常温保存4カ月間OKの豆腐 製造の鍵は2つの無菌化

成熟期が長く続く豆腐市場に、際立つ特徴を持つ商品が登場した。2021年5月、紙パック入りの状態で全国のスーパーマーケットに並び始めたのは、常温で120日間保存できる「ずっとおいしい豆腐」。発売したのは徳島県鳴門市に本社を置く、さとの雪食品だ。
国内で冷蔵販売が義務付けられていた豆腐は、18年に無菌充てん豆腐であれば常温流通・販売が可能になった。これを受けて森永乳業が商品化したものの、宅配専用だった。ずっとおいしい豆腐は食品スーパーに並ぶため、消費者は買いやすくなる。
ずっとおいしい豆腐の場合、常温・長期間で保存できるようになったのは、製造工程における「2つの無菌化」に成功した点が大きい。
常温流通を阻む大豆由来の菌を死滅、充てん時も無菌を徹底
1つ目は、素材となる大豆そのものについて。これまでは、大豆がもともと持っている耐熱性菌や高温細菌(高温下で増殖する細菌のこと)が豆腐の常温流通を阻んでいた。常温下では菌が繁殖して、腐敗しやすくなるからだ。これらの菌を死滅させる殺菌条件によって無菌化に成功した。
もう1つの無菌化は、充てん時に施される。ずっとおいしい豆腐を入れる紙パックを専用の充てん機内で無菌化してから、同じく無菌化した豆乳をにがりと一緒に充てんしている。一連の製造工程は完全自動化されていて、充てん後に紙パックの中で豆腐が出来上がった時点でも無菌状態は保たれているというわけだ。
こうした高い技術力は、さとの雪食品のグループ会社である四国化工機(徳島県北島町)が持っており、ずっとおいしい豆腐を実際に作っているのも四国化工機だ。同社は液体食品充てん機の製造を手掛ける大手で、牛乳パックなどに対応した紙容器成形充てん機は、国内シェアの約70%を占める。今回の無菌充てん技術は、この液体食品充てん機製造事業で培った。
ずっとおいしい豆腐の原材料は大豆と水、塩化マグネシウム(にがり)のみだが、加熱殺菌の条件が強過ぎるとたんぱく質が変性し、にがりだけでは凝固しない。「にがりだけを使って十分な硬さの豆腐になる豆乳を無菌化したのは、四国化工機が初めてではないか」と、さとの雪食品は見る。


長期常温保存はあくまでも手段 目的は別にあり
実は、四国化工機は賞味期間が長い豆腐を30年以上にわたって開発し続けている。商品化に初めて成功したのは1990年2月。要冷蔵ではあるが、賞味期間20日間の「箱とうふ」を誕生させた。以降、無菌化技術の改良と検証を積み重ねて、同じく要冷蔵で30日間、60日間、180日間、240日間と賞味期間を延ばしてきたという(商品名は「四季とうふ」)。そして、今回のずっとおいしい豆腐では常温状態での120日間保存に成功した。
ここまでの話からは、この長期間の常温保存という分かりやすい特徴の実現が、ずっとおいしい豆腐の狙いに思えるが、実はそうではない。さとの雪食品によると、「作りたての味を消費者に食べてほしい」という目的が約30年前の開発当初からあり、「長期間の常温保存可能」という特徴は副産物だという。
大豆が持つ耐熱性菌や高温細菌には、そもそも豆腐の風味を損なうデメリットがある。また、プラスチック容器に水と一緒に入った一般的な豆腐は、時間の経過とともに風味が抜けていく。プラスチック容器は酸素を通し、売り場では蛍光灯の光を浴びるからだ。これらを解決するのが追求し続けた無菌化であり、紙やポリエチレン、アルミ箔を5層に重ねた新開発の紙包材だった。

皿に移して味を付けずに食べてみたが、確かに大豆の柔らかい甘みがよく分かるという印象。一般的な豆腐に比べてやや硬めに感じたが、幅広い料理に使えるようにしたという。
味へのこだわりと120日間常温保存可能という特徴は、豆腐好き以外のニーズも喚起する可能性を秘める。豆腐は日常的に食べる食品なので、多めに買って常温保存するという新習慣や、地震などの自然災害に備えたローリングストック(多めに買って、消費した分だけ買い足すこと)用途が考えられる。また、コロナ禍で買い物の頻度を減らした結果、1回当たりに買う量が増えて、冷蔵庫が満杯になるのを防ぐ目的で買われるケースもあるかもしれない。
実勢価格はおおむね150~170円台(税込み)。一般的な豆腐が特売品に100円を切る値付けがされていることを考えれば、割高ではある。しかし、味に加えて常温保存可能という特徴が生み出すニーズも加味すれば、一定の支持を得る可能性は高い。

(日経トレンディ 平田秀俊)
[日経クロストレンド 2021年5月19日の記事を再構成]
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