南沙良 お気に入りのハンカチはお手製の刺しゅう入り

2018年の初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で新人賞を総なめにし、今年は『太陽は動かない』『ゾッキ』『彼女』など出演映画の公開が続く南沙良さん。自身を「インドア派」と語る18歳のお気に入りは、自ら刺しゅうを施したハンカチーフだった。
自ら刺しゅうを入れた、オリジナルハンカチ
「私は子どもの頃から絵を描いたり、ものを作ったりすることが好きだったんです。刺しゅうを始めたのは、小学生のとき。お裁縫好きな母の影響を受けて、見よう見まねで始めました。最初に縫ったのはイニシャルだったかな。沙良の『S』を縫った記憶がありますね。
今日持ってきたハンカチは、中学生以降に刺しゅうしたものです。チューリップ柄は4年前、中学2年生のときに初めてハンカチに刺しゅうしたもので、周りのレースも自分で付けたんです。この1枚から『かわいいハンカチをどんどん増やしたい』と思うようになりました。
ウルトラマンとレンジャーの柄は、レンジャーを縫うのが特に楽しかったですね。細かくて難易度が高いので。『S』のハンカチは最近作ったものです。オシャレにしたいと思って、花を絡めてみました。これはハンカチ自体も自分で手縫いしたので、けっこう大変でした」

刺しゅうにはフランス刺しゅうとクロスステッチ刺しゅうという定番の2種があり、南さんはクロスステッチ派。それも母親の影響だという。
「やり方は、まず紙に図案を描いて、その通りに刺しゅう針と糸で縫っていく感じです。図案ですか? そのときの気分で、描きたいものを描いています。図案を描いたら、丸い刺しゅう枠に布を挟んでピンと張って、バッテンを描くように図案を縫っていきます。私、こういう細かい作業が昔から好きなんですよ。ピスタチオを割ったり、梱包用シートの気泡を1つずつ潰したりするのも好きです。
刺しゅうの魅力は、頭の中にある図案を現実にできるところ。1針縫うごとにどんどんイメージが形になっていくところが面白いなと思います。あとは、無心になれるところ。私はネガティブな性格なので、放っておくとあれこれ考えちゃうんです。でも、細かい作業を黙々とやっていると、いろんなことを忘れられる。そこが一番好きかもしれないです」
「自作したハンカチは普段使ってるんですけど、愛着があって、見るたびに『かわいいなあ』と思います。家族に作ってあげたりもしますね。兄にプレゼントすると一応『使うよ』と言ってくれるんですけど、使っているところを一度も見たことがない(笑)。
今、家には自作のハンカチが25枚くらいあります。靴下にも刺しゅうしていて、それが10足くらい。これからは洋服やTシャツにも刺しゅうしてみたいですね。挑戦したい柄は、動物。キャラクターっぽいものじゃなく、写真で撮ったようなリアルな動物を縫ってみたいです」


コンビニもWi-Fiもない島での撮影
3月5日公開の出演映画は『太陽は動かない』。『悪人』『怒り』などで知られる吉田修一さんの小説を、『海猿』シリーズ、『MOZU』シリーズの羽住英一郎監督が映画化したノンストップ・サスペンスだ。南さんは、主人公の鷹野一彦が高校時代に恋心を抱く同級生・菊池詩織を演じている。
「最初に、原作の『太陽は動かない』と『森は知っている』を読んだんです。『太陽は動かない』は情報組織のエージェントになった主人公を描いたサスペンスで、『森は知っている』はその少年時代を叙情的に描いた小説。全然違う2作を1つの映画にするとどうなるんだろう……と、ワクワクしながら現場に入りました。
詩織ちゃんについては、小説や脚本を読んでも、あまりイメージがつかめなかったんです。でも監督にお会いしたら、『そのままで大丈夫』と言ってくださったので、少し気が軽くなって。自分なりに現場で探りながら演じていた気がします」

出演パートは、19年夏に三重県鳥羽市の沖合にある「答志島」で撮影された。
「普段、東京で生活していると自然に触れる機会がないので、島に渡ったときは新鮮でした。1週間くらい滞在したんですけど、コンビニもWi-Fiもない。時間の流れも空気も違う気がしました。撮影で大変だったのは、滝を見に行くシーン。暑かったけど、滝の周りだけはマイナスイオンがすごくて。冷たいミストを全身で浴びつつ、凍えながらお芝居をしてましたね。
完成した映画を見て印象的だったのは、私が自然体で映っていたことです。『この映画で唯一の癒やしが島のシーン。だからリラックスしてお芝居してください』と監督に言われていたので、それができて良かったなと思いました。あと、私は芯が弱いタイプですけど、詩織ちゃんは芯の強い子。詩織ちゃんを演じて、自分も少し強くなれたような気がしました」

「推しメン」は人気アニメの糸目キャラ
14年に雑誌「ニコラ」の専属モデルとなり、17年に映画『幼な子われらに生まれ』で女優デビューした南さん。その後、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『もみの家』といった映画で地歩を固め、今春、高校卒業を迎える。18年の人生で大切にしてきた、座右の銘を聞いてみた。
「えっ、何だろう……。言葉は、ないかもしれないです。ただ、1日に1回は笑うようにしてますね。私、インドア派で、家にいるとずっとテンションが一定なので、笑うことが本当に少なくて。だから何か楽しいことを見つけて笑うようにしています。
楽しいことの一つが、読書です。好きな作家は辻村深月さんで、最初に読んだのは『凍りのくじら』という小説でした。暗い中にも一筋の光があるというか、繊細に希望みたいなものが描かれていて、すてきだなあと思って。それから何年もチェックし続けてますね。
芥川賞を受賞した『推し、燃ゆ』も面白かったですね。自分の好きなアイドルが、ある日突然ファンを殴って炎上するという、タイトルそのままの不思議な小説です。作者の宇佐見りんさんは21歳で、私と同年代なのにすごいなと。『推し』を応援する気持ちも、分かるような分からないような……でした。ちなみに私の推しは、『ヒプノシスマイク』というアニメの『白膠木簓(ぬるでささら)』というキャラクターです。関西弁のお笑い芸人という設定で、糸目なんですよ。私、目の細い糸目キャラが大好きなんです」
最近買って良かったのは、スニーカーだという。
「コロナの影響で、近所を散歩する機会が増えて。ヒールのある靴だと足がむくんだり、筋肉痛になったりするかなと思って、スニーカーを新しくしました。オシャレブランドのものですが、歩きやすくて気に入ってます。散歩はよく公園に行っていて、そこで本を読んでいますね。まだ寒いですけど、寒いところで読むのが好きなんです。
今、欲しいのはブックカバーです。小学生の頃に母からクリスマスプレゼントでもらったものをずっと使っているので、そろそろ買い替えたいなと。今と同じ革製のものがいいんですけど、なかなか良いものが見つからないんですよ。色はベージュが好きなので、そういう淡い色の優しいブックカバーが欲しいです。
文芸誌で連載をさせていただいているので、これからは文章を書くことや、お裁縫や刺しゅうを生かした洋服のアレンジもしていきたいですね。お芝居だけじゃなく、いろんなもので表現できる人になれたらいいなと思っています」

2002年生まれ、東京都出身。14年、ニコラモデルオーディションのグランプリを受賞。17年に映画『幼な子われらに生まれ』で女優デビューし、18年の初主演映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で報知映画賞、ブルーリボン賞など多くの新人賞を獲得。以降の出演映画に『無限ファンデーション』『もみの家』『居眠り磐音』、ドラマに「ココア」「ピンぼけの家族」「うつ病九段」「六畳間のピアノマン」などがある。

『太陽は動かない』
心臓に爆弾を埋め込まれた秘密組織のエージェント・鷹野(藤原竜也)と相棒の田岡(竹内涼真)。24時間ごとに迫る死の危険を抱えながら、「全人類の未来を決める次世代エネルギー」の極秘情報をめぐり、各国のエージェントたちとの命がけの頭脳戦が始まる。次から次へと困難が襲い来る極限の状況の中、2人の心臓爆破のリミットは迫っていた――。
監督・羽住英一郎 脚本・林民夫 原作・吉田修一『太陽は動かない』『森は知っている』(幻冬舎文庫刊) 出演・藤原竜也、竹内涼真、ハン・ヒョジュ、ピョン・ヨハン、市原隼人、南沙良、日向亘、加藤清史郎、八木アリサ、勝野洋、宮崎美子、鶴見辰吾、佐藤浩市 3月5日(金)全国ロードショー
(文 泊貴洋、写真 藤本和史)
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