初鰹の「たたき」 塩とゆず果汁で味わいつくす
魅惑のソルトワールド(53)

初鰹(カツオ)の季節がやってきた。この時季に獲れる鰹(別名・上り鰹)は、フィリピン沖から黒潮にのって北上してきたもので、秋口の「戻り鰹」(同・下り鰹)と比べ赤身が多く、さっぱりとした味わいが特徴だ。
生の鰹は刺し身もいいが、「たたき」で食べてもおいしい。鰹の水揚げ量も多く、消費量で日本一の高知県内には、たたきを提供する店がいくつもある。県外にも支店を持つ店もあるので、本場の味を楽しんだことがある人も多いだろう。
たたきは元来、漁師が釣ったものを皮付きのまま表面だけ焼いて食べた「焼き切り」に由来すると言われる。表面だけ焼くことで、皮がサクッとし、香ばしくなり、食欲がそそられる。香りと焦げ目の苦味が、鰹独特の鉄っぽい匂いや味を緩和してくれるため、食べやすくなる。皮の下の脂がとろりと溶けて身になじむためジューシーになり、かつ中の身はレアのままで柔らかい。鰹のたたきは幾重にも重なった複雑なおいしさが何よりの魅力だ。
ミョウガやショウガ、ニンニクなどたっぷりの薬味に、ポン酢やしょうゆをつけて食べるのが一般的だが、昨今は「塩たたき」も知られるようになった。高知県内には、それを看板メニューにした店も多く、土産品としても開発されている。
鰹は足が早い魚で、塩たたきも鮮度が良くないとおいしくない。たたきが塩で食べられるのも、鮮度がいい鰹が手に入る土地柄ならではだろう。
「塩たたき」は塩にもこだわる。高知県は日本有数の完全天日塩の名産地で、高知の黒潮として流れる海水をもとに生産している。完全天日塩は、火を使わず天日でゆっくり結晶化させたものをいう。地元においしい塩がたくさんあるからこそ、塩たたきという食べ方が広がったに違いない。
製塩所ごとに製法が異なり、粒の大きさや味わいも違う。また、飲食店でも店ごとに置いてある塩が異なる。鰹のたたき専用に開発された塩もあり、たたきの興隆とともに盛り上がりを見せている。

実は鰹の塩たたきには、もう1つ食べ方がある。高知県四万十市中村の「中村伝統の塩たたき」だ。高知市周辺では塩を振るだけのシンプルなものだが、中村では塩や酢、柑橘類を主体にしたタレでたたき、味をなじませ鰹を味わう。地元・中村商工会議所が作成したパンフレットによれば、約40の店舗で自慢の塩とタレを使った塩たたきが楽しめるそうだ。
中村の塩たたきは人気グルメ漫画「美味しんぼ」でも紹介され、一躍脚光を浴びた。その中村流の鰹の塩たたきの作り方はこうだ。
(1) 皮付きのまま炙(あぶ)った鰹(柵)を厚さ1センチほどに切る
(2) (1)に塩をふり、青じその千切り、刻んだワケギ、スライスした玉ねぎをたっぷりのせる
(3) 酢、日本酒、ゆず酢、みりん、しょう油(少量)を鍋に入れて煮きってタレを作る
(4) (2)に(3)のタレを冷ましてからかけて、手のひらでたたいてなじませる
(5) 余分なタレを流し、にんにくのスライスと青じその葉をのせたら出来上がり
バンバンとたたいたり、斜めに傾けて余分なタレを流したりする工程があるため、中村の塩たたきの名店「厨房わかまつ」では、そのまますぐ提供できるように皿の周囲に溝の掘ってある木製の板を使っている。自宅で実践するなら、完成まではまな板の上で作業し、最後に盛り付けるのが良さそうだ。ゆず酢がなければ、ゆず果汁やレモン果汁で代用してもいい。
たっぷりのタレにつかったままでマリネしながら食べる方法もある。これは時間の経過とともに鰹の身が引き締まり、食感に変化が出る。それもまた新たな味わいだろう。

鰹が余って翌日に持ち越してしまった時などは、以前に「臭みも抜けて身が締まる『塩ヅケ』刺し身のススメ」でもご紹介した塩ヅケがおすすめだ。柵のままたっぷりの塩をすり込んで15~20分ほど冷蔵庫等で置いておく。臭みが抜け、刺し身やたたきとはまた違った味わいになる。この際もぜひ使う塩にこだわってほしい。選ぶ塩で最終的な味わいが変わるからだ。
鰹はDHAやタウリンなどを多く含んでおり、ヘルシーな食材とされている。刺し身だけでなく、塩たたき、塩ヅケなどぜひ、いろいろな方法で味わいつくしてみてほしい。
最後に高知県内の製塩所を列挙してみた。通販で商品を購入できるところも多い。お好みの塩を取り寄せ、異なる塩で初鰹を食べ比べてみるというのも一興だろう。
<高知県内の製塩所と代表的な商品>
▼土佐のあまみ屋 「土佐の海の天日塩 あまみ」
▼有限会社ソルティーブ 「初代・土佐の塩丸」「二代目・土佐の塩丸(青丸・白丸)」
▼企業組合ソルトビー 「土佐黒潮天日塩・海一粒」
▼田野屋塩二郎 「塩二郎」
▼小川製塩所 「土佐久礼太陽塩 心平」
▼海工房 「りぐる」(釜炊き)「美味海」
▼塩の邑 「山塩小僧」
▼室戸海洋深層水 「龍宮のしほ」「深海の華」(釜炊き)
▼浅川自然食品工業 「室戸の海洋深層水塩 マリンゴールドの塩」(釜炊き)
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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