乃木坂46山下美月 2作品同時出演で役者として成長
TBS火曜22時の"火曜ドラマ"枠で、今年4~6月に放送された『着飾る恋には理由があって』。川口春奈演じる主人公・真柴くるみが働くインテリアメーカーの広報部の後輩である茅野七海と秋葉亮にスポットを当て、Paravi向けに制作されたオリジナルストーリーが『着飾らない恋には理由があって』だ。茅野役を演じたのは乃木坂46の山下美月。入社4年目の会社員という役柄は、17歳でグループに加入した山下にとっては未知の領域だった。

「まず茅野七海という役を固めるに当たり、オフィスになじむOLさんになりきることを意識しました。いかに浮かずに作品に溶け込めるかを考えましたね。
アイドルって、どれだけ自分を良く見せるかとか、まさに"着飾る"のが仕事の1つなんですよね。5年間の積み重ねで、自然にしぐさとかがかわいくなってしまうみたいで。塚原(あゆ子)監督にも『今の自分のクセをちゃんと抜こうね』とアドバイスをいただいて。YouTubeとかでOLさんのルーティーン動画なども見て、社会人の大変さみたいなことも研究して。そうしたベースを作りつつ、本編では真柴さんに憧れるかわいい後輩の要素を加えていきました。
『着飾らない恋には理由があって』では、秋葉亮(高橋文哉)君との先輩後輩関係が軸なので、逆にしっかりした先輩感を意識しました。こちらには(亮と急接近する前からの)茅野の彼氏も登場するので、彼にしか見せない笑顔とか、後輩にふと気を許したときの自然な表情とか、本編とは違った見せ方を考えながら演じるのが楽しかったです。
ただ私も高橋さんも、ラブストーリーに初めて挑戦したので、ハグのシーンとかがぎこちないんです。初々しい感じがよいのかもしれないけど、本番前に2人で何回も話し合いましたね。ハグの打ち合わせをたくさんしました(笑)。
2つの作品の温度感をつなげるために、茅野と秋葉がその時点でどんな状態か、時系列にはすごく気を付けました。そのときの関係性によって、本編の撮影のときに立ち位置とか距離感を調整したり。撮影は、本編の間に撮ることもあれば、1日の終わりにまとめてということも。切り替えが大変だと思うこともありましたね」
はっきり見えた芝居への道
新井順子プロデューサーが「撮影の最後はあの2人だけになることも多かった」と話す通り、負担は小さくなかったに違いない。ただ、物語の世界観を支える役割と、ラブストーリーの主演の両方を一度に経験できたことは、山下にとって大きな自信となったようだ。
ターニングポイントとなる作品になりましたね。実は撮影前は、『この作品で自分自身に絶望してしまうかもしれない』って思いがどこかにあったんです。火曜ドラマ枠で、スタッフさんも共演者さんもすごい方ばかりで、自分の未熟さを思い知らされて『二度と芝居なんてできない』みたいな気持ちになってしまわないかと……。
実際、すべてが学びでした。初めてのプライム帯のドラマで、スピード感などに驚くことばかり。川口さんをはじめ、いろんな方のお芝居を間近で見られて、ものすごく刺激になりました」
「最初は、考えながら演技をしていましたが、撮影が進むにつれ自然に演じるようになれて。本編とオリジナルストーリーの両方の機会をいただけて、茅野の役は私にしかできないと思えるくらいになりました。周りの方々に支えられて、自分自身も成長できたと思うし、少しだけ自信も持てるようになったのは、今回の収穫かもしれません。
お芝居にはこれからもしっかり取り組んでいきたい。どんな役でもやりたいし、いろんな役をできるようアイドルの殻を破っていける人間に成長したい。今の私はもう、お芝居のためなら丸刈りにでもなるくらいの気持ちです(笑)」
◇ ◇ ◇
ネット層を意識した配役
『着飾らない恋には理由があって』は、6月までTBS系で放送されていた『着飾る恋には理由があって』から生まれた配信オリジナルストーリー。川口春奈が演じる真柴くるみの後輩である、茅野と秋葉の2人の恋の行方を描く。両作品のプロデューサーを務めるTBSスパークルの新井順子氏に、制作過程を聞いた。
「配信向けのオリジナルストーリーを作るにあたり意識したのは、ネットの中心層である若い視聴者です。そこで、視聴者に世代が近い、フレッシュな2人のキュンとするようなオフィスラブを描くと面白いのではと。オリジナルストーリーの準備は、本編とも言える地上波版と並行して進めました。
時系列を合わせるために、本編の脚本の準備稿が出来た段階で、それをオリジナルストーリーの脚本家に渡し、裏で起こっている別の物語を描いてもらいます。脚本作りの際には、役者さんが演じづらくならないよう配慮しました。
配信の面白いところは、トライしやすいところですね。オリジナルストーリーの脚本の富安美尋さんは、まだ20代の方ですが、拝見した舞台の台本が面白かったので、今回執筆を依頼しました。
ほかの役職でもそうですが、新しい方をいきなりプライム帯の連ドラで、とはお願いしづらい面もありますよね。配信は若いスタッフが経験を積む場にもなっていると思います。ただ、こちらが指導する部分も多くなるので、私自身の仕事としては大変なことも増えますけどね(笑)。
若手の起用という意味では役者さんもキャスティング段階から、視聴者の年齢層が若い配信向きかどうかは意識しますね。
山下さんはお目にかかったとき、非常に落ち着いた雰囲気で、後輩に好かれるオフィスラブの主人公にぴったりだと感じました。高橋さんも以前から存じあげていたのですが、秋葉の役を誰にするか考えたときに、真っ先に頭に浮かびました。2人とも本編ではオフィスで働く姿ばかりなのですが、オリジナルストーリーでは、かなりキュンキュンした演技を見せてくれています。そういう面を描けたことは、配信がなければ実現できなかったことですね。
『着飾る恋には理由があって』では、配信のほかに、YouTubeで見どころ動画を毎週流したり、登場人物のSNSアカウントを実際に作って運用したりと、ネットを多角的に利用しました。作品にもよると思いますが、配信やネットとの連携は、有効活用すれば面白いと思います」

(日経エンタテインメント! 上原太郎)
[日経エンタテインメント! 2021年8月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。