「骨太の方針」に選択的週休3日制 休み増3パターン
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2021年6月に閣議決定された、政府の「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太の方針)に盛り込まれた「選択的週休3日制」。ヤフーなど一部の企業においてはすでに導入されていますが、政府が推進を図ろうとする狙いはどこにあるのでしょうか。
週休3日制もタイプがそれぞれ
選択的週休3日制とは、希望する労働者に1週間のうち3日の休日を付与する制度をいいます。政府は、選択的週休3日制について企業に導入を促し普及を図ることを骨太の方針に盛り込みました。
ひと口に「週休3日制」と言っても、労働時間、給与、仕事量に注目すると、3つのパターンに大別できます。1つ目は、所定労働時間が減ることで、それに応じて給与・仕事量が減る「給与減額型」。たとえば、週40時間労働が週32時間になることで、給与が80%になるようなケースです。2つ目は、所定労働時間が減っても、生産性を上げることで給与・仕事量は変わらない「給与維持型」。3つ目は、1日の労働時間を延長することで、1週間の総労働時間は同じ、つまり給与・仕事量は変わらない「総労働時間維持型」です。たとえば、1日の所定労働時間を8時間から10時間に増やすようなケースです。企業が週休3日制を導入する場合、どのような制度内容にするかは、業種・職種や企業の導入目的によっても異なってくるでしょう。
休みが1日増え、労働時間が減るにもかかわらず、給与が同じであるなら、週休3日制は働き手にとって決して悪い話ではありません。東京都が昨秋実施した調査で、「在宅勤務・テレワーク」「時差出勤制度」「フレックスタイム制」など6つを挙げ、それぞれ、「既に導入されている」から「導入を希望しない」「わからない」まで5つの選択肢で現状や導入意向を尋ねたところ、「今後導入してほしい」の回答割合は「週休3日制」が54.5%で最も多く注目度がうかがえます(20年度 「働き方改革に関する実態調査」※賃金減少を条件として設定していないもの)。
給与が減ってまで週休3日制にしたくはない、という意見もあります。一方、休みが増えるなら、その分給与が減っても構わないという意見もあり、働き手のニーズによっても考え方に相違はあるでしょう。
家族の介護や育児、病気治療と仕事の両立など、ワークライフバランスを保ちながら働きたい人にとって、週休3日制はニーズがあると言えます。高齢者など仕事のペースを落として無理なく働きたい人もいるはずです。
また、副業・兼業などをしたい人にとっても追い風となります。仮に、本業の給与が減額になったとしても、副業などの組み合わせで所得が増加する可能性はあります。
選択的週休3日制副業・兼業の促進を後押し
このタイミングで、なぜ選択的週休3日制が骨太の方針に盛り込まれたのでしょうか。これは、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(世界的大流行)の影響も関係していると考えられます。コロナ禍をきっかけに、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による経済産業構造や働き方の変化が一気に進みました。日本は世界においてデジタル化が思いのほか進んでおらず、スイスの有力ビジネススクール「IMD」の「世界デジタル競争力ランキング」(20年)においても63カ国・地域中27位と出遅れています。そうした中で、デジタル人材を育成することは急務の課題と言えます。
政府は人材への投資と労働移動を大胆に進めることを目指し、人材制度改革として「ヒューマン・ニューディール(人材への投資)」政策を進めています。成長性の高い分野へ、人材の円滑な移動を促進することが重要だとしていますが、そのためにも人材育成は欠かせません。
これまでは企業に人材育成を依拠していたところが大きいですが、終身雇用が崩壊し、非正規労働者も増える中、十分な人材投資が難しくなってきています。そのため国が呼び水となる人材投資と関連制度の見直しを行い、社会全体の動きをけん引することが求められているのです。
そこでリカレント教育(学び直し)の強化が叫ばれています。そもそも長寿化が進む日本において、長く働き続けていくうえで過去に学んだ知識に頼ることはできません。世の中が大きく変化していく中では、求められるスキルや能力も変わり続けます。そのため、絶えず能力開発を行ってスキルアップしていくことが活躍できる人材となるために重要なのです。
選択的週休3日制の導入は、働きながら学べる環境をつくり、新たに生み出された時間で、自ら能力を高めてもらうための狙いがあります。大学などの教育機関における学び直しに限らず、副業・兼業の推進も能力開発の一翼を担うものと期待されています。
フルタイムで働きながら、さらに副業などの時間を確保するとなると、健康面の負荷は避けられません。そこで週休3日制という選択肢を用意し、副業・兼業を促進したい意図が見て取れます。
多様な働き方を推進する選択肢のひとつとしても有用
もとより「働き方改革」において、育児や介護との両立など、働く人のニーズの多様化に応えていくことが課題とされています。週休3日制は、柔軟で多様な働き方を推進する選択肢のひとつとしても有用といえるでしょう。
もっとも、週休3日制にして時間ができたからといって、人は学ぶものかと言えば、必ずしもそういったわけではありません。学ぶ人はどのような環境においても学ぶものです。
パーソル総合研究所の調査(「働く10,000人の就業・成長定点調査 2021」)では、働く人の社外学習実施率が年々微増し21年は53.0%に。特に20代ではこの割合が前年比で6.3ポイント上昇し、65.3%が学んでいます。勤務先以外での学習や自己啓発活動として、「研修、セミナー、勉強会への参加」など対面のものが減少する一方、「通信教育、eラーニング」を行っている人の割合は、20年から1.8ポイント上昇し9.0%と高まっています。コロナ禍によって、インターネットを介した仮想空間で学ぶスタイルが広がりつつあることがうかがえます。
また、社外の業務経験から多くを学ぶことが期待できる副業の実施率においては、「販売・サービス」(5.7%)、「営業」(4.9%)の職種において特に上昇。副業・兼業は、家計の収入拡大の手段であると同時に、学んだスキルをどう生かしていくかが重要です。
そもそも学ぶ意欲をどう引き出していくか。週休3日制は補完的な要素であり、私たち1人ひとりが学び成長したいと思えるような組織をどう作っていくか、企業の果たす役割は大きいと言えるでしょう。
週休3日制では年金や手当に注意
週休3日制を選択する際に、給与が減額となる場合は注意したいことがあります。それは、将来もらえる年金額のことです。年金を計算する基礎となる標準報酬月額は、もらっている給与によって変動します。そのため、ずっとフルタイムで働き、なおかつ給与が同額だった場合と比べると、当然ながらその額は下がります。また、病気で働けないときにもらえる「傷病手当金」や、産休中にもらえる「出産手当金」といった給付も同様です。
ただし、フルタイムと同等の給与との比較だけで考えていたら、新しい行動を起こすことはできません。まして、これだけ変化の激しい時代において、フルタイム時の給与がずっと保障されるわけでもありません。生み出した時間をどのように今後の人生に生かすことができるか考えた方が生産的と言えます。
アイスランドでは週休3日でも生産性向上
アイスランドにおいて、給与を維持したまま週休3日制を含む労働時間の短縮を試験的に実施したところ、大半の職場で生産性とサービスの質は維持・向上したといいます(21年7月13日配信の「[FT・Lex]アイスランド、週休3日でも生産性向上」)。一方、労働者のストレスやワークライフバランスなども劇的に改善したそうです。
アイスランドは他の北欧諸国に比べ労働時間が長く、生産性も低いと言われており、日本と似通っています。そこで、勤務時間やシフトの組み方に柔軟性を持たせ、会議を減らし、仕事の進め方を見直すなど効率的に働くことで、時短化に成功しました。そのうえ、働く人のウェルビーイング(幸福度)も高まったそうです。
日本は労働時間イコール給与という考え方が根強くあります。アイスランドの事例なども参考に、どう生産性を高めていくか、今後の大きな課題と言えます。
選択的週休3日制によって、副業・兼業を含めた広い意味での学びをしやすくするための時間を生み出し、個人が成長すること。それはデジタル化やグローバル化が進む世界の中で、国際競争力を高めていくための一手となるかもしれません。

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