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リアル脱出ゲーム オンラインで広がるおうちユーザー

連載 エンターテック(9)

NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

コロナによってエンタテインメント界が大きな打撃を受けるなか、ライブと同様、ネットに活路を見出し話題となっているのが、「オンラインリアル脱出ゲーム」です。2007年から、マンションの一室や遊園地、野球場など、様々な場所を舞台に、謎を解いてそこから「脱出」することを目的とした体験型イベント「リアル脱出ゲーム」を開催してきたSCRAP。彼らが20年春頃から、ネット上のビデオ通話などを使って楽しめる、オンライン版をリリースしました。

MTVジャパンやユニバーサルミュージックなどで、次世代の"エンタテインメント×テクノロジー"の新規事業開発を担当してきた鈴木貴歩氏が、創業当時からSCRAPに携わり、現在同社のマネジャーを務める、かわかたたまみさんに話を聞きました。

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◇  ◇  ◇

――コロナの影響はどのような形でありましたか?

緊急事態宣言が出た20年4月は、リアル脱出ゲームの専用会場である全国の16店舗を閉じざるを得ませんでした。ただその間も、緊急事態宣言が明けた後に、どうやって安全に楽しんでもらえるかを、ずっと話し合っていました。

そこでまずは、従来は店舗に来て遊んでもらっていた既存のリアル脱出ゲームの作品を、リモート版にバージョンアップして実施しようとなりました。プレーヤーたちには、店舗にいる1人のキャストに対してZoomの画面越しに指示を出してもらい、謎を解いていくという仕組みです。店舗で遊ぶ際には、それぞれが自由に謎解きを進めることができましたが、リモート版では基本的にグループ制となるので、制限時間内にみんなの意見をまとめながら進める必要があるため、より戦略性が問われるところが面白いという声を頂いています。

例えば、「エイリアン研究所からの脱出」は、Zoomの画面がドローンの視点という設定。実際には入れない部屋に入っていけるという演出を加えたことで、まるでドローンを操るスパイ映画のような没入感が評判となっています。他にも、「潜水艦ポセイドン号からの脱出」「終わらない学級会からの脱出」といった店鋪で遊ばれていた作品を、リモートでも遊べるよう改良していきました。

Googleマップを活用

――ネット上だけで完結する新作コンテンツも、20年5月から順次リリースしていったそうですね。

コロナ禍において、ビデオ通話ツールが当たり前のものになっていくなかで、それを活用して遊べるネット完結型の新作を、これまでに10本以上出しています。

5月にリリースした「リモート通信脱出ゲーム ある2つの通信基地からの脱出」は2人用で、購入するとそれぞれの家にキットが届きます。プレーする際には、LINEやZoomのビデオ通話でお互いをつないでもらい、協力しながらキットに書かれた指示に従って謎を解いていく。途中には、「音声だけを切る」「映像だけを切る」状態でのコミュニケーションを取る指令が出るなど、ビデオ通話ならではの演出も入れています。

8月から始まったのが「ナゾトキ街歩きオンライン ワールド謎ツアー」。届いたキットとビデオ通話ツールで行う謎解きなのですが、そこにGoogleマップも活用することで、海外の風景などから謎解きが展開されていきます。この作品には、コロナ禍で海外旅行に行けないストレスを解消できればという思いも込めました。

――オンライン化で場所や時間を問わなくなったことで、ユーザーの幅も広がったそうですね。

近くに店舗がない地方のお客さんや、昔はリアル脱出ゲームを遊んでいたけれど、子どもが生まれるなどで最近は遠のいていた人たちから喜びの声を頂いています。

また、英語で遊べる作品も制作したことで、海外の方にも楽しんでもらえるようになりました。オンライン完結型の「封鎖された人狼村からの脱出」は、映像劇をYouTubeで見てもらいながら、登場人物の中から人狼を当てる作品。これは英語字幕版も作成したことで、アメリカやイギリス、シンガポールなどからもアクセスがあります。

店舗のキャストに指示を出して遊んでもらうリモート作品でも、英語ができるキャストを配置し、アメリカの時差などを考慮した上で、英語バージョンの回も実施しています。

オンラインリアル脱出ゲーム
 2007年から謎解きイベント「リアル脱出ゲーム」を国内外の専用店舗やスタジアムなどで開催し、累計740万人を集客してきたSCRAP。彼らがコロナを受けて20年4月末からリリースを始めた、Webやビデオ通話サービスなどを利用してオンラインで参加する体験型謎解きイベント。1月16日にはその集大成となるフェス形式の「オンラインリアル脱出ゲーム大パーティー」が開かれ、メインイベントでは1万人が同時に参加する、オンラインリアル脱出ゲームが行われた。

◇  ◇  ◇

スズキの視点

「コロナ禍において自らの形を変え、どんな状況でもエンタテインメントを届ける」。そんな彼らの矜持(きょうじ)を伺い、「リアル脱出ゲーム」は本来、"無いことや不足を遊びに変えていく"ゲームだったと改めて気付かされました。オンラインリアル脱出ゲームが、Zoomのようなテクノロジーを通じて国内外に広がっていることは、配信ライブといった他のエンタメ領域にも通ずる視点だと思います。また、"IP x リアル脱出ゲーム"の可能性は、テクノロジーの活用でさらに大きくなると確信しました。

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鈴木貴歩
 ParadeAll代表取締役。"エンターテック"というビジョンを掲げ、エンタテインメントとテクノロジーの幸せな結びつきを加速させる、エンターテック・アクセラレーター。エンタテインメントやテクノロジー領域のコンサルティング、メディア運営、カンファレンス主催、海外展開支援などを行っている。

(構成 中桐基善)

[日経エンタテインメント! 2021年3月号の記事を再構成]

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