IoT時代のビジネスモデル、外部の知恵も活用を
校條 浩(ネットサービス・ベンチャーズ マネージング・パートナー)

2014/8/3 7:00
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今年1月、創業4年のベンチャー企業、米ネストが米グーグルに32億ドル(約3200億円)で買収された。ネストは家庭用の温度コントロール(サーモスタット)を開発している。米国の家庭は一般的にセントラルヒーティングで、どの家にもサーモスタットが壁に付いている。とはいえ、こんな枯れた分野のベンチャー企業に何故グーグルは3200億円の値を付けたのか。

■狙いは「家庭内の場所取り」と「データ収集」

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。米ベンチャー企業への投資と日本企業へのコンサルティングを手掛ける。2002年より現職。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。米ベンチャー企業への投資と日本企業へのコンサルティングを手掛ける。2002年より現職。

今までのサーモスタットは、1週間分の室温設定のパターンをプログラムできるようになっている。ところがネストの製品は「温度を設定する」という単純な機能しかない。

実は、ネストの製品はクラウドにつながっており、顧客の室温設定のパターンを学習し、自動的に顧客の状況に合わせた室温にしつつ、無駄を省くことにより、年間数千円程度以上の節約が可能になる。スマートフォン(スマホ)から遠隔操作することもできる。家庭内で誰も気にも留めないサーモスタットに、シンプルなデザイン、簡単操作、それにエコの機能を入れるだけで100万台以上を売り上げた。

だが、3200億円の企業価値の本当の理由は「家庭内の場所取り」と「ビッグデータのデータ収集」にある。家庭内の壁にサーモスタットが設置され、ネットにつながれば、顧客の家庭環境とネストが常時接続されたことになる。新たなアプリケーションを提供することも、遠隔操作でのソフトウェア更新も可能だ。

多くの顧客とつながっていることで、広い範囲での最適化を進められる。エアコンとつながっていれば、真夏のエネルギー消費が集中する時間帯の各家庭の設定を最適化して、電力のピークカットができる。これは電力会社にとっては死活問題なので、顧客とネストに喜んで報奨金を支払う。この仕組みができてしまえば、サーモスタットの無料化すら可能だ。

アプリケーションを追加すれば、火災報知機、ホームセキュリティー、空気清浄などにもサービスを広げられる。実際、ネストは2番目の製品として火災報知機を発売している。

■ビジネス全体の構成力が弱い日本勢

ネストの例はIoT(インターネット・オブ・シングス、モノのインターネット)時代の事業創造のモデルを示している。(1)単純で研ぎすまされた顧客価値と美しいデザインで端末を大量に普及させる(2)ネットでクラウドにつなぎ、中央で高度なデータ処理をして顧客価値を高める(3)ネットを通じて顧客の製品を継続改良する(4)多くの顧客のデータをビッグデータとして分析することにより全体最適し、顧客と関係事業者の双方に利益をもたらす(5)他の製品とのデータ/アプリケーション連携をすることにより、さらに顧客価値を高める――などだ。

日本でこのような発想の製品が出て来ない理由は、ビジネス全体の構成力の弱さにある。ネスト創業者のトニー・ファデルは、米アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」の設計者だ。彼はiPodを音楽プレーヤー単体としてではなく、音楽サービス全体の発想で設計した。日本が得意な職人芸的なものづくりは、微細な部分最適が重要であり根本的に文化が違う。思い切ってビジネスデザインの設計者を外部から持ってくる発想も必要だ。

ファデルは、外部からiPodのアイデアを持ち込み、アップルで花咲かせた。今度はグーグルに参加しスマートホームで新たな風を吹き込む。一方で、ファデルは端末のものづくりでは苦労したと言う。日本はその高いハードウエア技術力を提供し、代わりにシリコンバレーのビジネスデザイン力を得ることが、IoT時代の事業創造のモデルとなるのではないか。

[日経産業新聞2014年7月29日付]

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