音楽ランキング ヒゲダン強し、感じるバンドのロマン
音楽プロデューサー蔦谷好位置氏に聞く2020年の音楽(上)


ゆずやエレファントカシマシなどのベテラン勢から、Official髭男dism(以下、ヒゲダン)といった旬な若手アーティストまで、幅広く手掛ける音楽プロデューサー・蔦谷好位置。ポップミュージックの匠には、ヒゲダンやBTS、米津玄師といった、2020年にさらに一段階ステージを上げたアーティストたちは、どう映ったのだろうか。2回に分けて掲載する。前編の今回は、シングルヒット曲を取り上げる。
「『billboard JAPAN HOT 100』の年間ランキングを見ると20年もヒゲダンが無双していますね(笑)。彼らは自分たちが聴いてきた海外の音楽を、歌謡曲や日本のポップスのフィルターを通してアウトプットするのが本当にうまい。
『I LOVE…』には、僕と組んだ19年の『宿命』を経て、自分たちのできるサウンドが進化したのを感じます。アレンジの専門家である僕がやると、バンドの持つ武骨さが薄れることも無きにしもあらずですが、この曲にはバンドだけで作る小さな世界から大きな世界に向けて挑む尖りみたいなものが詰まっている。

冒頭のトランペットは、ここ6~7年くらいかな。ブラストラックスや、グラミー受賞者のチャンス・ザ・ラッパーなどのホーンの使い方を彷彿とさせます。『宿命』で一緒にホーンを作った経験を生かし、現行はやっているビート感などを、いかに解釈して形にするかという、バンドならではのロマンを感じますね。打ち込みと生の融合のバランスも絶妙です。ハイハットを打ち込みにすることで、ハイエンドがしっかり伸びており、キックとシンセベースで必要十分なローも出ているので、ストリーミング時代に重要な上下の帯域と左右の広がりが見事です」
空席を勝ち取ったBTS
欧米で、No.1ヒットを飛ばしたBTSやBLACKPINKなどのK-POPの勢いも、20年の音楽シーンを語るうえで欠かせないトピックだ。2組に共通するのは、懐かしさと新しさのバランスだという。

「BTSは、K-POPの挑戦の歴史と、英米の音楽シーン事情の、そして、まさに機が熟した最高のタイミングで世界を席巻したと思いますね。というのも、アメリカやイギリスには、古くはジャクソン5に遡りますが、バックストリート・ボーイズ、ワン・ダイレクションなど、いつの時代も常に驚異的な人気のボーイズグループが存在していました。K-POPはその席につこうと、長い時間をかけて挑戦を続けてきた。今も英米にボーイズグループは存在していますが、世界的人気のグループとなると、ここ数年空位になっていたんです。
『Dynamite』はボーイズグループを過去に追いかけていた人には『こういう歌が聴きたかった』という懐かしさを感じさせる。そして、男性のヒットといえばほぼラップ中心の今の音楽を聴いている若い層には、新鮮に聴こえるという素晴らしいバランスを持った楽曲に仕上がっています。

BTSの『Dynamite』が欧米的な王道ポップスなら、BLACKPINKの20年のヒット曲『How You Like That』はオリエンタルなサウンド感と、彼女たちの東洋的な神秘的ビジュアルなど、アジアならではのストロングポイントがうまくハマった1曲。
序盤のメロディーは90年代から00年代にかけてのマックスマーティンが書きそうな美メロで、強烈なインパクトのオリエンタルなドロップパートは00年代のミッシーエリオット、というかティンバランドを思い起こさせます。
10年代を経て、スクリレックスがそれらを融合させたポップスをチャートに定着させましたが、さらにそれをアップデートし、アジア出身のスターである彼女たちの強みを最大限に生かした快作です」
(ライター 橘川有子)
[日経エンタテインメント! 2021年1月号の記事を再構成]
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