スイーツの味わい、まるで日本酒 増える個性派ビール

世界のクラフトビール人気をけん引しているのが「Hazy(ヘイジー) IPA(インディア・ペールエール)」だ。その幅は実に広いが、基本的に濁った見た目が特徴で、ホップをふんだんに使うIPAでありながら、苦みはさほど強くなく、口当たりも滑らか。果物で強く香り付けしてフルーティーにしたものや、乳糖を使ってかなり甘めに仕上げたビールもある。
この影響もあり、「苦みがあって喉越しが良く、爽快に飲める」という日本人のビール観が変わり始めている。多様な味わいに慣れたビール党も、普段はあまり飲まないという人も、あの手この手で振り向かせようとする「超個性派」のビールが勢いを増す。

島根ビールの「松江ビアへるん おろち」は、日本酒の原材料である米こうじに、日本酒造りに使う清酒酵母も使用した、酒蔵コラボの限定クラフトビールだ。和の素材を用いるものは少なくないが、ここまで大胆に日本酒の原材料を使うのは珍しい。飲めば、清酒と同じような香りや味わいが感じられる。関西大学文学部教授で、国内外のクラフトビールに詳しいマーク・メリ氏は、「日本らしさの表現を目指すクラフトビールは多いが、成功していると思えるのは僅か。おろちは別格」と断言する。

人気のHazy IPAをベースに、さらにエッジを立たせたクラフトビールもますます増える。伊勢角屋麦酒「Mango Lassi Smoothie」はカレーにも合うマンゴーラッシーを念頭に造られた1本だ。栗を使い、まるでスイーツの味わいに仕上げたFar Yeast Brewingの「ファーイースト マロン ミルクシェイク IPA」のような意欲作もある。いずれも乳糖を使った甘い味わいのビールで、苦みを好まない人にまで広く人気を集めそうだ。
2021年3月から、アサヒビールがアルコール度数0.5%の「アサヒ ビアリー」を発売する。クラフトビールにも、こうした超低アルコールでビールの味わいを楽しめるものがある。20年にイケアストアで発売されたスウェーデン「オムニポロ」の低アルコールビールは、ブルーベリーやバニラを使ったりローズヒップから作ったりしていて特に飲みやすい。「インスタ映えするラベルで、女性にも受けそう」(文筆家・イラストレーターの岩田リョウコ氏)と言う。


クラフトビールといえば瓶ビールという常識も変わってきた。ビールの香りや味わいの劣化は、日光や酸化が主な要因。実は、「瓶より日光を遮断する缶の方が長く高い品質を保てる」(日本ビアジャーナリスト協会に所属するHOP SAIJO氏)。

缶の方が軽いので、輸送や持ち運びもしやすい。横浜ビールは、20年12月に瓶で販売していた看板商品の「横浜ラガー」を缶でも発売。同時に、神奈川県とその近郊のコンビニ約800店舗でも販売された。小売店側には、缶なら大手ビールと一緒に棚で販売しやすいメリットもある。既に全国のコンビニやスーパーで販売されているヤッホーブルーイングの「よなよなエール」などに加え、身近で買えるクラフトビールのレパートリーも増えそうだ。

(日経トレンディ 高田悠太郎、写真 古立康三)
[日経トレンディ2021年3月号の記事を再構成]
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