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ITで強まる家族の絆 三井不動産の近未来住宅

今すぐ使えるIT(情報技術)をフル活用して、新しい住宅の姿を模索する動きが活発になっている。マンション販売の三井不動産レジデンシャルは、家族の団欒(だんらん)や近所付き合いを劇的に変えるコンセプト住宅をこのほど開発した。

仮想人格を持った家と会話しながら自宅周辺で人気のレシピで料理したり、20年前の食卓の風景を瞬時に映像で振り返って親子でおしゃべりしたり――。いずれも、エネルギーをまかなう「スマートハウス」など効率に重きを置いたこれまでのITの使い方とは一線を画すアイデアばかりだ。中長期的に市場の先細りに悩みを抱える住宅業界だが、新風を吹き込めば需要喚起に結びつく可能性もある。

長男の成績と夕食メニューの相関関係は?

 家「夕食のメニューでお困りのようですね」
 母「そうなのよ、暑くてみんな食欲ないから困っちゃうわ」
 家「去年も同じことを言っていましたね。あ、長男の和也くんはあす塾でテストがあるんですね。過去の1年間のデータを分析すると、前日夜のメニューがカレーならテストの点数が上がっています。カレーにしてはいかがですか」
 母「そんなこと知らなかったわ。じゃあ、カレーにしましょう。ただ何か新しい味付けにチャレンジしたいわね」
 家「『チキンバターカレー』はどうですか? 天才主婦の名をほしいままにしている802号室の平沢さんの奥さんのレシピですよ。作り方を投映しますね。はい、どうぞ」
 母「タマネギ1玉、バター16グラム……。これなら簡単に作れそうだわ」
 家「では、作り方を順番にご説明しますね」

これは、三井不動産レジデンシャルのコンセプト住宅で体験できるワンシーンだ。想定しているのは2020年のあるごく普通の家庭。キッチンの天井にはスピーカーとマイク、プロジェクターが埋め込まれていて、「家」が住人に語りかけながら、必要なデータやイラストなどを投映して紹介してくれる。

家や家族に関するデータはクラウド上に保存する仕組み。過去に作った料理や家族それぞれの趣味、子どものテストの点数など、ありとあらゆるデータが対象だ。このデータを基に「家」があたかも知能を持ったごとく、家族の今後の行動について様々なアドバイスをしてくれる。

三井不動産レジデンシャル市場開発部主管の川路武氏は、コンセプト住宅の開発に乗り出した狙いをこう説明する。「あらゆるものがネットにつながる『IoT(インターネット・オブ・シングス)』。その力を住宅メーカーも無視できなくなってきた」。IoT化した未来の世界では、パソコンやスマートフォン(スマホ)だけでなく身の回りにある家電や機器などもネット接続され、人々の生活を変える。これまでの単に雨露から住人の身を守り快適に過ごせればよかった住宅の役割が、大きく変わろうとしている。

開発にあたって三井不動産レジデンシャルは斬新なネットサービスを次々と世に送り出すベンチャーのカヤック(神奈川県鎌倉市)の門をたたき、協力を仰いだ。マンションデベロッパーとして「ハード」のノウハウにたけていても、IoTのようなソフトのノウハウは自前で持っていないためだ。

カヤックは三井不動産レジデンシャルが持ち込んだアイデアを下敷きにして、「SFではなく、日常に溶け込める仕組み」(深津康幸ディレクター)を目指しITを総動員して具現化すべく知恵を絞った。

20年前の食卓の光景が目の前に再現

こうして完成したコンセプト住宅には、家との会話以外にも大胆な工夫がいくつもある。例えばキッチンに置かれた3Dプリンター。カレーに添えるご飯の型枠を、子どもが3Dプリンターで作れるようにした。「キッチンは1日3回、無から有を生み出す場所」(川路氏)。親と料理をもっと一緒に楽しんでもらうには、工作の概念をキッチンに持ち込むのが最適だと判断した。

食卓を囲むダイニングルームに置かれた、ごく普通の6人掛けのダイニングテーブル。ここにも大胆な仕掛けがある。天井にカメラとプロジェクターが取り付けられており、食卓の様子を常に撮影すると同時に、過去の夕食などの写真を瞬時にクラウドから呼び出してテーブルに映し出せるようにした。

もし20歳になった娘の誕生日なら「3歳を迎えた日の朝食」「7歳になった日の夕食」といった具合に、日付を指定して食卓の光景を映像と音で再生して振り返ることができる。「あなたはこのころ離乳食を全く食べなかったのよ」「この日はその年一番の暑さで食が進まなかったなぁ」など家族の会話が盛り上がりそうだ。「家族間のつながりが一層強まる」(三井不動産レジデンシャル)

テーブルの横に置かれた80インチのディスプレーも、映像を映す以上の機能を持ち合わせている。カメラやマイクを駆使して、ネットを通じて遠隔地にいる家族や友人・知人と深い交流ができるのだ。

デモでは長女の誕生日の食卓に、田舎に住む祖父・祖母を仮想的に招く様子を披露。祖父・祖母は近所で買ったバースデーケーキを自分の家のディスプレーの前にセット。その様子が長女側の食卓に映し出されたら、長女にケーキのろうそくの火を消すよう促す。実際にディスプレーに向かって息を吹きかけると、マイクが検知し祖父・祖母側にその情報が届く。一定以上の音量に達すると、祖父・祖母側のディスプレーにつながった扇風機が回り始める。結果としてろうそくの火が消えるというわけだ。

気分に合わせて扉が開く音が変わる「オトノナル扉」も今までにない暮らしを実現してくれるもの。例えば、子どもから成績が良いとの連絡を受けたら、帰宅時に明るい効果音を再生してお祝い。いつも外でお酒を飲んで帰宅が遅い夫なら重苦しい効果音で警告するなど、新たな交流ツールの一つとして提案している。

五感を駆使して家の中で家族がふれ合う日々が当たり前になれば、「家族とのコミュニケーションの形はがらりと変わる」(三井不動産レジデンシャル)。ITを単なる効率化の道具ではなく、幸せを創造する道具に使いたいと考えた末に出てきたアイデアは、どれもこれも興味深いものばかりだ。

川路氏は「スマホは登場から約6年で世帯普及率が5割を超えた。未来を先取りした我々のコンセプト住宅も、6年後の2020年時点で住宅のスタンダードの座を奪取できるはず」と自信を示す。コンセプト住宅は同社のショールーム「パークホームズイマジネーションミュージアム」(東京・中央)で一般の消費者にも披露し、その反応を調べ今後の販売などを考えていくという。

少子高齢化が進み団塊ジュニアの住宅購入のピークも過ぎた今、住宅市場の先行きは暗い。野村総合研究所によると、バブル期に170万戸弱あった新設住宅着工戸数は、ここ数年は90万戸で推移。25年には62万戸まで落ち込む見通しだ。住宅メーカーはここに来て、HEMS(家庭向けエネルギー管理システム)を取り入れたスマートハウスなどITと住宅のかけ算に余念がない。ただハード面だけでは差異化が難しくなっているのも事実。三井不動産レジデンシャルのように、ソフト面でも磨きをかけ新たな生活の姿を提案ができるかどうか。各社が腕を競い合えば20年、東京五輪に熱狂している日本の家族は今まで以上に幸せな日々を送ることができているのかもしれない。

(電子整理部 鈴木洋介)

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