台所番長が選ぶ ニューノーマルの料理用はさみ5選
合羽橋の台所番長が料理道具を徹底比較

合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏がイマドキの調理道具を徹底比較。今回は、今注目されている、衛生的で長持ち、切れ味がさえる料理用はさみを取り上げる。(価格はすべて税別)
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こんにちは、飯田結太です。家で過ごす時間が多くなったことで、調理道具の世界は、求められる要素の優先順位が変わってきました。まず「衛生的」であること。特にそれが顕著に求められているのが「はさみ」です。
今はさみの主流は、「リムーブ式」。これは、かみ合わせが支柱部分にねじ止めしてつぶしてあるカシメではなく、取り外しができるスライド機構になっていること。使うたびに取り外してスッキリ洗えることが、はさみを選ぶ際の第1条件になっているのです。
しかし、取り外せるようにするには、かみ合わせを少し緩くする必要があります。はさみは、包丁とは違いモノを挟んで切る道具。そのため、かみ合わせをきっちり合わせることで切れ味を良くしています。切ろうとすると、刃が合わさり、「ミシッ」という音がすることがありますが、それはかみ合わせがきっちりと合っているから。
それらの理由から、今までリムーブ式のはさみはプロ仕様ではありませんでした。しかし、衛生面が強く求められるようになってから、切れ味がさえて使いやすい、プロも一目置くリムーブ式のはさみが登場するようになったのです。
ということで今回は、新時代に対応する切れ味抜群のうえプラスアルファの特徴があるはさみをご紹介します。
細かい細工で軽量化に成功、鍛造仕上げの本格派

まず紹介するのは、新潟県燕三条の包丁職人が手掛ける、下村工業「村斗」シリーズのキッチンばさみです。これは久しぶりに登場した鍛造仕上げの進化系はさみ。鍛造とは、金属をたたいて圧力をかけることで強度を高めていく仕上げ方。プレスに比べて、パーツごとに厚みなどの調整ができます。ただ、オールステンレスで鍛造仕上げのはさみは重量があり、握力が弱い人にとっては重すぎて使いづらいものでした。
「村斗」は、そんな重さの問題を見事解決しました。刃元から刃先に向かって厚みを徐々に薄くすることで軽くなり、同時に厚みのある刃元では硬いものをしっかりカット、刃先では葉物などをカットできるなど、使い分けができるようになりました。また、ハンドルの外側のカーブしている部分も厚みを薄くして、手のあたりも良くなりました。

もうひとつ大きな特徴が、刃に0.4ミリピッチの細かいギザギザ(セレーション刃)が付いていること。ギザギザ刃が付いていると滑りにくくなり、鳥の皮のような滑りやすい食材もきれいに切れます。一般的なギザギザ刃のピッチは0.5~0.6ミリ。ピッチが広くなると重くなり、ピッチが狭くなりすぎると滑りやすくなります。「村斗」はちょうどその中間を攻めました。だから切れ味は抜群。もちろんリムーブ式なので衛生面も安心です。
鍛造仕上げなのに軽くて、切れ味が抜群なのにリムーブ式というのがまさに進化系です。

機能とデザインを両立、専門メーカー渾身の作

「キッチンスパッター」は、昭和37年創業のはさみ専門メーカー、鳥部製作所が手がけた洗練されたデザインのはさみ。一見、おしゃれな文房具のように思えますが、細かいところで工夫が施されたキッチン専用のはさみです。今一番人気があります。
これはとにかく切れ味が抜群。手で握った感触がしっくりきて軽く、全く負担に感じません。切ってみると、「気持ちいい」と思えるほど。その完成度の高さは、仕上げの工程で刃のかみ合わせを職人の手でひとつひとつ微調整しているから。
さらに、指にかかる負担を考えてハンドルの外側のカーブを細くし、内側はフラットにするなど、細かい工夫がたくさん。おしゃれなデザインも人気の理由です。

頼れるグリップ付き、ユニークな英国製

ユニークなキッチン雑貨を数多く出している英国のメーカー、ジョセフジョセフ。「パワーグリップ キッチンシザース」は、名前の通りハンドルの一方にサムグリップを付けたキッチンばさみ。
肉の骨などの硬い素材を切るときに、ハンドルのサムグリップに親指を添えて、両手の力で安全に切ることができます。刃の外側に付いた波刃は、硬いものを切るときにしっかりと捕えるためのもの。また刃の上部に開いた穴は、ローズマリーなどのハーブから葉だけを取り出すために使うハーブストリッパー。



全体がL型構造と呼ばれるデザインになっています。一方の刃がしっかりまな板などに沿うように角度が付いているので、ピザのカットにも便利です。

BBQに便利、はさみとトングが合体

外食を控えている今、家の庭やアウトドアでバーベキュー(BBQ)をやる人が増えています。貝印の「トング付きキッチンハサミ」は、そんな人たちから注目を浴びています。新型コロナウイルス禍になってから人気が再燃した商品です。
とても軽いので、子どもでも使いやすいですね。見れば分かるように、刃の先がカーブしていて、食材をしっかり切ることができます。先端には食材を挟めるトングが付いているユニークなデザイン。これひとつで、「切る」「つかむ」ができるんです。サラダや焼肉、BBQのときに活躍すると思います。食材を切るときにそろうように刃にメモリが付いているのも面白いですね。もちろん、リムーブ式なので、使い終わったらきれいに洗えます。

裁ちばさみの良さが生きている、カシメ仕上げのはさみ

最後にリムーブ式ではありませんが、プロに信頼されている進化系はさみを紹介しましょう。ののじ「暮らしを楽しむはさみ」は、ハンドルは樹脂製でかわいらしいのですが、給食調理器具メーカーが作った切れ味にこだわった商品です。切れ味の良さが長続きする本格的なはさみを探しているなら、これをおすすめします。
面白いのは、もともとはキッチン用として開発されたものではないこと。カシメは真ちゅうで、刃の裏面を「裏スキ刃仕上げ」と呼ばれる、凹みカーブ曲線仕上げにしているなど、裁ちばさみの構造を生かしています。
裁ちばさみは滑りやすい布を切るはさみ。その構造を生かすことで、刃の先端まで鋭い切れ味があり、食材はもちろん、園芸まで幅広く使えるようにしています。
刃はギザギザのセレーション刃。刃元の一部分だけクイ込み刃になっているので、カニ脚や竹串など硬い素材もスパッと切ることができます。ハンドルは樹脂製で大きいので安定感があります。

はさみを選ぶときは、通販の場合はハンドルが大きめに作られているものがいいでしょう。店頭で買う場合は、一度ハンドルを握ってみることをおすすめします。自分の手になじむものだと長く愛用できます。
使用後は汚れを洗い流すのが衛生的です。しっかり隅々まで洗い流したいなら、リムーブ式を選ぶといいでしょう。長く切れ味の良さが続くものを探しているなら、カシメ止めされているものがおすすめです。(談)
(文 広瀬敬代、写真 菊池くらげ)
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