コロナ下の貴重な外食に 太鼓判押す首都圏の新顔3店

いまだ新型コロナウイルスが猛威を振るっている。自粛生活がここまで長引くと、気がめいってくる方々も少なくないだろう。緊急事態宣言などで自炊生活を余儀なくされている方々も多いはず。だからこそ、貴重な外食の機会には、間違いのない店を選びたい。
そこで今回は、私が足を運んだ店舗の中からえりすぐりの新顔3店をご紹介しよう。今年オープンした「優良」と目される新店は、キラリと光る独自のアピールポイントを備えている。端的に言えば、皆様方がこれまで召し上がったことのないような一杯を出す優良店だ。
◎MENクライ(東京・浜松町)
~すべてをねじ伏せる超極太麺に圧倒!今期最注目の1店~ まずは本年2月、東京・港区芝にオープンした『MENクライ』(メンクライ)。JRや東京モノレールの浜松町駅南口から徒歩5分ほどの場所にある。2016年5月に開業した人気店『和渦』(2019年4月に『中華そば 和渦 TOKYO』として北品川に移転)のセカンドブランドである。 店に行くには国道1号線から路地に入る必要があるが、白地に漆黒の文字で『MENクライ』と大書された看板がランドマークになっており、まず迷うことはないだろう。現在、同店が提供する麺メニューは、「醤(しょう)油ラーメン」「いりこラーメン」「油そば」の3種類、及びそのバリエーション。 「醤油」は永遠の定番、「いりこ」は第2の汁そば、「油そば」は同店唯一のスープなしメニュー。いずれの品も、作り手によって確固たる位置付けが与えられ、揺るぎない個性を放っているが、中でもおすすめが「油そば」。ニンニク、唐辛子等を絶妙なバランスでブレンドし、うま味のクオリティーを極限まで高めたタレは、味蕾(みらい)に触れた瞬間、ほおが落ちそうなほど。まさに試行錯誤の結晶だろう。 このタレに合わせるのは、太さ1センチ近くあろうかと思われる超極太麺。岩手産のもち麦「もち姫」、北海道産「春よ恋」「きたほなみ」など香り豊かな国産小麦を厳選し、生地から丹念にこね延ばし切り分けた、手間ひまの塊である。
麺をズズっとすすり上げ、ガシッとかじれば、顎を押し返すような強烈なコシと弾力。まさに食べ手をねじ伏せるかのよう。箇所によって太さや厚みがランダムである点も、食感に絶妙なメリハリをつけ、『MENクライ(麺食らい)』の屋号にふさわしい。

トッピングのチャーシューにも、妥協の余地はない。岩手産国産豚の雌の肉を厳選し、自家製のタレに漬け込み、じっくりとつるし焼きを施している。薫香とジューシーな肉の風味が、食欲を無際限にかき立てる絶品。事前の想像をはるかに上回るハイレベルな1杯に、思わず「美味過ぎる」とつぶやいてしまった。同店は私の中では今期最注目の1つだ。
◎JUNK NOODLE FACTORY(ジャンク ヌードル ファクトリー、千葉市)

~女性をメインターゲットに据えた新感覚ガッツリ麺!「パレット」の魅力を堪能せよ~
続いては、千葉市緑区おゆみ野中央に本年4月にオープンした『JUNK NOODLE FACTORY』。同店は、千葉県を代表するガッツリ系ラーメンの実力店のひとつ『らーめん旭郎山(きょくろうざん)-浜野』のセカンドブランドだ。同店を率いる店主(張替正規氏)は、イタリアンからラーメン界へと転身、身ひとつで同店を大人気店へと押し上げたすご腕職人だ。
今般、店主が2号店を開業したのは、ひとえにラーメン好きの裾野の更なる拡大を図りたいという一心から。「女性やファミリー客は、ガッツリ系ラーメンを食べてみたいと思っても、大量のモヤシや巨大な豚(チャーシュー)が鎮座する武骨なラーメンを前にすると、どうしても気押されてしまいがち。そんな方々をメインターゲットに据えて創り上げたのが、このお店です」(張替氏)

「パレット」と銘打たれた同店オリジナルのメニュー群には店主の「イズム」が具現化されている。現在、「照り焼きチキンパレット」「レッドチキンパレット」「ローストビーフパレット」など5種類だが、特におすすめしたいのが「レッドチキンパレット」。圧力釜を駆使し、うま味を凝縮させた鶏白湯スープは美しい乳白色で、思わず目を奪われる。スープをブレンダーで泡立て、フワリと軽快な口当たりにする配慮も心憎い。
スープに合わせる麺は、モッチリとした食感が印象深い太麺。水分をたっぷり蓄えた麺肌はみずみずしさにあふれ、何本すすっても、すすり飽きることがない。トッピングは野菜、チキンなど。チキンをサクッとかじれば、目がさめるような辛みとともに、ジュワッと肉汁のうま味が弾け飛び、味覚中枢を強襲された気分になってくる。

麺量は一般的なガッツリ系ラーメンと遜色ない重量級だが、佇(たたず)まいは実にエレガントで、さながら「ラーメン版スープパスタ」のよう。新感覚の1杯といっていいだろう。
◎中華そば たた味(東京・小伝馬町)
~名店『あさ利』の味に、独自のエッセンスを加味!ラーメン界を震撼(しんかん)させる1杯~
最後にご紹介するのが本年3月末、東京都中央区日本橋小伝馬町にオープンした『中華そば たた味』。同店は現在、平日昼のみの営業なので、生活拠点が近隣にない人たちがおいそれと足を運ぶのは難しいが、オープン以来、行列が絶える日がないほどの盛況ぶりを誇る。
東京メトロ日比谷線・小伝馬町駅から150メートル弱。徒歩で2分もあればアクセスできる場所にある。赤く映える「雷紋」が真っ白い空白部分をぐるりと取り囲む看板。一見すると、屋号が書かれていないように見えるが、凝視すると雷紋に溶け込む形で『たた味』としっかり刻印されているのがわかる。実にユニークな仕掛けだ。

現在、同店が提供するのは「スタミナ中華」と「辛スタミナ中華」とそれぞれの特製バージョンのみ。「辛スタミナ中華」の辛さは並大抵ではないので、よほど辛さに自信がある方でない限りは「スタミナ中華」をおすすめしたい。

「スタミナ中華」は、青森市の激辛ネギラーメンの名店『あさ利』へのオマージュを込めつつ、随所に独自の着想を織り込んでいる。例えば、スープに浮かぶ甘み豊かなタマネギは、千葉県のご当地麺『アリランラーメン』から、「刻みニンニク」「背脂」等の無料増量システムは、店主(吉野慎一氏)の修業先である名店『ジャンクガレッジ』から、採り入れたものだ。
スープは個々の素材の持ち味を的確に把握した上で、豚・鶏・牛の骨と肉を大量に寸胴へと投入し、日高昆布・煮干し・香味野菜等をバランス良く掛け合わせている。油はスープとの相性を考慮し、寸胴で波打つスープの上澄み油を使用。これによって、豚・鶏・牛の盤石の「トロイカ体制」構築に成功している。
はやる気持ちを抑えながらスープをひと口すすると、動物系素材の重厚なコクと、カエシの上質な風味が舌上で融合し、味覚の中枢を刺激。スープに織り交ざる炒めタマネギの豊潤な甘みも、スープの魅力をググっと押し上げる。
無料トッピングで「ニンニク」「背脂」をオーダーすれば、ニンニクの香味、背脂の甘辛い下味も、レンゲを持つ手の動きを更に加速させてくれる。新店とは到底思えない隙のない仕上がりに、驚きを禁じ得なかった。
(ラーメン官僚 田中一明)
1972年11月生まれ。高校在学中に初めてラーメン専門店を訪れ、ラーメンに魅せられる。大学在学中の1995年から、本格的な食べ歩きを開始。現在までに食べたラーメンの杯数は1万4000を超える。全国各地のラーメン事情に精通。ライフワークは隠れた名店の発掘。中央官庁に勤務している。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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