小川紗良 竹製「盆ざる」で作る干し野菜のおいしさ

役者として活躍する一方で、学生時代には是枝裕和監督に映画を学び、監督としても注目されている小川紗良さん。2020年に雑誌を読んでハマったというのは、干し野菜。道具の1つ、竹製の「盆ざる」を見せてくれた。
干し野菜を楽しむための必需品
「20年の新型コロナウイルス禍で時間がたっぷりできたことで、丁寧に料理をしたり、花を育てたり、日々の暮らしを大事にするようになりました。そんなとき、一緒に映画を作ったプロデューサーの方から、『暮しの手帖』を読んだら、すごく良かったと聞いて。本屋で見かけて読んでみたら、私もどんぴしゃでハマったんです。そこから定期購読を始めて、生活がちょっとずつ変わっていきましたね。
ある号で特集されていたのが、干し野菜でした。干し野菜って、その名の通り、本当に野菜を干すだけなんです。朝、その日に食べたい野菜を切って、ざるに並べて天日干しする。夕方、帰ったらフライパンに入れて、オリーブオイルと塩こしょうで炒める。それだけで、おいしい晩ご飯ができます」
保存が利いて栄養価も高い、干し野菜。にんじん、大根、れんこんなどの根菜類が基本とされるが、小川さんは様々な野菜を天日干しするという。
「セロリ、パプリカ、キャベツ。いちじくなどのフルーツを干してもおいしいです。干すと、うま味が増すんですよ。水分が抜けるので、炒めたときに焦げ目が付いて、さらにおいしくなったりもします。キノコを干して炊き込みご飯に入れたときも、すごくおいしくできましたね。

この盆ざるは、中目黒の道具屋さんで買いました。値段は3000円くらいだったかな? 今、ちょっとはやっているので、どこでも買えると思います。お気に入りのポイントは、自然素材で手触りがいいこと。竹は使えば使うほど年季が入ってくるので、経年変化も楽しみです。最近、せいろも買ったんですよ。野菜を蒸して、たれにつけて食べるとおいしい。冷めてもおいしいですよ。
干し野菜もせいろも、一手間かけて暮らしを豊かにしたいと始めたものでした。でも、始めてみると意外と簡単にできる。調理方法も味付けもシンプルで済むので、むしろラクなんですよね。そういう気づきから、暮らし方が変わってくるのが楽しい。朝、晴れていると、『野菜、干そう!』と張り切ります。日々がちょっとずつ、生き生きする感じがありますね」


長編デビュー作で描いた「子ども」と「金魚」
公開中の監督・脚本・編集作品は『海辺の金魚』。児童養護施設で育った18歳の少女と、新たに施設にやってきた8歳の女の子の、夏の日々を描いた長編デビュー作だ。撮影は、自身のゆかりの地であり、観光大使も務める鹿児島県阿久根市で行われた。
「学生時代、主演の小川未祐さんに短編作品に出てもらったことがあるんです。その後、再会したとき、将来に対する不安や、これからやりたいことなどを話してくれて、その姿がすごく魅力的でした。そこから『彼女とまた映画が撮りたい』と企画を始めたのが、『海辺の金魚』です。

この作品で描きたかったのは、一人の女の子が、自分の人生を歩み出す瞬間。その舞台として浮かんだのが、児童養護施設でした。私は昔から、様々な境遇の子どもを描いた作品に関心を持ってきたんです。アニメだと『明日のナージャ』『キャンディ・キャンディ』『アルプスの少女ハイジ』。映画だと、『ショート・ターム』『悲しみに、こんにちは』など。そういう作品に引かれるのは……なぜでしょう(笑)。子どもは、誰かに守られなければ、生きていけない。そんな子どもという存在が、ちゃんと守られる世の中であるといいなという気持ちが大きいんだと思います」
『海辺の金魚』で印象的なのは、まるでカメラがないかのように振る舞う、子どもたちの自然な姿。そして印象的に描かれる金魚鉢と、その中で生きる金魚だ。
「子どもたちは子役ではなく、現地でオーディションをして選んだ子たちです。撮影で意識したのは、子どもたちに自然体でいてもらうこと。そのためにクランクインの前から一緒に過ごす時間を作り、遊んで、衣装の服を買いに行ったりもしました。特に、小川未祐さんと子どもたちの関係性をちゃんと作っていくことを大事にしましたね。
金魚は、人間の管理のもとでしか生きていけない魚。鑑賞用として鉢の中で生きるようになり、自然界では生きていけないんです。児童養護施設の子どもは、通常18歳になると施設を出なければいけません。それは金魚が海に出ていくような、大きなこと。そういう状況と金魚を重ね描いているところがありますね。
この作品を撮ったのは、2年前。そのときは、まさか世の中が、こんなふうになるとは思いもしませんでした。この映画には、コロナ禍でなかなか行けない地方の風景や、子どもたちの生き生きとした姿が映っていて、遠くへ思いをはせることもできます。ぜひ映画館で、心安らいでもらえたらうれしいです」


野菜を育ててみたい
高校時代に体育祭などのドキュメンタリーを撮ったことから映画制作に興味を持ち、早稲田大学で是枝裕和監督の授業を受けた小川さん。監督として映画祭入選を続ける一方で、役者としても活躍。最近では小説の出版やコラムの連載なども行い、執筆業でも才能を見せる。
「私は仕事のために生きるというより、生活を大切にして、そのために働きたいというタイプ。だから撮影で寝られない日が続いたりすると、自分を保つのが大変です(笑)。執筆業も締め切りが重なると大変ですけど、自分のペースでできるので、私の気質に向いているかもしれない。これからも仕事と暮らしの適度なバランスを保ちながらやっていけたらいいなと思ってます」
今、欲しいモノも、暮らしを豊かにする道具だという。
「コロナ禍に花を育てるようになったので、次はガーデニングや、プランターで野菜を育ててみたいです。野菜、好きなんですよ。胃が弱いのか、肉を食べるとすぐに胃もたれしちゃうので(笑)。野菜は、昔から好き嫌いもないです。
あとは……旅行がしたいですね。私は一人旅が好きで、高校生のときに沖縄で買ったうつわを、今も大切に使っていたりするんです。そんなふうに、旅先で工芸品を買って、思い出付きで大事にしていくようなことを、またできたら。コロナが収束したら、早く旅に出たいですね」


海辺の金魚
身寄りのない子どもたちが暮らす家で育った18歳の花(小川未祐)は、そこで暮らせる最後の夏を迎えていた。そこに8歳の少女・晴海(花田琉愛)が入所してくる。かつての自分を重ねた花は、晴海と過ごすうちに今までに無かった感情が芽生えてゆく。
監督・脚本・編集・小川紗良 出演・小川未祐、花田琉愛、芹澤興人、福崎那由他、山田キヌヲ 全国順次ロードショー中
(文 泊貴洋、写真 藤本和史)
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