SKY-HI 自分を殺すチームワーク、グループに不要
SKY-HIインタビュー(下)
AAAのメンバーとソロラッパーの両輪で自身の活動の枠を広げてきたSKY-HI。2020年はレーベル&マネジメント会社である「BMSG」を立ち上げた。BMSGはBe My Self Groupに由来し、自分のままで、自分らしく才能を開花させられる環境を意図する。

BMSG設立と同時に始動したボーイズグループのオーディションを追う番組「THE FIRST」。日本テレビ系『スッキリ』で4月2日から密着企画を放送、Huluで同日20時から完全版を配信している。オーディション課題曲はChaki Zulu、Sunny Boy、☆Taku Takahashiらが提供し、結成するボーイズグループは22年中にCDデビューする予定だ。
彼は今、何を考えているのか――。その胸中に迫る本インタビュー。前回の「SKY-HI 「幸せじゃない」と感じてレーベル立ち上げ」に引き続き、今回は才能の国外流出への危機感、オーディションの重圧などについて語る。
日本の才能を殺したくない
「才能が国外に流出するのは当然の状況」とSKY‐HIは語る。
「なぜK‐POPがこんなに盛り上がっているのか。目線の数だけ見方があると思いますけど、僕はシンプルに『クリエーティブを最優先に考えていて、そのうえで最近はアーティシズムまで出だしたから』だと思います。08年のBIGBANGの登場以降は特にそう感じます。BTSに至ってはスタンスやメッセージを入れることにも成功している。カウンターカルチャーってそういうところから生まれると思うんですよね。みんなが前を向いて進んでいるときに。
でも、今の日本でそれが生まれる予感がほぼないんです。やっぱり業界自体に元気がないから。そうなると、才能も集まらない。才能は生かしてくれる場所や高く買ってくれる場所に集まるから、今、みんながこぞってYouTubeを始めるのも当然の流れですよね。
インターネットのスピード感で言うと、ムードや潮流って3カ月ごとぐらいに変わります。そのスピードで新陳代謝して作り直し続けているイメージが、韓国は強いです。追随するように、他のアジアの国々もどんどんレベルを上げています。20年くらい前までは日本がアジアNo.1のエンタテインメント大国だったなんて、今の若い子に言っても信じてもらえなそうですよね(笑)。
だから、自分が日本でそれをやります。まず初めに大事なのは、旗を揚げること。日本に人的資源が豊富なことは分かっていたので。彼らが一様に口をそろえて言うのが、『日本国内に行きたい事務所がない』。今回のオーディションでも、特技に『韓国語』を挙げた子も少なくない。そんな状況だからこそ、まず、旗を揚げることが大事だったんです。
僕自身が影響力を持った状態で『やる』と声を上げるのであれば、それが説得力に変わり、ローティーンから20代まで、同じような意志を持った子には届くと思ったし、集まってくれるだろうと思っていました。自分が現役のアーティストであるからこそ、自分がどんな行動をして、自分の中にあるもやもやとした感覚を1つひとつ言語化していけば、共鳴してくれる人はいると信じていました」
すでに20年10月、BMSGで契約した19歳(当時)のヒップホップアーティストNovel Coreのシングルを、BMSGとエイベックスが共同設立したレーベル「B‐ME」からリリース。次いで「THE FIRST」では、ボーイズグループの誕生を目指す。

その「THE FIRST」は、4月2日から『スッキリ』(日本テレビ系)で放送を開始。その夜にHuluで完全版を配信する。Huluと『スッキリ』と言えば、昨年、NiziUを生んだ「Nizi Project」の座組だ。『スッキリ』でのオーディション密着企画が決まったのは、BMSG代表取締役CEOとして自ら日本テレビに足を運び、「ダメ元でプレゼンした結果」だという。今後、地方での審査の様子から東京での審査、合宿の模様などが次々に番組で流されていく。
一方で、「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」をはじめ、Big Hit Japanによる「&AUDITION」、さらには「Nizi Project」の男性版など、大型のボーイズグループオーディションも複数予定されている状況だ。その中で、「THE FIRST」は、どんな特徴を打ち出すのか。
「人を選ぶ」という重圧
「例えば、JYP(エンターテインメント)がオーディションをやるとなると、TWICEなど過去のロールモデルがあるから、ワールドスターになる道が割と明確に見えている。高校野球の甲子園常連校の選手にはプロ野球やメジャーリーグが見えているというのが『Nizi Project』の状況だとしたら、うちは1年目の新設校が甲子園常連校に挑んでいくみたいなものですよね(笑)。
『THE FIRST』のステートメントは、『クリエイティブファースト、クオリティファースト、アーティシズムファースト』。今まで自分が活動してきて、日本の大手芸能事務所でそれらを掲げているのを見たことない、ということが、自分の1番の疑問でもあり憤りでもあったので、僕はそれをやります。自分のスタイルやスタンス、メッセージがあることを大切にすると掲げたオーディションなので、それらをちゃんと見られて、さらに磨いていける場にしたい。そこが他のオーディションとの違いです。
実際には、たくさんの応募が集まり、当初はクオリティーの高さにワクワクしていましたが、次から次に他のオーディション番組が発表され、『審査会場に誰も来ないんじゃないか』って、正直怖かったです。でも蓋を開けたら、事前審査で『絶対見たいな』と思っていた子たちはほぼ全員来てくれました。『クリエイティブファースト、クオリティファースト、アーティシズムファースト』『才能を殺さないために』といったステートメントやSNSでの自分の発信に共鳴して来てくれている子が多くて、こんなにいるんだなと。その意味で、やってよかったなって救われる思いもあります。ただ、リスペクトしてくれるのはありがたいんですが、合宿中に1回くらいタメ語で話してほしいという密やかな目標はあります。
オーディションの審査をすることで、人が人を選ぶ業の深さも感じています。育成のプロセスとしての合宿なのに、人数を減らしていかなくちゃいけない……つらいですね。残っている子が夢に出てくることもあるけれど、脱落した子と話している瞬間とかは毎晩夢で見ます。だからこそ、『投票でこうなっちゃったんです』とかにしたくない。僕という1人の人間が独断と偏見で選ぶという責任を負う必要があるし、その選考内容は番組内でしっかり開示していく必要はあるなと思っています」
"音楽と仲が良い"才能を
オーディションのステートメントには、「次の10年で(K‐POPに)本気で追いついて、アジアから世界へ新しい風を巻き起こすつもりである」とある。あらゆるシミュレーションをしながらデビュー後の体制作り、アルバム制作の準備を進めている。
「体制としては、1アーティストに対してのコアスタッフの人数は、極力少な目にしたいです。意思決定に確認を費やしたくないから、というのが最大の理由ですけど、もう1つは、そのほうがいろんなところと仕事ができるから。日本にはワールドクラスのビートメーカーが何人もいるのに、日本からそういうボーイズグループが出てないことがおかしいんですよね。
アルバムは来年を予定して、今準備を進めています。ただ、まだスキームがないので、完成までに試行錯誤を繰り返して難しい作業になるかと思います。合宿中の課題曲を通して、本人たちのクリエーション能力も高めていかないといけないですし」
最後に残るのは5人の予定。バランスをどう考え、どんなグループを目指すのか聞いた。
「『才能』っていう言葉を、最近僕は意識して使うようにしているんだけど、自分が彼らに1番望んでいるのは、自分が持っている才能、特徴、特性、個性、武器みたいなものを、バランスをとるためにマイナスにしないでいいグループであってほしいということ。サッカーではよく、『自分を殺すチームワークは要らない』って言いますが、それを目指していますね。
作りたいのは、"音楽と仲が良い"グループです。人が作ったメロディーやトラックであっても、誰かのセンス任せではなく、感覚値としてちゃんと把握できるまで自分なりに落とし込めること。ダンスならその振りがどこから生まれているのか、キックの何を拾っているのか、グルーヴってそもそも何なのか、座学じゃなくて肌とか耳で感じられること。思考が停止されてない、意志のあるボーイズグループでいてほしい。そうでないと、いつか音楽を嫌になっちゃうと思うので。
耳目を集める存在というのはどうしても過剰なストレスと切っても切れないので、そうなったときにどう踏みとどまれるかって言ったら、音楽への愛情しかないんですよね。それをメンバーみんなが持っていたら同志をリスペクトし合えるし、自分自身のこともリスペクトできる。今の日本で"音楽と仲が良い"ボーイズグループは、なかなか見ることができないけど、音楽と仲が良いボーイズグループは世の中から求められているし、絶対に必要なんです。そこですべては始まります」
<<【前編】「SKY-HI 『幸せじゃない』と感じてレーベル立ち上げ」
(ライター 日高郁子)
[日経エンタテインメント! 2021年5月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
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