ラストアイドル長月翠さん卒業 人を支える、2つの夢

人気アイドルグループ「ラストアイドル」の中核メンバーである長月翠(ながつき・みどり)さんが、7月末に卒業する。人気も実力もグループナンバーワンの長月さんの卒業を惜しむ声は絶えない。「人を支える仕事をしたい」と新たな道を歩き出す長月さんに、卒業を考えるようになったきっかけや、将来の夢を聞いた。
テレビ朝日のオーディションバトル番組から生まれたラストアイドル、通称ラスアイ。長月さんは発足時からずっと中核メンバーだった。歌唱力はグループでもトップ、ライブやテレビ番組などでのトーク力も突出していた。
そんな長月さんが突然、卒業を発表したのが5月末。ファンはもちろん、メンバーたちも仰天、悲嘆した。卒業はかなり前から意識していた。地下アイドル時代から通算6年、アイドルとして実現したいことは、すべてなし遂げた。ここから先、さらに自分を成長させるために新しい挑戦をしようと決めた。
表舞台でかすかな違和感 自分の性に合っているのは…

過酷なオーディション番組から生まれたラスアイは、新曲を出すたびに多くの企画に挑んだ。日本体育大学の歩く芸術といわれる「集団行動」(列を乱さずに素早く行進したり交差したりするパフォーマンス)、木刀を使った殺陣、インド舞踊の「ボリウッドダンス」など、何カ月もかけて練習を重ねた。
中には、アイドルがここまでやるのか、と思うような過酷な企画もあったという。そのたび、長月さんは運営側の大人たちに向かって声をあげた。「私たちがこれをやる意味がわかりません」と。メンバーたちは「みーたん(長月さんの愛称)が、私たちの言いたいことを、いつも代弁してくれた」と振り返る。
自然とグループの中核的な存在になり、ステージの立ち位置も最前列の中心にいることが多かった。一緒にセンターポジションを務めることが多い阿部菜々実さん、間島和奏さんとは、「私たち3人はメンバーに弱いところを見せてはいけない」と、通じ合っていた。そんなラスアイの中での自分の居場所に、長月さんはかすかな違和感があった。本当は、自分は裏から人を支える方が性に合っているのではないかと、ずっと思っていた。
ラスアイ時代は多くの人に支えられ、光のあたる場所に居させてもらった。これからは人を支える仕事をしてみたい。将来の夢の1つが、自分がプロデュースするアイドルグループを育てること。華やかに見えるが、コンプレックスを抱えるアイドルは多いという。
「自分がしてほしかったサポート、かけてもらってうれしかった言葉がある。それを後輩たちに伝えたい」と語る長月さん。
例えば、自分のルックスに悩みを持つアイドルは少なくないそうだ。卒業したら美容の勉強をして資格を取りたいのは、「自分はかわいいと思ってもらえるようなメークをしてあげたい」と思うからだ。
「海外で困っている子供たちの助けになりたい」
将来の夢はもう一つあり、それはさらにスケールが大きい。海外で恵まれない子供たちの力になることだ。できればUNICEF(ユニセフ)のような国際貢献活動に関わりたいという。
これは長月さんの家庭環境の影響もある。インテリアの仕事をする父親は海外出張が多く、ジャズ歌手の母親は自宅でいつも英語の歌を練習していた。そんな家庭環境で育った長月さんには、自然と海外への志向が芽生えていた。恵まれない子供たちを支えたいと思ったきっかけは、フィリピンのごみ山で暮らす子供を紹介するテレビ番組だった。世界は広い。困っている人たちがたくさんいる。そんな人たちの力になりたいと思った。
もともと語学に興味があった長月さんは卒業したら、英語だけでなく広く外国語の勉強を本格的に始めたいと意気込む。「コロナ禍が収束したら、たくさん海外旅行もしてみたい。風の匂いも土の色も差し込む光も、海外に行けば日本とまったく違う風土の中で、たくさんの人たちが生きている。中には助けを必要としている子供たちもいる。そんな子供たちに寄り添えたらうれしい」

5月末に卒業を発表したとき、芸能界からは完全に足を洗おうと思っていた。しかし、卒業直前に出合ったある仕事が思いを変えた。女子高校生の野球部がテーマの芝居「球詠(たまよみ)」だ。長月さんが、絶対にやりたい、この役以外なら出ないと思ったのが、捕手の山崎珠姫役だった。ラスアイでのこれまでの役割とは違い、ヒロインであるエース投手を支える役どころが、本来の自分の姿と重なった。出演者全員がラスアイメンバーの舞台「球詠」は大好評で、終了直後に続編の上演が決まった。長月さんは「初めての舞台の仕事は本当に楽しかった。アイドルは卒業するけど、舞台の仕事はお話をいただけるなら、もう少しやってみたい」と思うようになった。
卒業を決めてから、やりたいことが次々とあふれてきた。人を支えたい、勉強したい、海外の子供たちの力になりたい――今は100個くらいあるという。
ラスアイ4曲目のシングル「Everything will be all right」で、長月さん自身が熱唱するこんな歌詞がある。「自分の伸びしろ、こんなもんじゃないよ、何が起きたって、Everything will be all right」。長月さんはまだ21歳。伸びしろ、可能性は無限大だ。
(編集委員 鈴木亮)
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