読み継ぎたい絵本10選 出版から30年以上の名作ぞろい

こどもの日も間近。幼いころに読んでもらった絵本の記憶は、大人になってもあせない。他者への慈しみや協力する素晴らしさ、冒険を教えてくれる数々の絵本たち。出版から30年以上読み継がれてきた、名作中の名作を読者が選んだ。
1位 ぐりとぐら
624ポイント 心に焼き付く黄色いカステラ

青と赤のとんがり帽子をかぶった野ねずみのぐりとぐらが、森で見つけた大きな卵でカステラをつくり、動物たちと分け合う。つい口ずさみたくなる名前、リズミカルな文章は多くの人の記憶に刻まれ、圧倒的な首位となった。1963年に出版されて以来、国内の絵本を代表するロングセラーだ。
試行錯誤の末、フライパンからふんわりと黄色いカステラが顔を出す場面には、子どもたちの目がくぎ付けになる。「極上の黄色いカステラは、今もずっと子どもたちの憧れ」(絵本ナビの磯崎園子編集長)。「幼い息子に『このカステラ、作ろう!』とせがまれた時は、私も同じことを母に懇願したことを思い出して笑みがこぼれた」(絵本専門士の山本美恵子さん)
ぐりとぐらは、においに誘われてやってきたへびやライオン、モグラやゾウ、オオカミなどと仲良く一緒にカステラをほお張る。おいしいものはわけあって、みんなで食べるともっとおいしくなると教えてくれるようだ。
読者からは「子や孫に何度も読んでとせがまれた」という声が多く寄せられた。「子どもの頃、寝るときに一番母に読んでもらった」(40代男性)という思い出も。子どもが成人したいまも子育ての思い出として、本棚に大切にしまっているという人もいる。
カステラの印象は強く「子どもが初めて一人で料理をするきっかけになった」(50代男性)、「子どもとお菓子を作るきっかけになった」(50代女性)など、料理の経験につながったという人も目立った。
「これほど愛した本はない」(50代女性)と断言する読者もいるほど、時代を超えて愛される絵本だ。
(1)中川李枝子作・大村百合子画(2)福音館書店(3)990円
2位 はらぺこあおむし
307ポイント カラフルな切り絵のコラージュ

小さなあおむしが卵からかえり、幼虫となっていろいろなものを食べて成長し、さなぎとなり、そして美しいチョウになる。独特の味わいを醸し出すカラフルな切り絵のコラージュには大人も引きこまれる。
果物やチョコレートケーキ、キャンディーなど、絵本の紙に実際にあいた小さな穴は「あおむしが食べた跡が表現され、まるで絵本のなかの食べものをあおむしがむしゃむしゃと食べていったかのよう」(クレヨンハウス東京店の馬場里菜さん)。
「これぞ世界中の子どもたちをとりこにする、唯一無二で似た絵本はないと思う」(絵本作家の新井洋行さん)。読者からも「孫たちが生まれて初めて目にした絵本。色がきれいでどの子も目を輝かせて見ていた」(60代女性)と、色彩の美しさに感銘を受けたという人が少なくなかった。
(1)エリック・カール作、もりひさし訳(2)偕成社(3)1320円
3位 おおきなかぶ
302ポイント うんとこしょ、どっこいしょのあの掛け声

「うんとこしょ、どっこいしょ」。絵本ナビの磯崎さんは「この耳なじみのあるフレーズこそ、読み継がれる最大の理由」とみる。大きなかぶはおじいさん、おばあさん、孫が引っ張っても抜けない。犬や猫、はたまたネズミまで動員してようやく抜ける。「彫刻家の佐藤忠良さんはシベリア抑留の経験から、現地で見て感じたロシアの民族衣装や家屋を描いた」(馬場さん)という通り、簡素かつ力強い写実的な絵も魅力だ。
子どもが朝布団から出るのを嫌がったとき「おおきなかぶごっこをして布団から引き出した」(60代女性)という思い出を持つ読者もいる。掛け声をかけるたびに「子どもがかぶを抜くしぐさをしていた思い出深い絵本」(60代女性)という声も。一緒に掛け声をかけながら読むのが楽しいという感想も多かった。
(1)A・トルストイ再話(ロシアの昔話)、内田莉莎子訳、佐藤忠良画(2)福音館書店(3)990円
4位 100万回生きたねこ
233ポイント 本当の愛を見つけたねこ

「愛は何よりも尊く、愛だけが自分自身よりも尊いものになり得るものだと、深く感じることができる絵本」(新井さん)。誰も愛さずに100万回生きてきた唯我独尊のねこが、愛するねこに出会ってその死に初めて泣き、共に死ぬことを選ぶ。
「大人は本当に愛をみつけた話として読む」(教文館ナルニア国の川辺陽子さん)という通り「大人になって再読した方が心に残る。一番大切な愛があるんだと泣いた」(60代女性)人が目立った。就職で独立した娘に渡したという人や「夫からプロポーズのときにもらった」(30代女性)という声もあった。
(1)佐野洋子作・絵(2)講談社(3)1540円
5位 スイミー
227ポイント 人と違っても恐れない勇気

1匹だけ黒い、小さな魚のスイミーは、大きな魚に仲間の赤い魚たちを食べられて独りぼっちに。広大な海で強く賢くなり、赤い魚たちと再会して大きな魚を撃退する。スタンプを駆使した海の絵も魅力的。「多くの人に愛されるのは、スイミーにその時々の自分を重ね、共感し、前に進む希望や勇気をもらえるから」と山本さん。
「人と違っても恐れることはない、違うことが役に立つと勇気をくれる」(40代女性)。「小さくてもみんなで協力すれば勝負ができることを子ども心に学べた」(40代女性)と、絵本のメッセージはいまも多くの人の心に生きている。
(1)レオ・レオニ作、谷川俊太郎訳(2)好学社(3)1602円
6位 いないいないばあ
218ポイント 絵本になった赤ちゃんの遊び

まだ口もきけず、歩けない赤ちゃんが喜ぶ遊びといえば、いないいないばあ。「それがそのまま絵本になった。ページをめくるたびに赤ちゃんが笑ってくれる、その安定した笑顔の繰り返しが一番の魅力」(磯崎さん)。赤ちゃんと何をして遊べばいいかと戸惑う親の強い味方だ。優しいタッチのぬくもりのある絵も愛される理由だ。
読者からも「保育士の資格を持つ妻が子どもに最初に与えた本。何百回と読んだ」(50代男性)。「妹に毎日読み聞かせていた。そして母になり子どもたちに。今は1歳半の孫娘の大のお気に入り」(50代女性)。出産祝いとしても人気だ。
(1)松谷みよ子文、瀬川康男絵(2)童心社(3)770円
7位 スーホの白い馬
178ポイント 大切な存在を失うこととは

モンゴルの楽器、馬頭琴にまつわる少年と白い馬の悲しい物語。画家の赤羽末吉氏がモンゴルでのスケッチや写真をもとに描いた大草原が雄大だ。
「モンゴルという知らない世界を存分に体感できる。悲しみを抱えながら前を向いて生きていくスーホを心に留めておいてほしい」という山本さんは「この絵本は子どもたちの生きる力になると信じている」と力説する。
読者からは「大切な存在を失うとは、死んでしまうとはどういうことなのかを幼いなりに感じた」(40代女性)などの思いが寄せられた。
(1)大塚勇三再話(モンゴルの民話)、赤羽末吉画(2)福音館書店(3)1540円
8位 ちいさなうさこちゃん
177ポイント 世界中で愛されるミッフィーの誕生物語

うさぎの女の子の誕生を祝福する物語。「オランダ生まれのうさこちゃんが世界中で愛され続けるのは、自分も生まれる前から祝福された存在であることを、絵本を通して感じられるからなのかもしれない」と馬場さん。
ディック・ブルーナのモダンでシンプルなイラストは時代を経ても古びない。濃い色使い、かわいらしいキャラクターは子どもの脳裏に強く刻まれ「文字が読めない年齢の子でも反応を示す不思議な絵本」(30代男性)。主人公のキャラクターは絶大な人気を誇り「今もミッフィーとしてすっかり家庭になじんでいる」(60代女性)。
(1)ディック・ブルーナ文・絵、いしいももこ訳(2)福音館書店(3)770円
9位 ちいさいおうち
170ポイント いつまでも変わらないでほしいもの

のどかな田舎に立つ小さなピンク色の"おうち"がじっと季節や時代の変遷を見つめる。都市化の波にのみ込まれるが、最後は自然あふれる田舎に引っ越し、幸せに暮らす。山本さんは「世の中が変わっても、変わってほしくないものがある。何が大切で、何が幸せなのか、考えさせられる」という。美しい絵も魅力だ。
開発がどんどん進む様子が描かれ「現代文明への懐疑心が芽生えた」(60代男性)。一方「どんな環境でも変わらない自分で、希望を持ってほしいというはなむけのメッセージ」(50代女性)とする声もあった。
(1)バージニア・リー・バートン文・絵、石井桃子訳(2)岩波書店(3)1870円
10位 からすのパンやさん
151ポイント ユニークなパンに子どもは大喜び

仕事や子育てに忙しく、お客さんが激減したからすのパンやさんが、一家総出で作り出したのが80種類以上ものパン。圧倒的な数のユニークなパンに子どもたちは大喜びだ。「かこさとしさんの優しくて、子どもたちを喜ばせたいという人柄がとてもよく伝わってくる」と新井さん。
「子どもの頃、パンがとてもおいしそうに見えて何度も読み返した」(50代男性)という人は多い。馬場さんは、さまざまな形の「おやつパン」のなかから「好きなパンを見つける楽しみは、子どもが自ら考え、選びとる力を育んできた。働くことの尊さも伝えてくれる」という。働く親へのエールも感じられる作品だ。
(1)かこさとし作・絵(2)偕成社(3)1100円
大人の心もつかむ絵本のメッセージ
1960~70年代は国内で数多くの名作が出版された、絵本の黄金期。子どもたちをわくわくさせ続け、長く読み継がれてきた絵本はこの時期に世に出たものが多い。ロングセラーには大人の心もつかむ力が備わっている。ページをめくってみると、日ごろ忘れかけているユーモアや愛、挑戦の大切さを気づかせてくれる。
赤羽末吉氏のような画家の芸術的な作品から、グラフィックデザイナーのディック・ブルーナのシンプルなイラストが特徴のモダンな作品まで、個性的な絵柄も多くの人を魅了してきた。コラージュを多用して絵に立体感を持たせる「はらぺこあおむし」のエリック・カールは、その作品の色彩の美しさから「色の魔術師」とも呼ばれる。
幼少期に繰り返し読んだ絵本は、いくつになっても忘れることはない。デジタルの時代になっても、絵本はぬくもりを感じられる紙で読みたい。新型コロナウイルス禍で遠出がしづらいなか、小さな幸せを探しに書店に足を運んでみるのも悪くないかもしれない。
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(高橋里奈)
[NIKKEIプラス1 2021年4月24日付]
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