TikTok日本GM「大きな波が来るのはこれから」
TikTok Japanゼネラルマネージャー 佐藤陽一氏
TikTokの日本における運営をけん引するのは、ゼネラルマネージャーの佐藤陽一氏だ。Google、マイクロソフトなどに在籍、メディアやテクノロジー業界で30年近くの経験を重ね、2020年1月に現職に就任した。直後に新型コロナウイルス禍が日本を襲ったが、この1年半、TikTokはその特性を生かし、順調に成長しているという。

「TikTokはショートムービープラットフォームであってSNSではありません。SNSは友人などとの交流を楽しむのが主な目的ですが、TikTokはそれがなくても楽しめるサービス。例えば一般的なSNSのフィードには友人やフォローしている人の投稿が表示されますが、TikTokのフィードには『おすすめ』と『フォロー中』との2つがあり、圧倒的に多くの人が見るのは『おすすめ』のほうなんです。TikTok独自のレコメンドシステムによりその人の趣味嗜好に合った動画が出てくる。それを見るだけでも楽しめるプラットフォームです。
投稿する場合も同じです。一般的なSNSの投稿は基本的にフォロワーにしか表示されませんが、TikTokではいきなり一定数の人たちの『おすすめ』フィードに表示される仕組みを用意しています。この仕組みにより、最初に投稿した動画がいきなり100万回以上再生されることも珍しくありません。
投稿される動画が、日常の延長で『等身大』なのも大きな特徴。例えば、TikTokでグルメの特集をすると、フレンチやイタリアンだけでなく、ラーメン屋や焼鳥屋などの動画がたくさん出てくる。非日常もすごく大事ですが、普通の日常にハレの日なんてそうあるものではない。TikTokにもハレの日の動画はたくさんありますし、再生回数や『いいね』も伸びますが、その一方で部屋の中から一歩も出ないで撮った動画も人気となる。この許容力や幅広さもTikTokの魅力の1つです。
コンテンツのジャンルが多様化するとともに、面白い動画も増えています。現在はユーザー数はもちろん、ユーザー1人当たりの視聴時間も伸びています。1年前は52分だった1日の平均視聴時間が、現在は62分と10分間増えました。TikTokの動画は短いですから、それだけ多くの動画を見ていただいていることが分かります」
ライブは近さが強み
「TikTokはSNSではない」という佐藤氏だが、YouTubeが「YouTubeショート」をスタートするなど、他のSNSは競合するサービスを始めている。TikTokもライブ機能や配信者の収益化、コンテンツの拡充など次の手を投入している。
「TikTok LIVEにはプロがつくるPGC(Professional Generated Content)の配信と、一般のクリエイターによる配信があり、それぞれで使われ方は異なります。TikTok LIVEは動画投稿と組み合わせることでより多くの視聴につながるので、PGCにはライブの前後に動画投稿を活用してもらうことなどをご提案しています。
プロのアーティストのライブでは、『近さ』をアピールできることが1つの強みだと感じています。例えば、今年7月に行われた平井大さんのライブでは、ギター1本で聴かせる、例えるならバーで生歌を聴かせてもらっているような醍醐味がありました。
一方で、TikTokクリエイターの皆さんとのコミュニケーションツールとしてTikTok LIVEを使ってもらおうという試みも進めています。LIVEに関しても、TikTokならではの使い方があるはずだと考えています。
収益化に関しては8月6日からチケット制の『TikTok Gated LIVE』がスタートしました。チケット制といっても有料でも無料でも対応できます。いろいろな使い方が考えられると思いますが、今年3月に開始した『TikTok LIVE Gifting』(投げ銭機能)に加えて、直接マネタイズできる手段を拡充していきたいと考えています。
ライブ以外にも、動画を投稿してくれる人へ報いる方法は考えていきたいですね。すでに運用しているのは、企業広告とクリエイターをつなぐ『TikTok Creator Marketplace』というシステム。TikTokは自身が投稿した動画に広告が配信されて収益を得る仕組みは導入していませんが、投稿者がマネタイズできる仕組みは今後も広げていきたいと考えています。
今年の7月には動画の長さを最長3分にまで延ばしました。これはニュースや教育系の動画が増え、もっと丁寧に説明したいケースも出てきたからです。今後も短尺動画が中心であるのは変わりませんが、『1分より少し長い動画であっても、意味があるのなら、そのままあげてもらえるのは重要じゃないか』と。
他の動画プラットフォームとの違いは動画の長さよりも、縦長か横長かという点が重要だと考えています。縦長の動画なら、スマホを出してすぐに見られる。他のプラットフォームも縦長に参入しているのは、ショートムービーと縦長動画が密接に結び付いていることの表れだと思います」
TikTokで映画に挑戦
ショートムービーのフォーマットで表現できることはまだまだあると佐藤氏は語る。エンタテインメント分野への拡大にも意欲的だ。
「例えば食事に行ったとき、ある年齢以上の人たちは写真を撮りますが、若い方の多くは動画を撮ります。動画に対する距離感が圧倒的に違う。ただそれは若いから特別なのではありません。大人だって慣れてくれば動画のほうが面白いと感じるようになるんだと思います。本当に大きな波が来るのはこれからです。
短尺動画の可能性はとても大きいと感じています。単なる長尺動画のダイジェストでもない。小説でも長編小説と短編小説はまるで違いますよね。マンガも長編と4コマでは構成から違う。面白い短尺動画を作るなら、最初から短尺としてオリジナルを作る必要があります。実際、人気クリエイターたちは、少しでもクオリティーをあげるため、どこでコンマ1秒を削るかを真剣に考えています。
先ほど『許容力と幅広さがTikTokの特徴』と話しましたが、同じ意味でハイエンドにもローエンドにも振れるとも考えています。
ハイエンドに挑んだのが、『TikTok TOHO Film Festival2021』です。多くの人が映像表現の最高峰と思っている『映画』にTikTokを近づけたらどうなるのか、というところから生まれた挑戦です。TikTokクリエイターが監督をつとめた縦型映画『幸ト音(さちとおと)』という企画もあります。映画の撮影をすべてスマートフォンだけで行った作品なんですが、これがいいんですよ。ぜひ見てほしい。
それと同時に、投稿のハードルも下げていきたいと考えています。日本は海外に比べて、自分で投稿せずに動画を見るだけの"ROM(Read Only Member)"の人が多いというデータもあります。投稿するのは若い方の方が多い傾向にありますが、ROMの方は40代も珍しくなくなっている。エフェクト機能などで投稿のハードルを下げて、動画ネーティブではない世代の人がVlog的に投稿できるような仕掛けも作っていきたいと思っています。
今後力を入れたいコンテンツの1つとして、日本の強みであるアニメやマンガに注目しています。ただこれらに関しては一気にできるものではない。TikTokで使うことのできる音楽に関しては、著作権などの権利をすべてクリアしていますが、アニメやマンガに関しても権利関係をクリアにしながら進めていくつもりです。新作だけではなく旧作のマンガでもいいと思うんです。アニメやマンガの旧作は、プロモーション手段が少なくなっているので、素材を提供できれば様々な二次創作が生まれ、それがバズることで絶対にオリジナルを見たくなる。電子コミックは旧作がけん引したと言われていますが、それと同じことができるはずだと考えています。突破口はそこだと思うので、ご賛同いただける作家さんや作品、権利元を徐々に増やしつつ、じっくり取り組んでいきます」
(ライター 鈴木朋子)
※日経エンタテインメント! 2021年10月号ではTikTokの人気の理由を探る特集『TikTokのショート動画革命 』を掲載しています。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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