ホンダの原付二種「グロム」 大刷新で走りに磨き

ホンダは125ccロードスポーツモデル、新型「グロム」を2021年3月に発売した。
グロムは前後12インチの小径タイヤを採用する車体に、空冷単気筒エンジンとマニュアルトランスミッションを組み合わせた、コンパクトなスポーツモデルとして13年に登場した。生産はタイの工場で行われ、日本のほか東南アジアや欧州、北米でも販売されるグローバルな人気モデルである。

16年に外装スタイリングを一新するマイナーチェンジを行っているが、今回は外装に加えて、エンジンも新たに設計した。トランスミッションが従来の4段から5段に変更され、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)も標準装備されるなど、登場以来初となる大幅なリニューアルが施されている。
新型グロムの最大のトピックスは、新設計された123cc空冷OHC2バルブ単気筒である。ボア×ストローク比を先代よりもロングストローク型へと変更するとともに圧縮比をアップ。加えて、従来モデルから採用されている「ローラーロッカーアーム」や「オフセットシリンダー」などの機構によりエンジン内部の摩擦抵抗を低減し、パフォーマンスと優れた環境性能を両立させているという。

カタログスペックを見ると、最高出力は旧型よりも僅かにアップしたが、最高出力・最大トルクともに発生回転数が250rpmほど高い回転数になっているのが不思議である。一般的にエンジンをロングストローク化するメリットは、より低い回転数でトルクを発揮させて、低速域での扱いやすさを向上させることにあるからだ。一方で、トランスミッションの変速比は1速~4速のギアレシオを先代よりも低く、つまり加速力を重視した設定に変更しているようだ。

「体感的な速さ」を楽しむバイク
またがると、乗車ポジションは上体の起きた自然なもの。細身に見えるシートはしっかりとした厚みがあり、思いのほか快適に座れる。メインマーケットである東南アジアのニーズに沿ったものなのか、大人の二人乗りも不自由なくこなせる。

トランスミッションのギア比が低いことに加え、高回転で「伸びる」エンジンでもないため、活発に加速しようとするとギアチェンジはやや忙しい。ただし、トップギアは先代よりも高いギア比になっており、エンジンを回さずのんびりクルージングするような走り方に対応しやすくなっている。ツーリング派にとっては大きなメリットだろう。
新型グロムは絶対的には速くないが、車体がコンパクトで一体感がある分、フルスロットルで加速すればそれなりにエキサイティングではある。先代よりも排気音やエンジンの鼓動感が強くなっていることもあって「体感的な速さ」は確実にアップしている。

サスペンションは柔らかいセッティングで、とにかくよく動く。舗装のあまり良くない道路などでは落ち着きに欠ける印象はあるが、低い速度域でも荷重移動を行いつつコーナリングするといった、スポーツライディングの基本プロセスを体感しやすいところが美点だ。中型や大型スポーツバイクへとステップアップしたいユーザーにとっては、良き教材になってくれるだろう。
この辺りは同じ排気量でも、スポーツではなくレジャーとしてバイクを楽しむことに主眼が置かれたCT125やモンキー125とはキャラクターがはっきり異なる。

スズキ GSX-R125のようなフルサイズの125ccバイクもある中で、グロムのような小さなロードスポーツバイクの存在意義は、買い物や通勤といった日常的なシーンでもスポーツライディングの面白さの片りんを味わえることにある。そういう意味において新型グロムは、まさしく小型ロードスポーツバイクの王道として正常進化を遂げたといえる。
走行距離が少ないのであくまで参考値だが、68.4キロメートル走行してガソリンは僅かに1.35リットルしか消費しなかった。1リットルあたり50キロメートル以上も走る計算だ。価格は38万5000円(税込み)。
(ライター 佐藤旅宇)
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