2021年上半期ヒット曲 ストリーミング勢が上位を独占
2021年も半年が過ぎた。上半期のヒット曲はどうなっていたのか。音楽マーケッターとして市場分析を行っている臼井孝氏が、CDや音楽配信のセールスなど8項目からなるビルボードジャパンの21年上半期ヒットチャートから分析する。
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上半期チャート全体を見ると、トップ10のうち9曲までがストリーミング部門でトップ10に入っている。またミュージックビデオ再生回数部門でも9曲、ダウンロード部門でも8曲がトップ10入り。つまり、今やストリーミングやYouTubeなど音楽配信がヒットのカギを握っていることが分かる。
これに対し、CDシングル部門で上位入りしているのはNiziUのみ。そもそも他の9作のうち、6作は、CDシングルが発売されていない。CDチャートは、現在のヒット曲とは別のヒット指標になったということだろう。
上半期総合1位となったのは、男性シンガーソングライター優里の『ドライフラワー』。ストリーミングも6月上旬に男性ソロ史上初となる3億回を達成するほどの人気だ。女性の心情を歌った切ないバラードで、洋楽リスナーにも好かれそうな力強くも繊細な優里の歌声も大きなポイント。上昇のゆるやかなカラオケ部門でもすでに1位なのは、それだけ強く共感されている証拠とも言えるだろう。
2位は、アニメ映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の主題歌となったLiSAの『炎』。この上半期チャートは、昨年11月下旬から今年5月下旬までの半年間の集計なので、映画の大ヒットに加え、日本レコード大賞受賞や、紅白歌合戦をはじめとする大型音楽特番でのクライマックスでの歌唱など、年末年始にこの曲が盛り上がったことが反映されて2位となった。また、中高年層にも人気が広がったためか、ダウンロードでは今年唯一のミリオン達成曲となっている。
なお、9位のEve『廻廻奇譚』は、『鬼滅の刃』に続く大ヒットが期待されたTVアニメ『呪術廻戦』のオープニングテーマ曲で、こちらもストリーミングでトップ10入り。日本のアニメは、国内のみならず海外にも影響力が大きいので、ストリーミングで全世界の音源が気軽に聴けるようになった現在、ますますそのタイアップが重要となるだろう。実際、21年にリリースされた神聖かまってちゃんの『僕の戦争』(『進撃の巨人The Final Season』オープニング)や宇多田ヒカルの『One Last Kiss』(映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』主題歌)は、Spotifyのグローバルチャートにランクインした。
ヒットが前後の作品にも波及
上半期チャートに戻ると、4位は前年の年間1位となったYOASOBIの『夜に駆ける』。昨年末の紅白歌合戦でのTV初歌唱を皮切りに、多くの音楽番組でも生歌唱するようになり、ロングヒットに拍車をかけた。
YOASOBIは、8位に新作の『怪物』と、10位に前年にリリースされた旧作の『群青』の3曲がトップ10入り。昨年デビューを果たした女性9人組のNiziUも、メジャーデビュー曲『Step and a step』が7位、プレデビュー曲の『Make you happy』が12位、そして今年リリースの新曲『Take a picture』が15位と、こちらはトップ20に3曲ランクイン。1曲がヒットすると、その前後の作品も長期的に注目されるというのも、現在の傾向と言える。
AKBや坂道系とともにCDチャートを席巻してきたジャニーズ系は、トップ20の中では18位のSnow Man『Grandeur』のみがランクイン。CDシングル1位(期間内だけで93万枚、最終的にはミリオンに到達する可能性も)、Twitter1位と、デビューした20年に続き、21年も大人気なのだが、やはり音楽配信未解禁では、総合チャートで上位入りするのは難しい。
とはいえ、パソコンへの取り込み回数のルックアップ部門は4位、ミュージックビデオ部門では20位に入り、楽曲やアーティストの魅力が伝わっていないわけでは決してない。現在、ジャニーズ系でストリーミングが解禁されているのは、嵐と、KinKi Kidsのソロプロジェクトの一部の楽曲、そしてKAT-TUNの新曲のみだが、国民的ヒットを多数有する勢力だけに、今後ストリーミングの解禁がどのように進んでいくのか注目される。

1968年生まれ。理系人生から急転し、音楽マーケッターとして音楽市場分析のほか、各媒体でのヒット解説、ラジオ出演、配信サイトの選曲(プレイリスト【おとラボ】)を手がける。音楽を"聴く/聴かない""買う/買わない"の境界を読み解くのが趣味。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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