやってよ」と憤慨される可能性も。「『その日は別の約束があって』も失礼。断るときは素直かつ率直に、がベスト」。

×今ちょっと忙しいので
○今週は厳しいのですが、来週でしたら
いつまでならできるかを明示して
仕事を断るときは、「いつなら可能か」の代案を示すと、相手も気分を害さない。「いつも断ってばかりいると『やる気がないんだな』と思われて、信頼を失ってしまいます」。
つい使ってしまう言葉だが、「あなたのための時間はありません」と言っているようなもの。「いつなら可能か」「何ならできるか」を伝えて、フォローするように心がけよう。
「気遣い」編 過剰な気遣いはかえって迷惑になることも
×なんでも聞いて
○「●●」で分からないことがあれば聞いてください
「なんでも」は、何を聞けばいいのか分からない
「なんでも」と言うと、人によっては「何も」聞けなくなったり、逆に「そんなことまで」聞いてきたりする場合が。「漠然とした『なんでも』より、範囲を指定したほうが親切」。
×それはがっかりですね
○そんなことがあったんですね
マイナス言葉の一言でまとめない
「がっかりですね」「最悪ですね」は共感ではなく、相手の傷口に塩を塗る言葉。「『そんなことがあったんですか』と、相手をそのまま受容するのが真の気遣いです」。
×私のことは気にしないでください
○皆さんの意向に合わせます
謙遜のつもりが、自分アピールに
「私のことはいいから」は、裏を返した強烈な自己アピールと取られかねない。他意なく、本当に決定権を委ねたいなら「皆さんの意向に合わせます」と伝えたほうが親切。
「褒め方」編 やる気もアップする言い方をマスター
×さすがだね
○「●●」がよかった、さすがだね
具体的な理由を付けなければ逆効果
褒めたつもりでも「さすが」「すごい」を多用すると、お世辞やご機嫌取りに聞こえる。「何が『さすが』で『すごい』のか具体的に言わないと、相手はイラッとしますよ」。
×やればできるじゃない
○土壇場に強いね。おかげで助かったよ
褒めるときは感謝の気持ちをストレートに
「やれば」と言うと、「普段はたいしたことがないのに」というニュアンスがにじみ出てしまう。「褒めるなら素直に、そして自分の感謝の気持ちも相手に伝えましょう」。
×それでいいんじゃない
○とてもいいと思うよ
改善点があるなら褒め言葉の後に
「実は人のモチベーションを下げる言葉。改善点があるなら褒めてから具体的に話して。『自分はダメだから、そんな言い方しかしてもらえない』と、逆に自信をなくしてしまうので、注意して」
「返事」編 自分の感情に流されすぎずに応答を
×要するに何が言いたいの?
○一番言いたいことは何?
話す内容に優先順位を付けてもらう
話が長い相手にイライラして、つい言ってしまいがちだが、関係が悪化するだけ。「一番言いたいことは何?」「10分程度で説明して」と最初に提案するのが、お互いのため。
×なるほど、なるほど
○そうなんですね
「なるほど」の連呼は人ごとのように思われる
相づちに便利な「なるほど」は連呼するほど、上の空のような印象に。「『なるほど』よりも、『そうなんですね』のほうが相手への共感が生まれ、誠実な印象を与えられます」。
×分かる分かる
○(あなたは)そう思ったんですね
「同感」ではなく、「共感」の返事をする
安易に「分かる」と同感を示すと、相手に依存される心配が。「同時に、依存されると、相手の『どうして分かってくれないの』といった攻撃対象にもなりやすいので要注意。共感の返事を心がけて」。

「自己主張」編 相手を尊重する気持ちを忘れずに
×それはやめたほうがいい
○こういう理由で私はこうしたほうがいいと思う
人に押しつけるだけに終始しない
親切のつもりでも、「やめたほうがいい」という断言は主観の押しつけ。「〇〇だから、私はこうしたほうがいいと思う」なら自分の意見となり、余計なお世話と思われない。
×こんなこと言いたくないんだけど
○気になっているので伝えておくね
相手が素直に耳を傾けるフレーズをマスター
威圧感があり、相手を見下した言い方はパワハラになりかねない。「本当に忠告したいなら、相手が素直に聞けるように『気になっているから』『相談して』と、明るく伝えて」。
×私はそんなこと言ってません
○私はこのように認識していました
トラブル解決には「言い訳」ではなく「説明」を
トラブルの際はお互いに自分が正しいと思い、「言った」「言わない」の話になりがち。「『言ってません』と開き直ると、言い訳に聞こえます。きちんと事実関係の説明を」。
自分の正当性や潔白を証明したいあまり、「私は言っていない」などと言うのは、相手に責任転嫁しているに等しい。「お互いの事実関係を把握し、冷静にトラブルに対処して」。
×結局、こういうことですね?
○こういう理解でいいでしょうか?
話の途中で強制終了させない
人の話を遮って、「結局」でまとめるのは、「話が長い」「要点が分からない」と言っているようなもの。「話をまとめるなら、『こういう理解でいいですか』という確認に」。
話が長い人には、「結局」などと言いがちだが、これは上から目線の言葉。自分の解釈が相手の意図と違うかもしれず、話を強制終了された側には、フラストレーションもたまる。
「注意」編 ハラスメントにもつながりやすい
×こうするべきだよね
○こうしてください
「べき論」を振りかざさない
「〇〇すべき」は主観の押しつけだけではなく、パワハラ、モラハラになりかねない。「べき論は言った本人も追い詰めます。〇〇してくださいと、穏やかに伝えるのが賢明」。
×なぜ連絡してくれなかったの?
○困っていたから連絡してほしかった
自分視点のメッセージを
「なぜ」には、相手が自分の思い通りにならない怒りが含まれる。「高圧的に出ると相手を傷つけ、反対に逆ギレされる恐れも。自分はどうしてほしかったかを素直に伝えて」。
×やる気あるの?
○パフォーマンスが低いように見えるけど、何か困っている?
気遣いは自分の視点で
たとえ相手にやる気がないのが事実だとしても、責める口調は逆効果。先に「パフォーマンスが低い」という事実+次に「困っている?」という自分の感情を伝えて、気遣いを示そう。
この人に聞きました

(取材・文 三浦香代子)
[日経ウーマン 2021年4月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。