立ち飲み限定のビールや割引 大衆酒場、ほていちゃん

「ふれあい酒場 ほていちゃん」という大衆酒場チェーンがある。現在、首都圏で10店ほど。立ち飲みの革命児と言われる「晩杯屋(ばんぱいや)」は今や40店規模になっているが、その次は「ほていちゃん」ではないかと噂される新興チェーンだ。目立つ外装、お得な酒、そしてつまみも良い。店が増えるのも分かる。
発祥は東京・上野。芝大門などのビジネス街はもちろん、浅草などの下町、池袋や吉祥寺、郊外の新小岩、千葉・柏にもある。その中で比較的新しい巣鴨店を訪れた。

「ほていちゃん」の魅力は、老舗系の大衆酒場をうまく、洗練させているところだ。かつての大衆酒場は、モツ煮を目玉に、焼き鳥や焼きトンをバリエーションとして入れて、昼から営業している。上野の有名店「大統領」が典型だ。「大統領」はもともと酒飲みオヤジ向けのディープな店だったが、酒場ブームの中でビジネスパーソンや女性が店を訪れるようになって、メディアが取り上げ、知名度を上げた。コロナ禍のいまでも、上野の店は常に満席だ。
「ほていちゃん」は、こうしたベタな大衆酒場と一味違う。
まず、酒が安い。店舗は立ち飲みとテーブル席が混在しているが、巣鴨店の場合、立ち飲み席限定で、合計金額の10%割引となる。いろいろな立ち飲みに行ったが、こうしたサービスは珍しい。そして老舗系の大衆酒場は、意外と安くない。
同じように、酒飲みオヤジのココロをくすぐってくれるのが、やはり立ち飲み限定で「サッポロラガービール」、いわゆる「赤星」の大瓶を410円(税込み)でサービスしてくれることだ。「赤星」は大衆酒場の定番と言える商品だが、通常は安くて500円台、多くは600円台半ばだ。この値段はそそられる。

しかも、立ち飲みカウンターで張ってあるポスターは、「男は黙ってサッポロビール」の故・三船敏郎がうまそうにビールを飲み干す画像が使われている。1970年に開始したキャンペーンの画像は、50代以上には、懐かしい絵だろう。サワー類も300円台中心だ。
ちなみに「赤星」は、10年ほど前からの酒場ブームに乗り、特に大きな販促をしなくても、年々出荷本数が伸びているそうだ。もちろん主力の「黒ラベル」と比べると、出荷本数は雲泥の差があるが、こうしたとがった商品を持っていた強みが生きたということだろう。

「ほていちゃん」のもう一つの良さは、料理のレベルが高いこと。100円台の刺し身やつまみが並ぶ「晩杯屋」と比べると、100円台の料理もあるものの、300円台が中心。コストパフォーマンスは「晩杯屋」に軍配があがる。ただし、「晩杯屋」が築地や豊洲などの市場との長い付き合いで安く仕入れた素材中心だったり、原価率を抑えた料理が中心だったりするが、「ほていちゃん」はもう一手間かけている。
例えば「なめこりゅうきゅう」(360円)。りゅうきゅうは、アジやサバ、カンパチなどをしょうゆ、みりん、ゴマなどとあえた料理。九州・大分の郷土料理とされるが、それを結構なボリュームで出してくる。2人で食べてもよいくらいだ。

「牛がけ チーズオムレツ」(330円)もそうだ。「晩杯屋」は納豆入りのオムレツだが、「ほていちゃん」の「牛がけ チーズオムレツ」は、ミートソース風のソースがかかっていて、食べ応えがある。立ち主体の「晩杯屋」と違い、一人の立ち飲みだけでなく、2~3人で訪れた時でも楽しめる仕組みになっている。そして、焼き鳥、焼きトンなどの焼き物はない。
大衆酒場らしくないところは、そのほかにもある。なんと店内にはフリーWi-Fiが飛び、立ち飲み席にはコンセントもある。1号店がある上野周辺の店舗はないようだが、最近出店した店舗には、すべての席ではないが、こうした設備を施しているようだ。実際に使用したことはないが、休日の昼飲みで、携帯の充電をしたり、メールやネットを確認したりする時は、ありがたい。

そもそも「ほていちゃん」は、主要ターミナルの駅近にあることが多い。あまり店を探してウロウロする必要がない。基本的には1階の路面店。「マクドナルド」のような駅前から見える超一等地ではないが、酒飲みなら分かる酒場街の良い場所に店がある。しかも、近年出した店は、角地に立地しており、派手なのれんも含めて、認知度バツグンだ。要は見つけやすい店なのである。それで一人分の予算は1600円程度。居酒屋チェーンに行くより、お得だ。
客はオヤジの1人客が多いのは当然だが、30代のカップルや女性同士も見かける。飲みたい女性が増えていることを実感する。立ち飲み席は、30分強でサク飲みする1人客、テーブル席はきちんと飲みながら食事をする2~3人が多い印象だ。緊急事態宣言後は、公式ツイッターで酒類提供は19時までで、20時での閉店を宣言しているので、平日の仕事帰りには使いづらいかもしれないが、休日や早上がりの時に訪店するのは、悪い話じゃない。

「ほていちゃん」の1号店は、大衆酒場の聖地、上野。安さだけでない、料理と店作りのうまさが評価され、一気に繁盛店になった。すぐに2号店を開店し、現在上野だけを4店を展開する。それと並行して、新しい店舗を増やして行った。
経営は、居酒屋やラーメン店、「伝説のすた丼」のFC事業を行うフォートップス。会社全体では50店以上を展開する。大衆酒場ではあるが、少し洗練されているのは、この辺に理由がある。店内のオペレーションも考えられており、コロナ対策はもちろん、本来飲食店がもっとも気をつけなければならない、食中毒への対応も良い感じだ。調理のスタッフは、ゴム手袋をし、手が直接食材に触れないようにすることを励行していた。

かつてお笑い芸人の番組で「きたなシュラン」という人気コーナーがあったが、行って見ると確かに味は悪くなかったが、特筆できるものではなかった。それよりは、厨房が汚いのが気になった。こうした店に比べ「ほていちゃん」は厨房のステンレスがピカピカに磨き上げてあり、安心感がある。「ほていちゃん」は、経営主体が企業だけに、この点はきちんとしている。それが当たり前なんだけど。
大衆酒場も最近は、保健所がうるさいのか、きれいな店が増えている。上野の「大統領」もすごいピカピカだ。おいしい、おいしくないは、個人の好みだから、なんとも言えないけど、店選びの際は、まずは、ここを大事にしたい。その点、「ほていちゃん」は大丈夫。コロナで皆が悩んでいる中、ここでさらに食中毒を出したくないから。

外食記者歴30年、かつてふり客として様々な店に突入した経験談を語ると、地方を含めて、初めての店に入った瞬間、「あちゃ~」と思った店は10軒にとどまらない。店が醸し出す雰囲気が「おいしそう」ではないのだ。こういう時は「あ、ゴメンなさい。店を間違いました」とか言ってごまかして店を出るのだが、こうしたギャンブルを続ける中、時々良い店に出合う。その喜びが忘れられず、出かけてしまう。酒場巡りの醍醐味だ。
*価格は特記以外は税別
(フードリンクニュース編集長 遠山敏之)
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