ソロキャンプ飯に挑戦 初のメスティン料理に悪戦苦闘

グルメなソロキャンプが空前の人気だ。一人キャンプや車中泊なら記者は30年やってきた。足りないのはグルメだけ。話題の自動調理器具、メスティンとシェラカップで実行してみた。
メスティンは1つで炊く・煮る・焼く・蒸すが可能
メスティンとは、容量800ミリリットル程度の深い直方体のアルミニウム製調理器具で、西洋飯ごうとも称される。
この3~4年、テレビのキャンプドラマのヒットなどで、若い世代の間でスウェーデンのトランギア社製がブームになっていた。そこに新型コロナウイルスに感染しにくい屋外レジャーとしてソロキャンプや車中泊が人気化。道具好きの中高年が競って手を出し、人気に拍車がかかった。
これ一つで炊く、煮る、焼く、蒸すなどの何通りもの使い方ができ、キャンプ先でグルメが可能という。シェラカップも同じような経緯で急に人気が出た。昔からのキャンプ好きにとっては、鍋や皿が重なって収納されるコッヘルの方になじみがあり、シェラカップも朝のホットミルクやコーヒー専用という感覚だ。
しかし書店に「メスティン自動レシピ」(山と渓谷社)などレシピ本が並び、愛読キャンプ雑誌でレシピが特集されるに及び、気が変わった。100円ショップで手に入る25グラムの固形燃料でメスティンをあぶるだけで自動調理になり、グルメができるらしい。
パエリアとトマト煮込みは成功

ホームセンターで買った中国製メスティンでさっそく無洗米1合と、エビ3匹、アサリ5粒を材料とするパエリアを作ってみた。山と渓谷社のレシピでは14グラムの固形燃料1つに火をつけ、オリーブオイルで無洗米を炒め、続いて水200ミリリットルとターメリックやコンソメ、エビ、アサリを加えて蓋をして加熱。消火後10分蒸らせばでき上がりだ。
炒めるところまではうまくいった。しかし水やエビを投入するあたりから雲行きが怪しくなった。なかなか沸騰しないのだ。思い当たるのはエビやアサリが冷蔵ボックスでコチコチに固まったままだったこと。レシピになくても常温戻しは常識か?
固形燃料も25グラムの塊を、目分量でカッターナイフで切った。キャンプは適当にのんびりやるものという感覚なので仕方がない。ようやく沸騰と思ったら火が消えかかる。仕方なしにあと7グラムほど燃料を切り出して加え、10分蒸らして蓋を開けた。
アサリやターメリックの香りが吹き上がり、とてもいい感じだ。キャンプグルメ第1弾としては上出来と思って食べたらコメに芯があり、コリコリ歯応えがする。事前にコメを水に漬ける知恵が欠けていた。ただし風味は最高。
次に試したのは夏野菜のトマト煮込み。ズッキーニと赤・黄のパプリカ、ピーマン、タマネギを、アンチョビーやオリーブオイルを隠し味にトマト缶の中身で煮込む、見た目にも華やかな料理だ。
下ごしらえが面倒だが、本来は出発前に家でするものなのだろう。メスティンに山盛りの野菜が煮えるか心配したが、すぐにしんなりし、かさが縮んだ。ニンニクの風味とトマト缶の控えめでやわらかい酸っぱさが食欲を誘い、メスティン一杯分を完食した。
親子丼は火加減を間違えて失敗
これに比べ、シェラカップを2個使う親子丼は大失敗。焼き鳥缶の肉とタマネギを、市販のそばつゆ少々と缶に残るタレで味付けし、最後に溶き卵を加えるだけという手順は簡単に思えた。
ただ、長年使ってきたキャンプ用ストーブ(ガスコンロ)の火力が、固形燃料より段違いに強いのを忘れていた。つゆの砂糖分がシェラカップの内側に焦げ付き、その焦げ臭さがタマネギや卵の風味を台無しにした。ご飯にのせて食べたが、自分が作ったのでなければ閉口したろう。ゴシゴシこすったが、焦げはまだ完全に落ちない。

メスティンでは他にこしょう鍋と焼きリンゴにも挑戦した。1つ学んだのは、鍋物や蒸し物は不出来でもなんとか食べられるが、焼き物は失敗しやすく、失敗すれば食べるのにも洗うのにも難儀すること。試した5品目の材料費は計5071円。しかも大量に余るなど、キャンプグルメは一筋縄ではいかない。それでも新しい楽しみ方の"練習"にはなったと思う。
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メスティンはレシピ本も活況

登山の専門出版の山と渓谷社は2018年に「メスティンレシピ」、19年に続編の「メスティン自動レシピ」を発行。それぞれ18刷、11刷を重ね、2冊合計で11万4000部のヒットになっている。編集にあたった同社アウトドア出版部の五十嵐雅人氏は「正確ではないが中心読者は30~40代のキャンプビギナーだと思う」と推測する。
五十嵐氏によれば20年ほど前にもキャンプブームがあり、当時もレシピ本の需要があった。「その頃にキャンプを体験した人たちが自分の家庭を持ち、今のブームを支えている」とみる。新型コロナで制限が多い今、屋外でのプチグルメは誰にとっても気晴らしなのだ。
(礒哲司)
[NIKKEIプラス1 2021年6月5日付]
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