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やりたい仕事どう見つける? 自己分析助ける3つの円

ふつうの大学生のための就活ガイド 第7話

NIKKEI STYLE

日本大学経済学部・安藤至大教授が、これから就職活動を始める「ふつうの大学生」の相談に乗る、ストーリー形式の連載「ふつうの大学生のための就活ガイド」。第7回のテーマは、自己分析です。(学生も会話もフィクションです)

N大学経済学部3年生の南蒼太(みなみ・そうた)は労働経済論の授業を担当している安藤先生のところへ就活の相談に来ています。前回、理想のエントリーシートを見てもらった際に、「そもそも自分がやりたいこと、入りたい会社をみつけるにはどうしたらいいのか?」という疑問を持った蒼太。先生から「3つの円を書く」という新たな課題が伝えられました。

自己分析で考えるのは「やりたいこと」だけではない

蒼太 「3つの円」ですか?

安藤先生 こちらを見てください。

それぞれの円に、「自分のやりたいこと」「自分にできること」「社会や企業から求められていること」と書いてあります。この3つの円に、南さんが現時点で考えていることを書いてみましょう。

蒼太 えーと、まずは「自分のやりたいこと」ですね。

安藤先生 はい。ここには具体的にどんな職種に就きたいのかを書いても構いませんし、海外で働くとか多くの人に会う仕事といった働き方についての希望でもかまいません。

「自分にできること」には、自分の得意分野を書いてください。またはこれから身につけようとしているスキルでも、すでに努力を始めている内容であれば書くことができます。

そして「社会や企業から求められていること」には、他の人が南さんに何をしてもらいたいのかを想像して書いてください。

蒼太 はい、やってみます。(3分後)書けました!どうでしょうか?

安藤先生 南さんは、やはりチームで働くことを重視しているんですね。それでは、この3つの円を重ねてみましょう。

3つの円の中に書いた条件を見て、うまく重なる部分はありますか? 仮に、やりたい・できる・求められるという3条件を完全に満たす仕事を見つけることができれば、まさに天職と言っていいでしょう。しかし現実には、すべてを同時に満たすのは難しいわけです。

蒼太 うーん、天職を見つけるのは難しいということですか……。

3つの円と仕事の選び方

安藤先生 はい、残念ですが。例えば、やりたいことがあっても実際に上手くできなければ仕事になりません。ミュージシャンになりたいけれども、歌があまり得意ではなく、楽器も弾けなければ、仕事にすることはできないわけです。

また、やりたいしできることであっても、社会から求められるものでなければ収入を得る仕事としては成立しません。例えば、逆立ちをして歩くのがとても上手な人がいて、それを仕事にしたいと思っていても、誰もその芸に対してお金を払わなければ生活できませんよね。

蒼太 それはまあ、そうですね。

安藤先生 そして、自分にできることであって社会から求められる仕事であっても、本当はあまりやりたくない仕事というケースもあります。この場合には、仕事として成立するわけですが、満足度は高くないと思われます。

極端な例を考えてみましょう。現在、米国で活躍している大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手は野球が得意でプロチームから求められる才能なわけです。しかし仮に、大谷選手が実は野球よりもサッカーが好きだったとしたら、どうでしょうか。

蒼太 大谷選手はリトルリーグ時代から有名で、野球が本当に好きだと思いますよ?

安藤先生 これは「仮に」の話です。野球は上手だし他人からはその仕事で活躍することを求められている。しかし好きなことは別にあったとして、そちらを仕事にした場合は成功するとは限らない。このような場合には、自分のやりたいことを選ぶか、それとも求められることを選ぶかといった選択を迫られることになります。

蒼太 確かにそうですね。プロスポーツ選手で、本当はやりたかった別の分野に転向してみたけれど、あまり活躍できなかったというケースはありますからね。

安藤先生 少し極端な例で考えましたが企業への就職でもやりたいことと求められることのズレはよくあることです。例えば、外回りの営業の仕事は、キツそうだからあまりやりたくないけど、求人はあるし、頑張ればできる仕事だとします。しかし本当にやりたいのは商品開発とか広報とか、クリエーティブっぽい仕事だっていうのはありそうな話ですよね。しかし、そんなカッコイイ仕事は求人が少ないし、あってもなかなか採用されないわけです。

蒼太 やりたいことと求められることがズレていたら、どうすればいいんでしょうか?

仕事を選ぶ際の優先順位とは

安藤先生 自分にやりたいことがあったとして、それが社会から求められているかどうかを見極めるのは難しい問題ですね。運の要素もありますし。

例えば、売れないお笑い芸人として活動している人がいたとします。そして本人は「これは絶対に面白いネタだ。いつか時代が追いついてくる」と信じていたとします。このときアルバイトをしながらでも舞台に立ち続けるという選択肢があるでしょう。ただし生活は苦しいかもしれない。一方で、やりたい芸人としての仕事は諦めて企業で働いた場合には生活は安定するかもしれません。しかし「あのとき続けていれば」と後悔することもあるでしょう。頑張って続けていれば、いつかは売れるかもしれないし、売れないかもしれない。それでも続けるかどうか。こればかりは本人が決めることです。

蒼太 うーん、そうなると何歳までは頑張って続けて、それを超えたら方向転換をするとか考えておく必要があるってことでしょうか。または優先順位を決めて、やりたいことを続けるなら、他のことは諦めるとか。

安藤先生 単純に考えると、できること、何かしらスキルがあるということは仕事をする上で最低限の条件となります。できることのうちで、やりたいことを優先するか、それとも求められることを優先するかというのが多くの人が直面する選択肢でしょう。

ただし今はできなくても、続けているうちにできるようになるという可能性もあるわけです。社会的に必要とされる仕事に就きたい。しかし現時点では例えば必要な資格がないので、勉強していつかはその仕事に就くといったパターンもありますね。

蒼太 少しずつですが分かってきた気がします。

これから努力するポイントを見つけるのも自己分析

安藤先生 さて、南さんの3つの円に戻って確認しておきましょう。そこに共通する要素はあるでしょうか?

蒼太 えーと、僕の場合に共通するキーワードは、人、チーム、そして協力でしょうか。でも、これだけでは、自分がどの業界や企業で働けばいいのか、ちょっと絞りきれないですよね。

安藤先生 そうでしょうか? 特定の業種までは決められなくても、方向性はわかるはずです。例えば、希望する職種は、研究職や社内事務職ではなく、営業職が良さそうだなとか。チームで仕事をすることが良さそうだなとか。

蒼太 なるほど。確かに、そのくらいの決め方でよければ少し方向性がみえてきたような気がします。でも、まだまだ「自分のやりたいこと」の深堀りが足りないような気がするし、「自分にできること」も少なすぎて自信をもってこの仕事をしたいと決めきれないですよね。

安藤先生 そうかもしれませんね。しかし南さんにはまだ時間があります。

先ほど考えた、これから自分がやるべきことを実行してみましょう。その経験の中で「自分にできること」は増えていくはずですし、「自分のやりたいこと」も同時にみえてくるはずです。

蒼太 ひとまず僕に必要なのは、就活よりも前に自分がどんな人間になりたいのかをよく考えることのようです。

それと同時にできることを増やしていきたいと思います。そのためにも先ほど(前回記事参照)考えた(1)環境政策ゼミでの取り組み、(2)野球、そして(3)アルバイトについてのチャレンジを実行に移していきます。

安藤先生 はい。それでは今日はこのくらいにしましょうか。

蒼太 ありがとうございました。就活、なんだかできそうな気がしてきました。また相談させてください!

◇  ◇  ◇

ここで安藤先生と蒼太くんの面談は終了です。ふたりの会話から何かを得ることはできたでしょうか? 次回は、就職活動本番を控え企業選びに悩む学生が登場します。

安藤至大
 日本大学経済学部教授。2004年東京大学博士(経済学)。政策研究大学院大学助教授、日本大学大学院総合科学研究科准教授などを経て、18年より現職。専門は契約理論、労働経済学、法と経済学。厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で公益代表委員などを務める。著書に「これだけは知っておきたい 働き方の教科書」(ちくま新書)など。

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