ご当地レトルトカレー10選 学生考案、地域食材を凝縮

高校生や大学生が開発に関わるレトルトカレーが増えている。地域の特産品をPRするため、地元企業との産学連携で味や技術を工夫。若者のアイデアや郷土愛が凝縮したカレーを専門家が選んだ。
1位 静岡おでんカレー
東海大学(静岡県) 590ポイント 黒はんぺんの絶妙な歯応え

静岡県民のソウルフードといわれるおでんを東海大学海洋学部水産学科の学生が授業の中でカレーにアレンジした。海が近く水産物の練り物の製造が盛んな静岡では、濃い口しょうゆの黒いダシで煮込む独自のおでん文化が根付き、おでん専門の名店も多い。
学生が「余ったおでんは翌日カレーにするとおいしい」と家庭の話をしたことが製品化のきっかけ。地元企業と共同開発し、のべ15人の学生が3年かけて基本レシピを練った。田嶋章博さんは「おでんとカレーの相性が素晴らしく違和感が全くない」と評価する。
全国の「おでんカレー」と銘打ったメニューを食べ比べ、静岡らしさを突き詰めた。おでんの定番である卵やこんにゃく、だいこん、牛すじ肉が入り「具に満足感があり酒のつまみにもなる」(富山秀一朗さん)。野口英世さんは「静岡に出掛けた気分で味わえる」と表現する。
「静岡名物の黒はんぺんを全国に流通させたい」と、1年かけて黒はんぺんをカレーに合う硬さに開発。かまぼこ製作の知識を生かし、レトルト加工後もほどよいかみ応えが残るよう試作を重ねた。
現在販売しているのは2020年に味を改良した第2弾。パッケージのおでんのイラスト案も学生が考えた。
(1)540円(210グラム)(2)http://www.ichiuroko.com/
2位 草熟北里八雲牛カレー
北里大学(北海道) 580ポイント 学生が育てたブランド牛が生きる

北海道八雲町にある北里大学獣医学部の広大な牧場でのびのびと育った、八雲牛の赤身を使ったビーフカレー。牧場に常駐する大学院生や実習で訪れる学生らが牛の育成から出荷までを手掛ける。
自前の牧草など100%自給飼料によるブランド牛で、赤身肉は栄養成分も多く、北里大の付属病院の病院食としても利用される。
学生と教員がカレーに合う肉質や部位を研究。八雲町からほど近い函館市にある、明治創業の老舗レストラン「五島軒」と共同でカレーを完成させた。
肉の質にこだわっただけに、島本美由紀さんは「肉の部位が白ごはんの食感によく合う」とコメント。湯浅俊夫さんは「まろやかで食べやすい」と牛肉とのバランスを評価する。「大切に育てた牛を大事に使っている思いが伝わる」(飯塚敦さん)とストーリー性の高さを称賛する声も目立った。
(1)540円(200グラム)(2)https://kitasato-life.shop-pro.jp/
3位 白花豆ごろっと白カレー
北海道帯広農業高校(北海道) 550ポイント 十勝産の豆が主役

北海道・十勝地方の特産品である白花豆を使った新商品を作ろうと、地元の農協が協力を求め、3年がかりで販売にこぎつけた。
白いスープ状のルーに粒ごと入った白花豆の食感は一般のカレーのじゃがいもに近い。「白花豆がちゃんと主役になっていて、白い見た目が美しい」(野口さん)
商品の開発を始めた2018年度には、生徒が校内の農場で種まきから収穫まで一連の作業を経験した。自分たちで育てた豆を使ってスパイスを調合し、豆の皮の有無や加熱具合など試行錯誤した。
「ルーはポタージュ寄りだがスパイスが効いている」(金谷拓磨さん)。小野員裕さんも「インドやネパールのダール(豆)カレーと一線を画する良さがある」と味を評価する。
(1)540円(200グラム)(2)https://dosanko-g.stores.jp/
4位 まろやか高原カレー
上浮穴高校(愛媛県) 430ポイント ピーマン食べやすく 食品ロス削減も

森林環境科の生徒6人が地元の特産野菜のピーマンのうち、規格外などの理由で廃棄されるものを粉末にして生かすことを思いついた。ピーマン嫌いの子どもにも喜んで食べてもらえるよう、苦みを抑えることにこだわり、地元の海産物メーカーに相談して和風だしで仕上げた。ピーマンらしい鮮やかな緑色を出すために頭を悩ませ、ほうれん草を使う工夫にたどり着いた。
「加工品として扱いづらいピーマンをここまでおいしく仕上げた開発力に拍手」(スパイシー丸山さん)。「ピーマンが身近に育った人たちの地元愛を感じる」(猪俣早苗さん)。
(1)540円(180グラム)(2)https://fmmarche.jp/
5位 アスメシカレー
花咲徳栄高校(埼玉県) 410ポイント たんぱく質多め 選手の体作りに

「アスメシ」とは運動選手が必要とする高たんぱく、低脂肪の食事である「アスリート飯」を指す。同校野球部は甲子園で優勝したことがあり、サッカーなど運動部全般が強豪として知られる。食育実践科の生徒がメニューを考案し、良い筋肉を作るために鶏肉の量を増やし、カレー1食で1日に必要なたんぱく質のおよそ半分がとれる。地元加須産のイチジクを使い、自然な甘みを加えた。
「学生ならではの発想。運動部員が食べるイメージが湧く」(新井一平さん)。「ダイエット中の人にもおすすめ」(島本さん)
(1)540円(200グラム)(2)https://shop.kazomarche.com/
6位 比内地鶏とししとうのプレミアムカレー
秋田北鷹高校(秋田県) 380ポイント クセになるほろ苦さ 鶏肉の存在感も

家庭クラブの活動の一環として、地域の活性化のために土産品の開発を企画した。地元北秋田市の特産品であるシシトウに着目した。当初は菓子を作ろうと試作を重ねたが、シシトウの苦みを生かすにはカレーが最適と方向転換。同じく地元特産の比内地鶏や玉ねぎ、トマトを煮込み、道の駅や農協の関係者と話し合いながら味を決めた。
「商品名にブランド鶏である比内地鶏の名前が入っているのでインパクトがあり、食べてみたくなる」(富山さん)。湯浅さんは「穏やかなのにピリッとくる味」と評価する
(1)550円(240グラム)(2)https://www.city.kitaakita.akita.jp/archive/p11979
7位 仙台べこタンカレー
仙台商業高校(宮城県) 360ポイント 牛タンとかまぼこが意外にマッチ

仙台名物の牛タンと笹(ささ)かまぼこが一度に味わえるようにとの斬新なアイデアが実現したカレー。部活動「商業情報部」の生徒たちが家庭科室でレシピを完成させ、地域PRのために考案して商標登録したゆるキャラ「べこタン」をパッケージに描いた。
野菜の甘みとスパイシーな後味が特徴で、松宏彰さんは「欧風仕立てのカレーと笹かまの味が合う。両者を牛タンがつなぎ、地域性が生きている」と評価する。売り上げの一部は東日本大震災の復興に役立ててもらおうと宮城県南三陸町に毎年寄付している。
(1)600円(200グラム)(2)http://www.yakurai-foods.co.jp/
8位 おりこうカレー
折尾高校(福岡県) 250ポイント 野菜たっぷり 栄養しっかり

野菜など様々な食材を30品目とることができるスティックタイプのカレー。折尾高校の生徒たちの呼称「おりこうせい」にちなみ名付けた。商品は生活デザイン科が開発し、商業科を中心にイラストや歌で販売促進。地元のイベントなどには販売ブースを出すよう声がかかるほど知名度が上がり、2016年の熊本地震や17年の九州北部豪雨の被災地には生徒の発案でカレーを1千食ずつ寄付した。
スパイスが効いた味は「風味と酸味がクセになる」(田嶋さん)。商品パッケージにはパンやクラッカーにつける食べ方も紹介。
(1)459円(30グラム×5)(2)https://www.hakatahonpo.com
9位 信大きのこカレー
信州大学(長野県) 245ポイント シャキシャキ新鮮なかみ応え

普段は食品を取り扱わない工学部が生んだ、異色の開発カレー。植物の分解を学ぶ物質化学科の学生が技術力を生かし、レトルト加工後もキノコのシャキシャキ感が残るように加熱の温度や時間を調整した。山林に囲まれた立地を生かし、収穫翌日の生のブナシメジをふんだんに使い、1食の容量の半分にあたる100グラム分が入っている。長野の特産であるリンゴも深い味わいを出す。
松さんは「これほどキノコが主役になったカレーは珍しい。地域食材の魅力を伝えている」と感心する。島本さんは「きのこ嫌いな子どももチャレンジしてみて」と勧める。
(1)515円(200グラム)(2)http://akebono-shop.com/
10位 ごっつぁんカレー
海洋高校(新潟県) 240ポイント 海の幸を主役に ごはん進む味わい

水産物の加工から流通までを学ぶ食品科学コースの授業で、相撲部の男子生徒3人が手掛けたシーフードカレー。「ご飯が進む商品」がコンセプトだ。同校の生徒が過去に開発した、地元で水揚げした甘エビを発酵させた「甘えび醤油」を使って香りとコクを出し、数種類のカレー粉を混ぜた。エビやイカなど大ぶりの具材がゴロゴロと入り食べ応えがある。売り上げの一部は全国大会常連である相撲部の遠征費や合宿所での食費に使う。
「ゆでたパスタやうどんとあえても美味」(野口さん)。「ネーミングが面白い」(丸山さん)
(1)518円(180グラム)(2)https://www.nousui-shop.com/
若者の視点 地産地消に弾み
テレワークなどで家で食事をする機会が増え、手軽に多様な味を楽しめるレトルトカレーが人気だ。近年は高校や大学を舞台に生徒・学生が開発したカレーが目立つ。若者のアイデアや学校がもつ技術を基に、地域と協議を重ねて商品化する。今回ランクインしたカレーはいずれも半年から数年の年月を費やした産学連携の結晶だ。
若者の既成概念にとらわれない自由で斬新な発想は、時として商品化へのハードルを引き上げる。販売までに何度も挫折を味わい、思い通りに進まない歯がゆさを通して成長する姿が浮かんだ。
今回1位になった東海大学(静岡県)は当初、サクラエビとイカスミの2種類のカレーを商品にしようと取り組んだ。ところがレトルト加工すると味が落ちることが判明し、3番手の候補だったおでんに方向転換した。
上浮穴高校(愛媛県)や秋田北鷹高校(秋田県)も当初、それぞれピーマンやシシトウで菓子を作ろうと試行錯誤したが、独特のにがみに苦戦したあげく、カレーという突破口を見つけた。
海洋高校(新潟県)はシーフードや魚醤(ぎょしょう)を使うアイデアが固まったものの、材料の原価が高いことが課題になった。製造コストを設定内に収めるため、市場調査をしてメーカーと二人三脚で努力した。
カレー総合研究所(東京・渋谷)の井上岳久代表によると、学校発のレトルトカレーは2000年代から流通し始め、今では常時100種類ほどが売られているという。その多くが地元の特産品を使う。
「学校、レトルト加工メーカー、農産物の生産者、3者それぞれにメリットがある」と井上さん。学校側は机上の学問をビジネスとして実践でき、柔軟な若い発想はメーカーの商品開発に刺激を与える。SNS(交流サイト)に慣れた若者が特産品をPRすれば町おこしにもなる。
次々と新しいレトルトカレー商品が市場に生まれるなか、売れる商品を作るのは容易ではない。花咲徳栄高校(埼玉県)の会田友紀教諭はアスメシカレーの開発を振り返り、「おいしいカレー商品が既にたくさん流通するなか、なぜ自分たちがこの地域で作るのか、コンセプトを明確にする大切さを学んだ」と話す。
教育現場ゆえに利益を追求せず、ひっそりと消えた幻の学校発カレーも多い。残った商品は定番化している証拠で、味は確かと言えそうだ。
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今週の専門家
(松浦奈美)
[NIKKEIプラス1 2021年5月29日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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