スマホ料金プランが過熱 大手990円、MVNOは通話半額
佐野正弘のモバイル最前線
2021年2~3月にかけ、大手携帯電話会社が従来より安価な新体系を打ち出し、大きな注目を集めたスマートフォン(スマホ)の料金プラン。それから半年あまりたった現在、再び料金を巡る動きが過熱し始めている。主戦場は小容量・低価格の料金プランだ。
UQ mobileは単身者の「1000円切り」を実現
まず月当たりのデータ通信量は3ギガバイト(ギガは10億、GB)前後と非常に少ないが、1000円を切る低価格プランに携帯大手が乗り込んできた。
NTTドコモの「ahamo(アハモ)」に代表される携帯大手のオンライン専用プランは、月額3000円弱で月20GBの高速データ通信ができるのが売りだった。だが、実際にそこまで大量のデータ通信を行うユーザーはそれほど多くなく、より小容量でさらに料金が安いプランの拡充が求められていた。
そうしたニーズに応えるため、携帯大手が小容量・低価格の料金プランを強化している。その一つが、KDDIのサブブランド「UQ mobile」に9月2日から追加された割引サービス「自宅セット割」だ。

これは同社の一般家庭向け電力サービス「auでんき」や「UQでんき」、あるいは「auひかり」やKDDIの提携先固定ブロードバンド回線に加入しているユーザーおよびその家族に対し、UQ mobileの通信料を毎月638~858円値引きするというもの(固定ブロードバンドによる割引は11月より提供開始予定)。9月2日から提供される「くりこしプラン +5G」に適用できる。最も安い通信量3GBの「くりこしプランS +5G」に適用した場合、料金は月額990円と1000円を切る。
UQ mobileの「自宅セット割」の料金水準は、ソフトバンクがサブブランド「ワイモバイル」で提供する「家族割引サービス」に近い。家族割引サービスは家族で複数の回線を利用すると2回線目以降の料金を月額1188円値引くサービスで、通信量3GBの「シンプルS」(月額2178円)に適用した場合、やはり月額990円で利用できる。
だが、ワイモバイルの家族割引サービスは家族で複数の回線を契約することが必須で、割引が適用されるのは2回線目以降に限られる。これに対してUQ mobileの自宅セット割は指定の電力サービスや固定ブロードバンドサービスに加入していればよく、単身者も利用しやすい。
これまで携帯各社は、家族契約を前提とした割引サービスに力を入れてきたが、単身者は長らく「蚊帳の外」に置かれていた。それだけに電力サービスとの併用で、1人でも利用できる自宅セット割は注目に値する。
ソフトバンクLINEMOからも「1000円切り」プラン
もう1つ大きいのは、携帯大手のオンライン専用プランから小容量・低価格のプランが出てきたことだ。ソフトバンクが「LINEMO(ラインモ)」において7月15日から提供を開始した「ミニプラン」である。
LINEMOはこれまで、他社のオンライン専用プランと同じく通信量20GBの「スマホプラン」(月額2728円)だけを提供してきた。ミニプランでは通信量を3GBと抑える代わりに、月額990円と1000円切りをなし遂げた。

3GBで1000円切りという料金プランは、既に多くのMVNOが提供している。ただ携帯大手各社から回線を借りるMVNO(仮想移動体通信事業者)は、どうしてもネットワークの道幅(帯域)が狭く、多くの人が同時に利用する昼間から夕方にかけては通信速度が落ちやすい。
これに対してLINEMOの回線品質はソフトバンクと同じなので、ミニプランであっても混雑時の通信速度が落ちにくい。加えてミニプランは、従来のLINEMOと同じく、LINEのトークや通話などを利用したときの通信量をカウントしないので、優位性はさらに高まる。ただしLINEMOはミニプランでも店頭サポートは受けられない。

「通話料半額」がMVNOの新たな武器に
こうした携帯大手の動きを受けて、小容量・低価格の料金プランを得意としていたMVNOも対抗策を打ち出している。その一つはエイチ・アイ・エス子会社のHISモバイル(東京・港)が6月28日に開始した新料金プラン「格安ステップ」である。
格安ステップは音声通話付きのプランであれば、月当たりの通信量が1GBのプランで月額590円、3GBのプランで790円と非常に安価に利用できる。10GBのプランでも月額料金は1790円で、いずれのプランも1GB当たり275円で通信量の追加が可能だ。

格安ステップはデータ通信だけでなく、音声通話も安価に利用できる。国内音声通話料金は30秒当たり11円とUQ mobileやLINEMOなどのサービス(30秒当たり22円)の半額。専用アプリを使う必要もなく、スマートフォン標準の通話アプリで通話できる。

HISモバイルのように音声通話料を下げるMVNOはほかにもある。MVNOサービス「イオンモバイル」を提供するイオンリテールは8月12日、音声通話付きプランを10月1日から一律で月額220円値下げすると発表した。同じく10月1日から専用アプリを使わなくても国内通話が30秒11円で利用できる仕組みを提供する。

イオンモバイルは21年11月をめどに、月額1650円で音声通話がし放題になる「イオンでんわフルかけ放題」を提供することを表明している。ほかにもソニー子会社のソニーネットワークコミュニケーションズはMVNOサービス「nuroモバイル」で、21年内に専用アプリを使うことなく30秒11円の音声通話ができるサービスを提供すると発表している。これまで音声通話サービスがあまり充実していなかったMVNOが、この分野を急速に強化しているのは興味深い。
音声通話を「あまりしない」という人は確かに増えている。一方で「全くしない」という人もほとんどいない。にもかかわらず、携帯電話の音声通話料は「30秒22円」で高止まりしていた。通話定額サービスが必要なほどではないが、そこそこ音声通話をする人には、これらMVNOのサービスも選択肢の一つとなるだろう。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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