大泉洋 原作小説は自分がモデル、監督が決まり怖さも
映画『騙し絵の牙』で雑誌編集長を演じる
三谷幸喜(『清須会議』)、原田眞人(『駆込み女と駆出し男』)、福田雄一(『新解釈・三國志』)ら名だたる監督と組んできた大泉洋。3月26日公開の主演映画『騙し絵の牙』は、『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』などで映画賞を席巻してきた吉田大八監督とのタッグ作だ。原作は、『罪の声』『歪んだ波紋』の作家・塩田武士が、大泉をイメージして"当て書き"した2018年の本屋大賞ノミネート作。大胆な発想と"人たらし"の才能を生かし、廃刊の危機を乗り越えようと奮闘する雑誌編集長・速水輝を演じている。

「僕をイメージして小説を書くというお話をいただいたときは、大変、光栄なことだなと思いましたね。そして塩田さんから『出版社を舞台にしたい』と言われたんですけど、出版界って、僕みたいな違う業種の人間にとっては、よく分からない世界。『そのお仕事自体に興味を持てたり、知識欲がかき立てられるような本になるといいですね』とか、そういうような擦り合わせをした気がしますね。
映像化は各社いろんなアイデアがあって面白かったわけですけども、やっぱり吉田大八さんという存在は大きくて、『吉田さんが監督してくれるんだ~』と思った。僕が特に好きだったのは、『紙の月』。とにかく完成度の高い映画だなあと思ったし、最後の宮沢りえさんと小林聡美さんのお芝居の空気感や緊張感がすごかった。そしてそのお芝居は、役者が好き勝手にやって生まれるものじゃなく、監督が相当厳しく、演技の仕方や言い回しのネジを締めてるんだろうなとも感じました。だから大八さんに監督が決まったときは、『果たして、僕に応えられるのか?』という怖さが襲ってきて、正直ビビりました(笑)」
「謎の男」のさじ加減
吉田監督から渡された脚本は、原作と異なる部分が多かったという。「出版社を舞台に騙し合いが繰り広げられるところは共通してるんだけど、『ここまで変わるんだ!』っていうくらい原作から変わっていて。小説とは別の『騙し絵の牙 THE MOVIE』でした(笑)」。「自分が面白いと思えないと主演を務められない」と言う大泉は、そこから話し合いを重ねて、脚本を完成させた。
キャスティングは「大泉さんとの相性を考えながら」(吉田監督)行われ、ヒロインの編集者・高野恵役には松岡茉優を起用。そのほか佐藤浩市、國村隼、小林聡美、木村佳乃、中村倫也、宮沢氷魚ら豪華キャストを迎え、19年10月から約2カ月にわたり撮影を行った。
「現場には、本当に豪華で実力のある俳優さんたちが次々に現れる。しかも速水はほとんどの人と共演できるから、毎日楽しかったです。松岡茉優ちゃんとは何度か共演してるけども、ここまでしっかり共演したのは初めて。やっぱり勘の良い、賢い女優さんだなあと思いました。浩市さんともまたしっかり共演できたし、昔から好きな國村さんとも共演できてうれしかったな。宮沢氷魚君は、一瞬でファンになっちゃいましたね。カッコイイし、爽やかで、英語も超ネイティブ。現場では、それをいじって遊ばせてもらいました(笑)。
速水を演じる上で意識していたのは、あまり感情を出さずに、何を考えてるのか分からない男にすること。ただ、彼は人たらしの面も持ってるので、人を引きつける要素もなきゃいけない。出版界の人間として誰よりも熱い思いを持っているのも彼だったりするので、さじ加減が難しかったです」
完成した映画は、騙し合いバトルがスピーディーに展開され、先の読めないスリリングな作品に。また出版界のリアルな現状や、そこで働く人々の逆境の人間ドラマも見どころとなっている。
「スピード感がすごくて、ジェットコースターでワーッと最後までたどり着いちゃうような勢いがある。監督が仕掛けた様々な仕掛けに戸惑いながら、最後まで気持ち良く走り抜けて見てもらえる映画になったんじゃないかと思います。
もともと当て書きされた役だったけれども、原作とは全然違う話になっているので、今や当て書きの役を演じたという印象はないです(笑)。また大八さんの演出が大変緻密で。僕の癖みたいなものを見事に見抜いて、1つひとつ細やかに調整していくんですよ。『ここの間、いらないので取ってください』とか(笑)。だから大きくは違わないんだけど、なんかいつもと違った感じというか。僕の新しい一面が出せたというところでは非常に面白い経験だったし、素晴らしい演出だったと思いますね」
20年末は『紅白歌合戦』の司会を務め、福田雄一とのタッグ作『新解釈・三國志』が興行収入38億円を超える大ヒットに。21年はNetflix映画『浅草キッド』での主演が発表されているほか、TEAM NACSの舞台やWOWOW30周年番組『がんばれ!TEAM NACS』なども控える。
「『新解釈・三國志』は大ヒットになって、大変ありがたい映画になったなあと思います。ただ、『鬼滅の刃』があまりにすごすぎたもんですからね。あまりニュースとして聞こえてこなかったっていうのが、残念なんですけども(笑)。
紅白は、無観客で、ソーシャルディスタンスを取りながらと難しいところはあったけど、みんなで乗り越えて、いい紅白にできたなあと。評判も良かったし、僕自身も本当に楽しかったですね。
そして今年は、NACSが25周年だったかな。本公演もありますし、3月からのWOWOWの番組も、相当面白いと思いますよ。一体なんなのか分からない、新ジャンルのものになっているので。
『騙し絵の牙』は、去年の6月に公開予定だった作品。ずいぶん時が経ちましたが、僕は熟成されて良かったと前向きに捉えてるんです。まだまだ人々の間にコロナの息苦しさが残っているけど、この大変痛快で爽快な気分になれる映画を見て、少しでもスッキリしてもらえるといいなと思っています」

(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2021年4月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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