「Wi-Fi 6」が本格普及 ルーター見直しネット高速化

2020年の夏ごろから「Wi-Fi 6」が本格普及しつつある。Wi-Fiルーターを販売する各メーカーは、主力製品をすでにWi-Fi 6対応ルーターに切り替えており、ここ1年で数多くの製品が登場した。以前はハイエンドクラスの高価な製品が中心だったが、最近は実売で1万円前後の製品も増えており、これまでよりかなり購入しやすくなった。価格は1世代前の「Wi-Fi 5」対応ルーターの上位モデルとほぼ変わらない(図1)。

Wi-Fi 6に対応するパソコンやスマートフォン(スマホ)も、この1年でかなり増加した。現在売られている最新パソコンは、一部の下位モデルを除き、ほぼすべてでWi-Fi 6に対応する。インテルの第10世代コアi以降は、CPUにWi-Fi 6のコントローラーを搭載することもあり、それも普及を後押ししている。
スマホやタブレットも、最新モデルのうち格安製品を除く多くがWi-Fi 6に対応する。有名どころだと最新の「iPhone」の全機種や「エクスペリア」の上位機種などが、Wi-Fi 6対応だ。パソコンやスマホだけでなく、ゲーム機にもWi-Fi 6対応機器がある。家電や組み込み機器などでも、これからはWi-Fi 6が徐々に浸透するとみられる(図2)。

Wi-Fi 6で1.4倍に高速化、セキュリティーも強化
Wi-Fi 6の正式な規格名は「IEEE802.11ax」(以下、11ax)で、無線LANの最新規格となる。Wi-Fi 6とは規格をわかりやすくするための愛称で、Wi-Fi 6の「6」は6世代目の規格を意味する。それに伴い、以前の「IEEE802.11ac」は「Wi-Fi 5」、「IEEE802.11n」は「Wi-Fi 4」と呼ぶ。この愛称は規格名とともに、Wi-Fi対応製品のパッケージや製品仕様などに記載される(図3)。

Wi-Fi 6はWi-Fi 5から通信速度が高速になった。規格上の最大速度は9.6Gbpsで、Wi-Fi 5の6.9Gbpsよりも約1.4倍も速い。1ストリーム当たりの速度も同様に約1.4倍に向上している。利用帯域も、11acの5GHz帯のみから、2.4GHz帯も再び使われる。ただし、速度が出るのは5GHz帯のみ。また、多くのWi-Fi 6の機器で帯域幅が従来の80MHzの倍となる160MHzに対応する。帯域幅が2倍になることで、速度はかなり増す。

Wi-Fi 6は「OFDMA」というデータ転送方式を採用し、複数台での同時通信時の効率を向上している。また、以前から使われている「MU-MIMO」も強化された。セキュリティー面も強化されており、暗号化方式には脆弱性が見つかった「WPA2」を改良した「WPA3」を採用する。さらに、対応機器同士で非通信時に大幅に消費電力を減らせる「TWT(ターゲットウェイクタイム)」と呼ぶ省電力機能を盛り込むなど、Wi-Fi 5から、大幅に進化している(図4)。
Wi-Fi 6をいま買って損なし
Wi-Fi 6は5GHz帯と2.4GHz帯を利用するが、さらに6GHz帯を利用する「Wi-Fi 6E(エクステンデッド)」と呼ぶ拡張規格も準備されている。ただし、Wi-Fi機器の相互接続を検証するWi-Fiアライアンスの認証プログラムは、最近開始されたばかり。機器の登場は当分先になるだろう。また、現在の日本ではWi-Fiで6GHz帯の電波を利用することはできず、法整備も必要になるので、国内で使うのは難しい。そのため、しばらくは日本の市場に登場しない。
11axの次の規格として、「IEEE802.11be」が予定されているが、まだ準備が始まったばかりで、規格策定は24年の予定。過去の規格が予定通りに登場しなかったことから判断すると、実際にはそれ以上先になると予想される。こうした状況から考えると、Wi-Fi 6対応ルーターを今買っても、当分の間は最新規格として利用できる。
こんなにある、Wi-Fi 6ルーターに買い替える理由
Wi-Fi 6は、Wi-Fi 5よりもかなり速い。PC21編集部が実施したテストでは、条件次第で2倍以上も高速だった。有線LANよりも速い(図5)。もし、Wi-Fi 6対応パソコンやスマホが手元に1台でもあるのなら、今すぐにでもWi-Fi 6対応のルーターを導入するのがベストだ。

Wi-Fi 6で通信できるのは、対応機器同士の接続に限られる。Wi-Fi 6対応のパソコンやスマホを持っていても、Wi-Fi 6ルーターがなければ性能を生かしきれない。従来のWi-Fiルーターと同様、Wi-Fi 6対応ルーターも過去の規格と互換性が保たれており、Wi-Fi 5や4対応の機器とも接続できる。ただし、その場合、過去の規格の速度となる(図6)。

とはいえ、手元にWi-Fi 5対応機器しかなくても、Wi-Fi 6対応ルーターに買い替える理由はある。メーカーによるとWi-Fi 5対応ルーターよりも高性能なCPUを搭載しているため、性能に余裕があり安定した通信ができるという。また、Wi-Fi 6ではデータの転送方法に「OFDMA」を採用しており、通信の効率が向上した。従来の「OFDM」では個別に通信しなければならなかったが、OFDMAは一度に複数の機器と通信できるため効率が良い(図7)。

Wi-Fi 6対応ルーターでWi-Fi 5対応機器を高速化
Wi-Fi 6対応ルーターを導入することで、Wi-Fi 5対応の機器でも条件がそろえば速度は上がる。従来のWi-Fi 5対応ルーターの多くは、電波の幅を示す帯域幅が80MHzと狭かったが、Wi-Fi 6に対応するルーターの上位機種はその倍の160MHzに対応している。帯域幅が広いと、その分通信は速くなる(図8)。

160MHzの帯域幅は、連続した160MHzの帯域幅を使う仕組みの「HT160」と、2つの80MHzの帯域幅に分けて使う仕組みの「80+80MHz」の2つがある。そのうちHT160はWi-Fi 5でも対応するパソコンがあり、HT160対応のWi-Fi 6ルーターと組み合わせると速度が向上する。
ノートのWi-Fi 6化はUSB接続子機の登場に期待
手持ちのパソコンをWi-Fi 6に対応させるには、デスクトップパソコンなら拡張ボードを挿せばよい。ただし、ノートパソコンで利用できるUSB接続タイプの子機は、21年2月現在販売されていない。海外では発表されており、近いうちに登場するとみられる。内部に拡張ボードでWi-Fiを搭載しているノートパソコンであれば、Wi-Fi 6のボードを入手して自分で交換する手もある。ただし、交換は自己責任だ。
[注]Wi-Fi 6ルーターはバッファローの「WXR-5950AX12」を使用。Wi-Fi 6パソコンはレノボ・ジャパンの「シンクパッドX1カーボン2015年モデル」(ボードをインテルWi-Fi 6 AX200に交換しWi-Fi 6対応に改造)、Wi-Fi 5パソコンは「同2019年モデル」(インテルWireless-AC 9560搭載)を使った。Wi-Fiルーターから1メートル離れた場所で、「LAN Speed Test」(Totusoft)で計測したダウンロード時の最大速度を結果として採用。
(ライター 田代祥吾)
[日経PC21 2021年4月号掲載記事を再構成]
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