ワイン大好きイタリア 次はノンアル・スパークリング

テラスやアウトドアでの飲食が心地よい季節になった。大手化粧品会社の調査によれば、新型コロナウイルス禍により家飲みの回数が2割ほど増えたという。気分が華やぐスパークリングワインで、コロナ禍によるストレスを解消したい。でも、アルコールに弱い家族がいる――。テレワーク中の自宅ランチは、かんたんパスタや冷凍ピッツァ。午後のリモート会議に向けて気分を上げたいが、酔いたくはない――。そんなときにぴったりなイタリア産ノンアルコール・スパークリングが、やや甘口から辛口まで出そろった。
そもそもノンアルコール・ワイン製造の分野で、イタリアはフランスなどのEU(欧州連合)諸国に後れをとってきた。イタリア国内の需要が少なかったからだ。親戚の集まりやパーティーが多く、アルコール分解能が高いという体質もあるのか、イタリアの道路交通法で飲酒運転の罰則が定められたのはEU統合直前の1992年のことで、それまではおおらかだった。

また、キリスト教カトリック信者が多いイタリアでは、ワインは「イエス・キリストの血」としてカトリックの儀式に欠かせない。新約聖書には、婚礼の宴でイエスが水をぶどう酒に変える奇跡の場面がある。だから、ノンアルコール・ワインは、イタリアにとってワインとは別物だったのだろう。
だが、時代の流れとともに、アルコールを飲まない移民がイタリア国内にも増え、海外のノンアルコール需要も高まって、ノンアルコール・ワインが製造されるようになった。なかでも、スプマンテ(発泡性ワイン)やフリッツァンテ(弱発泡性ワイン)の代替になるのが、ノンアルコール・スパークリングである。
ブドウを原料とするノンアルコール・スパークリングの製法は大きく分けて2つある。1つ目は、ブドウ果汁に炭酸ガスを加える製法。2つ目は、ワインからアルコールを分離して炭酸ガスを加える脱アルコール製法である。1つ目の製法のイタリア産ノンアルコール・スパークリングジュースは、すでに数年前から日本の飲食店やショップで扱われている。
最初にご紹介するのは、弱発泡性ワインの「ランブルスコ」で有名なドネリ社の「グレープ・スパークリング」。ロッソ(赤)、ビアンコ(白)、ローズ(ロゼ)の3種類がある。ロッソには黒ブドウ品種のランブルスコとサンジョベーゼを、ビアンコやローズにもワイン用ブドウを使っているので、ワインに近い香りと適度な酸味があるのが特徴。バラの天然香料を加えたローズの香りには癒やされそうだ。


製法は、ブドウ果汁を2つのタンクに分け、1つは温度管理をして保管、もう1つは自然の糖によりアルコール発酵させる。発酵により発生した炭酸ガスを、保管しておいた果汁に注入し、スパークリングジュースができ上がる。この製法により美しい泡立ちと色をかなえた。フェラーリの車体デザイナーだった故スカリエッティ氏がデザインしたボトルもスタイリッシュだ。
輸入元のモンテ物産(東京・渋谷)によれば、ビアンコは相性のよい料理として、「アスパラガスとポーチドエッグ」がお薦め。ロッソは「生ハムのパニーノ」に合い、モルタデッラ(ハム)やパルミジャーノなどをパンにはさむのもよい。ローズは、「モモとブッラータ(生クリーム入りモッツァレッラ)」と香りも好相性。製造元は、「3種類とも果物のタルトなどデザートにとても合う。クリーム系には白かローズ、チョコレート系には赤がお勧め」と言う。

2番目にご紹介するのは、アンナ・スピナート社のオーガニック栽培ブドウを用いた炭酸ガス入りブドウジュースの「ゴッチェ・ディ・ルーナ」。イタリア語で「月の雫(しずく)」というロマンチックな名前と、EUオーガニック認証マークがついた白いキュートなボトルが女性オーナーらしい。香りはリンゴや白い花を思わせる。
このワイナリーは、世界で有名なスプマンテ「プロセッコ」の造り手で、ジュース用にオーガニック栽培したシャルドネを100%使っている。温度管理したブドウ果汁に、炭酸を加えた。


やや甘みが強いので、「ゴルゴンゾーラ・ドルチェのピッツァ」と相性がよい。半分はそのまま、残り半分は蜂蜜をかければ、デザート感覚も楽しめる。製造元のお薦めは、「ティラミス」と「カットフルーツのスパークリング和えとジェラート」。
最後にご紹介するのは、プリンセス社の「ボッリチーネ・ドライ(辛口)・アルテルナティヴァ・アルコール0.0」。日本市場での同社のラインアップに、今春、スパークリングが加わった。ボッリチーネは「小さな泡」を意味し、(弱)発泡性ワインのこと。「アルテルナティヴァ」はアルコールの代替飲料を指す。

同社は、白ワインの名産地トレンティーノ・アルト・アディジェ州にある食品研究・製造会社。近隣を含め3州のワインとブドウ果汁を使用し、電気透析で液体を安定させる独自の脱アルコール製法を開発。しっかりとした泡立ちと、コクのある辛口、黄色い花やかんきつ系の香りを実現した。お薦めは、「タレッジョ(など溶けるチーズ)・ソースのニョッキ」から「トマトソースのパスタ」、焼き菓子まで幅広い。
注意したいのは、日本の酒税法では、アルコール分が1%未満なら「ノンアルコール」に分類されることだ。つまり、これらノンアルコール飲料でも、自然発酵などによりアルコール分がゼロではない。イタリアワインに詳しく、大手デパートのワイン売り場に立つこともあるシニアワインエキスパートの依田雪絵さんは、「未成年や妊婦、授乳中の女性、アルコールに極端に弱い方やアレルギーの方にはお薦めしていません」と念を押す。

飲む顔ぶれをしっかり確かめたうえで、ノンアルコール・スパークリングを取り入れ、コロナ禍のストレスをこまめに解消していただきたい。
(イタリア食文化文筆・翻訳家 中村浩子)
イタリア食文化文筆・翻訳家。東京外国語大学イタリア語学科卒。イタリアの新聞社『ラ・レプブリカ』極東支局長助手をへて、文筆・翻訳へ。著書に『イタリア薬膳ごはん』(共著)、『「イタリア郷土料理」美味紀行』、訳書に『イタリア料理大全 厨房の学とよい食の術』(共訳)、『スローフード・バイブル』。
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