iPhoneを追う「AQUOS sense」 5G対応機も今春登場
日本国内のスマートフォン市場では、iPhoneシリーズが圧倒的なトップシェアを獲得している。それに次ぐ2位の座を、シャープのAQUOSシリーズがここ数年守り続けていることはご存じだろうか。BCN調べによるAndroidスマホのメーカー別シェアで、シャープが2017~20年に4年連続1位を達成した。

同社のスマホには、ハイエンド向けの「AQUOS R」や、軽量タイプの「AQUOS zero」もあるが、シェア1位の立役者といえるのはスタンダードモデルの「AQUOS sense」シリーズだ。特に19年11月から発売された「AQUOS sense3」は、Androidスマホで発売以来8カ月連続1位を獲得。20年9月までに300万台を出荷した。ここ2~3年の低価格スマホ市場ではOPPO(オッポ)や小米(シャオミ)など中国勢の日本参入があったが、AQUOS senseシリーズは販売数を伸ばしてトップを維持したのだ。
AQUOS sense3が支持されたのは、「日本発のブランド」という安心感だけではなく、「おサイフケータイ」など、日本国内で必要とされる機能を一通り盛り込んだ上で大容量バッテリーを搭載しているのに、4万円を切る価格で購入できるコストパフォーマンスの良さにあった。
AQUOS sense登場前の16年には、シャープの携帯電話シェアは10%を切り(9.2%、MM総研調べ)、アップル、ソニー、京セラに次ぐ4位まで落ち込んでいた。AQUOS senseシリーズを担当する、シャープ 通信事業本部パーソナル通信事業部商品企画部の清水寛幸課長は当時について、「低迷していたというほどではないが、伸び悩んでいたのは確か。特にブランドの認知度には課題があった」と振り返る。
その原因の1つは、スマホのブランドが多すぎることにあった。16年末時点のAQUOSは、NTTドコモ向けの「ZETA」「EVER」、au向けの「SERIE」「U」、ソフトバンク向けの「Xx」「CRYSTAL」、UQ mobile向けの「L」など、通信キャリアごとに別々のブランドを冠していた。各通信キャリアの要望を入れて特徴あるモデルを作っていった結果だが、利用者から見るとブランドごとの特徴が分かりにくく、認知度の低下を招いてしまったのだ。またブランドが多いことによって開発コストの面でも不利になっていた。
そこで同社は17年にブランドの統合を決断。ハイエンド向けのAQUOS Rとスタンダード向けのAQUOS senseの2シリーズに整理し、基本的に同じモデルを複数の通信キャリアから販売することにした(その後、軽量モデルのAQUOS zeroを追加)。
高級感やプロセッサー性能よりも指紋センサーや防水を優先
スタンダードモデルであるAQUOS senseシリーズのコンセプトは「必要十分」。開発に当たっては「これまでの低価格スマホは『安いからしょうがない』という製品も多かったが、AQUOS senseは『誰でもこれを選んでおけば大丈夫』といえるスマホ」(清水氏)を目指し、必要な機能を絞り込んでいった。
しかし、おサイフケータイや指紋センサー、防水などの必要な機能を盛り込みつつ、価格を目標の約3万円(ドコモオンラインショップの一括販売価格では、当時税込み3万456円)に抑えるのは簡単ではなかった。

シャープは16年から鴻海(ホンハイ)科技集団グループに入っており、以前よりも部品などを低コストで仕入れられるようになっていた。しかしそれでも、韓国サムスン電子や中国ファーウェイなどの世界的スマホメーカーと比べると、価格競争力には限界があった。
そのため、価格を下げるために割り切った面も幾つかある。例えばデザイン面では、「ボディー部分の塗装や仕上げで高級感を出すスマホは多かったが、AQUOS senseはそこにコストをあまりかけず、素材の良さを引き出す方向で持ちやすくシンプルなデザインを目指した」(通信事業本部パーソナル通信事業部商品企画部の角田孝子主任)。この他、初代AQUOS senseでは、プロセッサーやカメラも上位モデルよりは低価格なパーツを使用し、うまく価格を抑えていった。
その結果、初代AQUOS senseは発売後半年足らずで100万台を販売する成功を収める。「静かな売れ方ではあったが古い携帯電話からの乗り換え需要を多く獲得でき、想定以上に売れた」(清水氏)。

「バッテリーが1週間持つ」という付加価値でブレーク
AQUOS senseは、3世代目の「AQUOS sense3」でさらに進化する。清水氏ら開発チームは、利用者調査で「スマホでバッテリーの持ちに満足している人がほとんどいない」ことに目を付け、バッテリー容量を前モデルの2700mAhから4000mAhへと大幅に増量。これにより「1回の充電で1週間使える」という、他社の低価格モデルにはなかった、新たな特徴が加わった。
また、企業での導入や、格安SIM事業者に向けて、カメラの一部レンズを省くなどした低価格モデルである「AQUOS sense3 lite」「同 sense3 basic」も開発するなどラインアップ拡充にも力を入れる。これにより、「AQUOS senseシリーズを以前より幅広い層に浸透させることができた」(通信事業本部パーソナル通信事業部商品企画部の平嶋侑也主任)。こうした積み重ねが、300万台を超えるヒットにつながった。


このとき、もう1つ追い風となったのが、電気通信事業法の改正によって19年10月より本格的に開始された携帯電話料金の分離プランだ。これにより、通信キャリアは高額なスマートフォンを大幅に値引きして販売することが難しくなり、低価格スマホの注目度が増した。ソニーモバイルコミュニケーションズや韓国サムスン電子も低価格スマホを投入したが、その時点で既にスタンダードスマホとしてブランドが確立していたAQUOS sense3が多くの支持を集めた結果となった。
20年11月には最新モデル「AQUOS sense4」を発売。特徴だったバッテリー容量をさらに4570mAhまで増やし、画面サイズも一回り拡大している。さらに、前モデルで物足りないといわれることもあったカメラとプロセッサー性能も強化。この他、指紋センサーを長押しするとスマホ決済アプリが起動する「Payトリガー」などの新機能が加わっている。
実機を操作してみるとプロセッサー性能が向上した効果は大きく、アプリの起動などがAQUOS sense3よりもかなり高速になったと感じる。また試しにYouTubeの動画を約1時間再生してみたところ、バッテリーの消費はわずか3%だった。単純計算では30時間以上連続で使用できることになる。

カメラは、従来の標準レンズと広角レンズに加えて、光学2倍の望遠レンズも搭載。「画像処理エンジンも上位モデルと同じ(ProPix2)に強化した。特にノイズは低減されたと思う」(清水氏)。ただし、グーグルの「Pixel 4a」など、カメラに力を入れた製品に比べると、夜間撮影では少し手振れをしやすいように感じた。
AQUOS sense4は、現時点で最も欠点の少ない低価格スマートフォンの1つだといえる。販売も好調で、BCNランキングでも発売当初から1カ月以上、Android機で1位を維持していた。これまでAQUOS senseシリーズを購入するのはスマホ初級者が多かったが、「AQUOS sense4はスマホに詳しい人にも多く手に取ってもらえるようになった」(清水氏)。同社の「Androidスマホ5連覇」に向け、まずは順調な滑り出しといえそうだ。
AQUOS senseシリーズの次の課題は「5G」。21年春に5G対応版では初となる「AQUOS sense5G」を発売する。価格は未定だが、5Gスマホとしては格安の4万円前後になる見込みだ。5Gのコンテンツを楽しむには一般的には高性能なスマホが必要といわれているが、同社では「現在主流の5G向けサービスであるHDRの高画質動画やビデオ通話を楽しむ程度なら、そこまで高価なスマホは必要ない。AQUOS senseのおかげで5Gが広がったといわれるようにしたい」(清水氏)と意気込む。ここで成果を出せれば、「Android国民機」の座は当面揺らがないだろう。
(日経トレンディ 大橋源一郎)
[日経クロストレンド 2021年1月19日の記事を再構成]
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