EVに対する現実的な回答 三菱エクリプスクロスPHEV

三菱自動車が2020年12月に発売したエクリプス クロスPHEV。ガソリンエンジンを搭載するプラグインハイブリッド車(PHEV)だが、バッテリーだけで最大57.3キロメートル(WLTCモード)を走行できる。そんなエクリプス クロスPHEVを、小沢コージ氏は最も現実的な「事実上のEV(電気自動車)」と評価する。
まるでエンジンという保険の付いたEV
最近、ニュースで目にしない日はないといっても過言ではない、自動車の電動化の話題。推進派、慎重派に分かれている感もあるが、どちらの陣営の主張にも説得力があり、判断はなかなか難しい。いずれにしろ個人的にEV普及の一番の課題は、補助金や急速充電施設の充実以上に「商品力」だと思っている。多少不便で、多少高くても、欲しいと思える魅力的なデザインや、圧倒的な使い勝手を持つクルマが登場すれば、人はEVを買うのである。
そういう意味で、昨年、気になるモデルが登場した。三菱のエクリプス クロスPHEVだ。車名通りのプラグインハイブリッドSUV(多目的スポーツ車)であり、いわゆる100%ピュアなEVではない。だが、13.8kWhというピュアEVの半分弱のリチウムイオン電池を搭載し、プラグを通してフル充電していれば、WLTCモードで最大57.3キロメートルの航続距離を稼ぐことができる。
さらに充電が切れても、備えてある2.4リッターガソリンエンジンを動かせば、前後に配したツインモーターを駆動してハイブリッド車としても走れるのだ。そういう意味では、エンジンという保険の付いたEVとして捉えることもできる。



ツインモーターで楽しい走りを実現
魅力はそれだけではない。最近はやりのSUVデザインで、全長4.5メートル強という大きすぎないボディーの中に、大人5人とそれなりの荷物を載せることができる。オマケにスタイリッシュだ。
エクステリアは今回のPHEVモデル追加と同時に行われたマイナーチェンジで全長を140ミリメートル延長。フロントノーズは今まで以上に伸びやかさをまとい、リアセクションは、以前は上下2分割されていたウインドーがシンプルに一体化。ひとクラス上の高級感を備えている。ラゲッジは、リアシートをスライド式から固定式に変更することで、ガソリン版で405リッター、PHEV版で359リッターの容量を確保。リアシートも大人3人が普通に座れる広さを備えている。


エクリプス クロスPHEVの魅力は、それだけでは終わらない。走りも面白いのだ。その楽しさは、三菱ならではのユニークなハイブリッドシステムによるところが大きい。このクルマはエンジンをほぼ発電機として使い、主に前後2つのモーターによって加速する。高速巡航時はエンジン出力をそのままタイヤに伝えることもあるが、ほとんどの場合において、運転フィーリングはモーター駆動によるEVそのもの。
発進加速から滑らかで、トランスミッションのシフトチェンジによるショックもない。おまけにこのクルマには、かつて三菱が世界ラリー選手権(WRC)のために開発し、熟成してきた「S-AWC」と呼ばれる四輪制御技術が搭載されている。しかも、従来は1つのエンジンパワーを4輪に巧みに分配することで操縦性を確保していたが、このクルマは前後2つのモーターを搭載するから、さらに自由自在にトルク配分ができる。その結果、ラジオコントロールカー(RCカー)のように前後タイヤを操り、かつてない運転感覚が得られるのだ。
300万円台後半から手に入る「事実上のEV」!?
最後に、価格も見逃せない。大容量の電池を搭載すると平気で500万円近くになってしまう電動SUVでありながら、なんと300万円台後半のスタートプライスから手に入れることができる。
もちろん100%ピュアEVほど大量にリチウムイオン電池を積まずにすむという理由もあるが、小沢に言わせるとエクリプス クロスPHEVが既存ボディーをうまく活用しているのも大きい。そもそもクロスオーバーSUVのエクリプス クロスは、4年前にデビューした時点では普通のエンジン車しか選べなかった。もちろんディーゼルとガソリンの両方が選べたのだが。
しかし今回のマイナーチェンジで、兄貴分のアウトランダーPHEVと同じプラグインハイブリッドシステムを搭載。おそらくその移植は大変で、結果フロントノーズだけで35ミリメートル、リアセクションだけで105ミリメートルの合計140ミリメートルのボディー延長をすることになったのだ。だがそのおかげで、今までにない半電動タイプのスポーティーSUVに生まれ変わることができた。
イマドキのSUVフォルムで半分はピュアEV、半分はハイブリッド車として走ることができ、人も荷物も十分載せられる上、ハンドリングも楽しい。価格はピュアEVと比較すると安く、しかもバッテリーEV最大の欠点たる電欠もない。これこそ、今、最も現実的な「事実上のEV」だと思うのだが、いかがだろうか。

自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は「ベストカー」「時計Begin」「MonoMax」「夕刊フジ」「週刊プレイボーイ」など。主な著書に「クルマ界のすごい12人」(新潮新書)「車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本」(宝島社)。愛車はロールス・ロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
(編集協力 出雲井亨)
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