再生エネでウナギ養殖 地域活性化へ農林業も連携 - 日本経済新聞
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再生エネでウナギ養殖 地域活性化へ農林業も連携

再生可能エネルギーと農業などの1次産業を組み合わせ、地域経済を活性化させる――。こうした企業の取り組みが広がってきた。京セラやオリックスなどは長崎県の五島列島で、畜産業と組んだ大規模太陽光発電所(メガソーラー)開発の検討に入った。新電力のエナリスは大分県佐伯市で漁業や林業と一体化したバイオマス(生物資源)発電所を建設する計画だ。

太陽光パネルの下で牧草を耕作

長崎県佐世保市、五島列島の宇久島。人口2000人の離島を舞台に、総投資額1500億円と見込まれる壮大なプロジェクト構想が動き出した。世界最大級となる発電能力43万キロワットのメガソーラーを建設し、九州本土への送電のため、全長60キロメートルの海底ケーブルも敷設する計画だ。

京セラ、オリックス、九電工が共同で運営会社を設立し、ドイツのフォトボルト・デベロップメント・パートナーズ(PVDP)も出資を検討する。事業化のゴーサインが出れば、2015年度に着工する予定だ。

実はこのプロジェクトの最終的な狙いは「島おこし」にある。パネルの下で畜産農家らが飼料用の牧草を耕作できるようにする。産業に乏しく、深刻な少子高齢化の悩みに直面する宇久島。農家らが土地の賃料に加え、農業収入を得られるようにし、畜産業を活性化することで、若い世代も魅力を感じる島をつくろうという構想だ。

「島おこしをという地元の願いに応えたかった。大義があるプロジェクトがしたい」。最大出資を検討する京セラの幹部はこう語る。

地元の間伐材使うバイオマス発電所

同じ九州の大分県佐伯市でも、1次産業との融合を狙う発電プロジェクトが動き出す。"仕掛け人"は新電力のエナリス。地元の林業、漁業、農業と融合した再生エネ発電所群を建設し、ウナギ養殖という新たな産業を育てる構想を温める。

地方交付税交付金が切れるとなると、地元経済は回らない。エナリスに大いに期待している」。佐伯市の地元に流れる番匠川漁業協同組合の三浦渉代表理事組合長が語る。佐伯市の市議会議員でもある三浦氏は地元経済の低迷に頭を悩ませてきた。そこに舞い込んできたのがバイオマス発電所の建設計画だった。

エナリスの歩み
2004年12月有限会社エナリス設立
07年12月新電力業務代行事業を開始
08年4月エナリスホールディングス設立
10年4月グリーン電力取引業務代行事業を開始
11月電力卸取引事業を開始
12年12月エネルギー管理コンサルティングのイーキュービックを吸収合併
12月バイオマス発電ファンドのフォレストキャピタルを子会社化
13年10月東証マザーズに上場
14年2月新電力の岩手ウッドパワーに出資、子会社化
2月バイオマス発電の一戸フォレストパワーを共同出資で設立
3月日本エネルギー建設を完全子会社化
6月電力一括受電事業の日本電力を子会社化

アユ養殖で有名な番匠川。天然のニホンウナギも生息しているという。ニホンウナギは6月に国際自然保護連合(IUCN)から絶滅危惧種に指定され、国際取引が制限される可能性が高まっている。養殖に参入できれば、地域の柱となる産業に育つ可能性がある。

「これまではみんな、東京に利益を持っていかれていたからね。地元に利益を落とそうとするエナリスに、みんな魅力を感じている」と、三浦氏は話す。

エナリスは16年4月の稼働を目指し、再生エネ発電所群を建設する予定。中核となるのが発電能力2500キロワット程度の中規模のバイオマス発電所だ。このほか、太陽光発電所を2000キロ~5000キロワット、番匠川の川の流れを活用する小水力発電所を4~5カ所程度、計1000キロワット規模でつくる計画だ。

バイオマス発電の燃料は、地元の林業で森林整備の際に発生する間伐材を利用する。発電所の冷却で生じる温水はウナギの養殖や農業に、発電所の焼却灰も農業に利用する。さらに、太陽光発電所は農地の上の空間につくる。ポールを立てて架台を組み、その下で花を育てる計画だ。地元に発電事業を束ねる新会社をつくるほか、地元森林組合や漁協も事業に組み込む。

電力料金、九電より5%程度安く

こうした再生エネ発電所の建て方は、エナリスでも初の試み。エナリス側にもこうしたビジネスモデルが必要な事情があった。現地に建設できるバイオマス発電所の規模は中規模がせいぜいで、大型に比べて利益は出しにくい。しかし、地元業や複数の発電所と組み合わせることで、全体として利益を出せることになる。

発電した電気はエナリスが買い取り、地元事業者に小売りする。電力料金は九州電力よりも5%程度安くする。地元にとっては環境に優しい再生エネを使うとともに、電気代も削減できるという電力面でも一石二鳥の効果がある。

国内では再生エネ開発ブームにより、大規模な発電所の適地が既に不足している。離島には土地が残るが送電網をどう確保するかが課題。一方、小規模な発電所は事業性が低く、採算性をどう確保するかが問題となる。地元の1次産業と組み合わせることで副次的な効果を生み出し、産業活性化につなげようとする構想はその一つの解になる可能性を秘めている。

(企業報道部 弟子丸幸子)

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