夏だ!肉だ!ジンギスカン! 野菜と一緒にヘルシーに

なんとなくジンギスカンの店が増えている気がする。もちろん正確な統計などないので、あくまで肌感覚なのだが、牛焼き肉はなんだかんだ言って、そこそこのお値段がするし、ホルモンは、煙モクモクのイメージがある。そんな隙間をついて、ジンギスカンが来ているのではないか? ヘルシーイメージもあるし。
今回紹介するのは「大衆ジンギスカン酒場ラムちゃん」。現在、都内に5店ある。御徒町、八王子、町田、浅草橋に加えて、7月1日に有楽町店がオープンした。虎ノ門、有楽町、新橋かいわいにお勤めの方ならピンと来ると思うが、JR有楽町駅から北の東京駅方面に少し行ったガード下。東京国際フォーラムの真横だ。
すでに開業しているほかの店はすごく混んでいて、御徒町店に休日の午後4時に行ったら長蛇の列。予約でいっぱいだという。出直して、何とか行った。オープンしたての有楽町店も平日の午後4時くらいだったので、何とか入れた。

「ラムちゃん」という店名の通り、ここはラムの専門店。「ラムって何」という話だが、外食記者歴30年の知識を少しひけらかそう。
ラムは、羊肉というのはご存じだと思うが、生後12カ月未満の若い羊から取り出したのが「ラム」。似たものに「マトン」があるが、こちらは24カ月以上生育した生羊の肉。丸めて冷凍し、薄切りにした状態で流通することが多い。北海道旅行に行って、ビール園でランチをした時に食べ放題で出てくるアレだ。独特な香りがあり、それを嫌う人もいる。
ラムはその点、若い羊のため、くさみがほとんどない。さらにひけらかすと、ラムは国産もあるが、ほとんどが輸入品。主要産地はオーストラリアとニュージーランド。輸入先はこれら2カ国に続いて、フランス、米国。最近はアイスランドからも入っている。「ラムちゃん」の肉も、おそらくトップ2カ国の肉をチルド(冷蔵)で輸入し、使っていると思われる。だからあっさりだ。3度目のひけらかしをすると、ラムとマトンの間、12~24カ月の育成期間の羊肉は「ホゲット」という。あまり流通していないが。

前振りが長くなった。さっそく「ラムちゃん」の説明に移ろう。
ネーミングも秀逸と思うが、「ラムちゃん」は、コスパの良さとドリンクのシステムに他店にはない面白さがある。

まず基本のセットは、「塩〆熟成肩ロース」と野菜盛りの「ジンギスカンラムちゃんセット」が968円。ご飯やサラダなどは別料金だが、ご飯は220円からで卵かけご飯(418円)などバリエーションもある。1200円もあれば、ジンギスカンを楽しめるのだ。
ランチはさらにお得で、1408円。基本のセットに小鉢2品が付き、野菜、ご飯やサラダ、スープは食べ放題となる。正午から午後8時までの通し営業だから、遅めのランチにもちょうどよい。
もっとがっつり行くなら、食べ飲み放題プランがおすすめだ。「贅沢(ぜいたく)全フード食べ飲み放題コース」だ。店内のすべての商品とドリンクを食べ飲み放題にできて、90分で4378円。郊外型焼肉店は、最近食べ放題店が主流だが、すべての商品を食べられるプランは3000円台後半。それに飲み放題をつけると5000円近くになる。それに比べると、安めだし、都心で利用できるのがうれしい。
スジが少なく、さくっとかみ切れる
何より、肉がうまいのだ。くさみがないのはもちろん、スジが少なく、さくっとかみ切れる。歯が弱くなり始めた中高年向き。どうも「塩〆熟成」という仕込み方法がカギらしいのだが、店内にもホームページにも説明がない。いろいろ調べると、塩釜焼きのように塊肉を岩塩で包み、低温で熟成。うま味と軟らかさを実現する技術のようだ。

もう一つ工夫がある。ジンギスカン鍋で肉を焼くためには、だいたい牛脂を使うのだが、「ラムちゃん」は和牛の牛脂にこだわっている。加熱しているうちに脂が流れ出て下のポケットにたまるから、野菜はここで「揚げ焼き」にするとサックリ感とうまみが出てくる。ここに「にんにく」(275円)を投入しても良い。
肉自体には味がついておらず、つけダレをくぐらせる。これがなかなか。タレ自体は少し甘めのサッパリ味。香味野菜は、ネギとショウガと、そしてシュンギクのみじん切り。このシュンギクがいい感じだ。鍋に入っていると「シュンギク、ダメ」と嫌う人がいるが、みじん切りにすると、苦味があまり気にならず、ほんのり香りをつけてくれる。

お供とシメはご飯もよいけど、おすすめは「つけ麺」(308円)。懐かしいアルマイトの鍋に中華麺が泳いでいて、ラムの肉汁と脂分が浮いているつけダレで食べる。2人で行けば、1鍋あれば、十分だろう。注文しなかったが、「ほうじ茶漬け」(308円)も魅力的だ。
店内は、割とさっぱりした内装。コンクリート打ちっ放しの壁で、天井から排気用のダクトがテーブルに上から下がっている。ある意味、無機質だ。ただ、BGMは面白い。80年代ソングばかりかかっている。CHAGE and ASUKA、レベッカ、JUDY AND MARY。オジさんにはうれしい選曲だ。今はカラオケ行けないから、思わず歌いたくなってしまう。

実は、この1年ほど、レトロブームが来ている。70年代の純喫茶を模した店が人気だ。クリームソーダが600円もするのに、だ。若者には新しく、40~50代には懐かしい。そんなところを狙っているのだろう。
ジンギスカン店が増えているのは、こうしたレトロブームとも関係がありそうだ。今から20年前の2001年、BSE(牛海綿状脳症)が国内で初めて発生し、牛肉を使った焼肉店には、客がまったく来なくなり、閉店が相次いだ。あの吉野家ですら、一時は牛丼の提供をやめたほど。今のコロナ禍の飲食店の困窮ぶりと通じるところがある。
閉店した焼肉店跡地に入り込んだのが、既存の設備を使えるジンギスカン。産地とビールメーカーの戦略で、焼肉店が次々とジンギスカン店に変わった。それは驚くほどの速さだった。結局、世間がBSEを忘れるとジンギスカンは廃れてしまったが、20年がたち、当時20~30代だった若者は今、40~50代。ラムは食べた経験がある。一方、若者には新しい体験だ。世代は巡る。

さて、ここまで来て、酒の話が皆無だったことに気が付いた方もいるだろう。実は「ラムちゃん」は、全卓にハイボールタワーを設置してあり、ハイボール飲み放題の店なのだ。ただし、現在は緊急事態宣言下で酒類提供を自粛しているが、人気の秘密はラムのおいしさに加え、この楽しさもある。
価格は60分で550円。延長は30分330円。このタワーは優秀で、コックを手前に倒すとハイボールが出てくるが、奥に倒すと炭酸水を出すことができるため、レモンサワーの中のみを注文し、自分で好みの濃さにすることもできるという。早く緊急事態宣言解除の日が来て来て欲しい。
一人客にも優しい接客がうれしい
ラムのおいしさ、ハイボールタワー飲み放題の魅力も、良かったが、最終的に最も印象に残ったのは、スタッフの接客レベルの高さだった。最初にラム肉の焼き方を教えてくれ、2切れくらいはスタッフが「実演」してくれた。アバラ骨がついた「ラムチョップ」(528円)はラム肉を楽しむ時の定番だが、こちらも実際に焼いてくれ、骨からハサミで肉を切り離し、「肉が残った骨は、縁にたまった脂で火を入れてカブリつくとおいしいですよ」と教えてくれた。

「ラムちゃん」を経営するのは、千葉に本社がある一家ダイニングプロジェクト。新興企業だが、東証1部上場企業でもある。この会社、「日本一のおもてなし集団を目指す」という企業理念を掲げている。
そういえば、有楽町店もその前に行った御徒町店も、中高年の一人客が目立った。中高年は、おいしさやコスパだけでなく「癒やし」も求めているのだ。
(フードリンクニュース編集長 遠山敏之)
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