うまい健康酒は家でつくる 果物や野菜で簡単ヘルシー

旬の果物や野菜、乾燥食材などを使い、自家製の健康酒を造りたい――。味や香りを楽しみつつ、体調を整える効果にも期待しながら。専門家に造り方や種類を学んだ。
訪れたのは一般社団法人「薬酒・薬膳酒協会」(東京・世田谷)の代表理事、桑江夢孝さん。全国33カ所で「薬酒BAR」と呼ぶ健康酒を扱う店を展開する。そのうちの一つ、東京・銀座の店舗「食医心方」には100種類の薬用酒がずらりと並ぶ。桑江さんは「酒を飲んで健康になる楽しさを伝えたい」と目を輝かせる。
健康酒の歴史は古代までさかのぼる。同協会によると西洋の起源はローマ時代、アジアでは紀元前から。人類は世界各地で薬草や果実をアルコールに浸し、食物の効用を暮らしに取り入れてきた。
日本では少なくとも700~800年ごろの文書には薬用酒に関する記述があるという。正月の「お屠蘇(とそ)」も薬草を使った酒の一種だ。「『医』の古字である『醫』を見れば『酉(さけ)』が『医』を支えたことが読み取れる」(桑江さん)

「好きな素材にお酒を注ぐだけ。本当に簡単です」。同協会理事の保科有理さんに、簡単に手に入るクコの実を使い、作り方を見せてもらった。
清潔な瓶にクコを入れて酒を注ぎ、蓋を閉めるだけで完成だ。飲みごろは漬けてから2週間後だが、保存期間は半永久という。氷砂糖を加えることで素材の抽出が促進されるが、糖分を控えるために砂糖抜きのレシピを薦める。
つけ込む酒はホワイトリカーと呼ばれる甲類の焼酎が基本で、アルコール度数は35度が最適だ。無味無臭で癖がなく、素材本来の味を生かしやすい。他にもウイスキーやウオッカ、ラム酒、テキーラなどを使い分けて風味の違いを楽しめる。酒税法上、穀物やブドウは混ぜず、20度以上の酒を使うなど注意も必要だ。
ヨモギやウコン、シソなどの素材は体に良さそうなものばかり。酒に漬けず、そのまま食べた方が良いのでは?桑江さんは「『酒は百薬の長』の言葉通り、適量の飲酒は体を温めたりストレスを発散したりする効果がある」と話す。水や茶に比べてアルコールには素材の成分が溶け出しやすく、苦みなど癖のある素材でも酒に溶けた成分を薄めて飲みやすくしやすいという。

完成した酒は適量を心がけ1日35~40ミリリットルを目安に飲む。ストレート、ロック、またはジュースなどを180ミリリットルほど混ぜて飲むのも良い。
記者もクコ酒を初めて飲んでみた。まずはストレートで。赤い実が沈む酒は薄い黄金色で、甘い香りがほのかに漂う。飲んでみると舌触りがまろやかで想像以上に甘みがある。次にグラスいっぱいの氷とトニックウオーターで割ると、クコの風味が残るカクテルになり、さらに飲みやすい。
健康酒は幅広く、果実酒や野菜酒といったジャンルもある。野菜ソムリエの福光佳奈子さんは会社員だった2005年、梅酒好きが高じて自宅で手づくりを始めた。果実を使った酒を複数造るうち、鮮度や品種で味や栄養価が変わる面白さに目覚め、専門家として活動するようになった。
「何を漬けても良いんです」と笑う福光さんがこれまでに開発した酒は300種類。さくらんぼやバナナなどの果物、トマトやニンジン、ゴーヤーなどの野菜、花やココアのほか、かつお節やニンニクも漬ける。酒を飲まない人も料理酒として使えば風味やコクが良くなり、引き上げた実はジャムや炒め物、入浴剤にも使える。福光さんは「手づくり酒でおうち時間を楽しみながら、健康に過ごしてほしい」と呼びかける。
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市販の健康酒も多様に

市販の健康酒も多様だ。看板商品の養命酒を医薬品として製造・販売してきた国内薬用酒メーカーの最大手「養命酒製造」は2010年から酒類の商品製造を始めた。養命酒を造る合醸法と呼ぶ伝統の手法を用い、ハーブやショウガなどを抽出したリキュールやジンなど計15種類以上を販売する。
同社商品企画開発グループの加藤参さんによると、市販品の場合は一般では入手しにくい材料を複数組み合わせたり、素材のエキスを浸漬(しんし)させるための特別な技術で味や香りを引き出したりしているため、自家製とは違った味が出るという。「ハーブの香りはリラックス効果が期待できる。お酒を通じて自身をいたわるひとときを楽しんでほしい」と話す。
(松浦奈美)
[NIKKEIプラス1 2021年5月1日付]
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