50年で70%減、外洋のサメ・エイ 急がれる保護

大陸から遠く離れた外洋は、昔から数多くのサメやエイが暮らす場所だ。地球上で最も高速に泳ぐサメと言われるアオザメは、時速30キロ超のスピードで獲物を追い掛ける。アカシュモクザメは左右に離れた目などの特殊な感覚器で、大洋を探りながら、餌を求めて泳ぎ回る。
外洋は広大で、しかも人も近寄らない。アオザメやアカシュモクザメは外洋を広範囲にわたって移動するから、漁師はもちろん、生物学者にさえ、現在、これらの生物が乱獲で危機にあるとは、にわかに信じられなかった。
今、サメやエイの個体数の網羅的な調査と、分析で、憂慮すべき現状が分かってきた。学術誌「ネイチャー」に2021年1月27日付で発表された論文によれば、カナダ、サイモンフレーザー大学のニコラス・ダルビー氏とネイサン・パコルー氏は、サメとエイ18種の個体数が1970年以降に70%減少していることを突き止めた。
ダルビー氏は、国際自然保護連合(IUCN)サメ専門家部会の共同議長でもあり、「10年前、外洋性のサメの一種を絶滅危惧種に指定するかどうかで、激論を交わしました」と振り返る。
1970年にはありふれた種だったヨゴレの「現在の個体数を計算して、驚きのあまり言葉を失いました」とダルビー氏は話す。
ヨゴレは「この60年で98%減少していました。このパターンは3つの海で一貫していました」(ダルビー氏)。ヨゴレは現在、IUCNのレッドリストで「近絶滅種(Critically Endangered)」に分類されている。
アカシュモクザメとヒラシュモクザメも同様の運命にさらされている。外洋性のサメが漁の対象になることはほとんどないが、捕まった場合は、たいてい、肉やひれ、えら、肝油が販売される。
専門家は、サメにとっても海の健康にとっても不安なニュースだと口をそろえる。外洋性のサメは頂点捕食者であり、下位の捕食者を抑制することなどによって、食物網で重要な役割を果たしているからだ。
世界中からデータを収集
ダルビー氏とパコルー氏は今回の研究のため、サメとエイ18種のデータを世界中から集めた。その多くは政府の報告書に埋もれていたり、古いハードディスクに保存されていたりした。
サメの保護に対する意識の高まりを受けて、漁業管理当局はサメのデータの収集を開始しており、研究チームは最新の情報を得られたのだ。
研究チームは、1905~2018年のデータセットを最終的に900作成。それぞれのデータセットは、1つの種の個体数が特定地域でどのように変化したかを表している。国際的な専門家とコンピューターモデリングの助けを借りて、チームはこれらのデータから全世界の個体数の変化に関する最良の推定値を導き出した。
チームは遠洋漁業の手法の発展も考慮に入れた。何百もの釣り針が付いた長いはえ縄や巨大な巻き網はしばしば、サメまで捕まえてしまうことがある。この漁法は、この50年で倍増し、外洋性のサメが捕獲される数は約3倍になった。
「サメの希少性が高まっている事実を考慮すると、1匹のサメが捕獲される確率は今や1970年の18倍です」とダルビー氏は説明する。
今回の分析に不確実さが残ることは避けられず、そのため、何十年もサメが乱獲されてきた地域では、個体数の減少を過小に評価している可能性があるとダルビー氏は付記している。
最も減少したのは熱帯地域
サメとエイの個体数が最も減少したのは、ここ数十年で沖合漁業が拡大した熱帯地域だ。
今回の研究に参加した米バージニア工科大学の集団生物学者ホリー・キンズベイター氏は、大型のサメやエイが希少になるにつれて、漁業の対象が小さな種に向かっていると話す。キンズベイター氏は数種のイトマキエイを研究しているが、イトマキエイのいくつかの個体群は過去15年間に85%減少した可能性がある。
イトマキエイの肉を食べる人もいるが、近年、えらが中国医学で珍重されている。この変化は、もともと捕まえていた種が希少になったとき、漁師はほかの種に目を向けることを示唆しているとキンズベイター氏は指摘する。
「もともと、外洋にサメやエイを狙う漁船はいないと思います。しかし、マグロ漁を始めたが漁獲量が減ったような場合、ほかの生物を捕まえるようになり、その販売方法まで考え出してしまうおそれだってあるでしょう」

解決策は漁獲禁止か
たとえ偶然であれ、乱獲がサメに与える影響は、漁業を持続可能なものにすることを目標に、政府がより多くの規制を課す動機になるはずだとダルビー氏は話す。ダルビー氏はさらに、絶滅の危機にあるサメやエイの国際取引を制限することも重要だとしている。
だが、道のりは長そうだ。ダルビー氏によれば、北大西洋で絶滅の危機にあるアオザメの漁獲を禁止する案が出ていたが、最近、欧州連合(EU)と米国に阻止されたという。漁獲量の大部分をスペインが占めていることが理由の一つだ。
「サメは最後の無法地帯のようなものです」。ダルビー氏は続ける。「だからこそ漁獲を管理することへの抵抗が少しあるのだと思います」
英サウサンプトン大学の生物学者デイビッド・シムズ氏は、ほかの種では漁獲禁止の有効性が示されていると話す。シムズ氏は今回の研究に参加していない。シムズ氏らは2019年に発表した論文で、大西洋の北西部では、ホホジロザメとニシネズミザメに個体数回復の明るい兆しが見られると報告している。いずれの種も一帯では漁獲が禁止されている。
シムズ氏はそのほかの解決策として、海洋保護区をつくること、サメのホットスポットを禁漁区に設定することなどを提案している。
海洋研究保全組織シャークス・パシフィックの創設者で、ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラー(協会が支援する研究者)でもあるジェシカ・クランプ氏も同意見だ。クランプ氏はサメを含む回遊魚のため、クック諸島に複数の保護区とサメの禁漁区をつくる支援を行っている。
「これらはヨゴレやクロトガリザメといった種の隠れ家になるかもしれません」とクランプ氏は話す。「いずれも、研究で個体数に大きな問題を抱えていることが確認された種です」
(文 TIM VERNIMMEN、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年1月31日付]
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