原稿用紙・カード… 書き留めたくなる紙文具10選

外出が制限され、デジタル機器が生活の中心を占める日々が続くなか、紙がもつ風合いやぬくもりへの関心が高まっている。思わずペンを握り、何かを書き留めたくなる紙文具を専門家が選んだ。
1位 SNS原稿用紙 満寿屋
手書き文字、スマホ撮影・投稿しやすく

原稿用紙は作文や小説などの執筆活動を支えてきた道具だが、それ自体が読者の目に触れることはない。しかし1位の「SNS原稿用紙」はひと味違う。手書きの文字をインスタグラムなどに投稿する人が増えるなか、スマートフォンの画面の縦横の比率と同じ外枠を引き、マス目も通常の用紙より大きめに仕上げた。裁断の目印となる「トンボ」を原稿用紙の四方にあえて残すなど「手書きをたのしみながらSNS(交流サイト)も利用するアナログとデジタルの融合が面白い」(菅未里さん)。「原稿用紙の可能性を見いだそうとする社長の心意気が素晴らしい」(広瀬琢磨さん)と専門家からは新たなニーズを生む工夫が評価された。
明治15年(1882年)創業の満寿屋が原稿用紙を作り始めたのは1940年前後。市場に紙が不足するなか、文豪・丹羽文雄のために川口昌洋社長の祖母が製造を始めた。今も製紙会社と協力して特注の紙を作っており「満寿屋ならではの書き味にこだわり続けている」(川口社長)。「万年筆インクへの対応力も抜群で安心」(萩原康一さん)と品質もお墨付きだ。
司馬遼太郎など名だたる作家やクリエイターに特注の原稿用紙を作ってきた満寿屋。店頭などで聞いた顧客の声を商品作りに生かす。SNS原稿用紙は文筆家の女性の依頼を基に考案した。便箋や封筒、手のひらサイズのノートなど商品の幅を広げている。(1)ルビ有り・無しの2種類(2)50枚入り495円(3)http://www.asakusa-masuya.co.jp/
2位 ひとひらシリーズ 小西印刷所
開いてびっくり 立体カード

手紙を開くと、精緻なペーパークラフトの木が起き上がり、もらった人はびっくり仰天――。立体的に起き上がる仕組みに加え、桜の花びらなどを細かく切り出す技術も注目ポイント。レーザーカットの技術で紙に焦げ目をつくらないように切り出す方法を地道に探った。「加工も大変凝っており、もらったらうれしい」(宗村泉さん)。「開いた時の感動は大きく、海外の人にも喜ばれそう」(オダギリ展子さん)
同封されている紙の花びらを1枚ずつ切り離し、メッセージカードの間に仕込んでおくと、手紙を開いたときにふわっと花びらが舞うように見える。「デザインの楽しさだけでなく、すてきな工夫を感じられる手紙」(浜田芳治さん)。歓送迎のシーズンにももってこいだ。(1)桜やイチョウなど4種類(2)1320円(3)http://waopop.konishi-p.co.jp/
2位 SIKI 竹尾
1枚1枚違う紙と出合う

創業から約120年の紙の専門商社、竹尾が取り扱う紙は色と種類の組み合わせで約2700品にのぼる。皮のような質感の「レザック66」や半透明の「クラシコトレーシング」など種類の異なる紙を、ノートのように束ねた。商品名は伝統色を含む日本の色や四季にちなんで付けた。1枚ずつはがしてメッセージカードとしても使える。「紙が一枚一枚違い、気分が変わって飽きるということがない」(高橋咲彩さん)。質感の違いは「紙好きの人にはたまらないのでは」(北沢孝之さん)。シリーズによって枚数も異なる。
断面を斜めにカットされていて「美しい色のグラデーションを小口で見せる凝った作りで欲しくなる」(清水茂樹さん)。(1)11色、3つのサイズ展開(2)Mサイズ(148ミリメートル×105ミリメートル)は約50枚入り1540円(3)https://takeopaper.com/special/siki/index.html
4位 フードペーパー ノート 五十嵐製紙
和紙に野菜や果物の質感

にんじんやみかんなどを混ぜ込んだ和紙を使ったノート。越前和紙職人、五十嵐匡美さんの次男が取り組んでいた自由研究を基に商品化した。材料の特徴を五感で楽しめるようにしたといい、例えばたまねぎは皮の表面のパリッとした質感が感じられる。「触った時のぬくもりや風合いに心が癒やされる」(オダギリさん)
原材料の野菜や果物は福井県内の食品加工業者などから調達し、和紙原料のコウゾなどと共にすく。「廃棄される野菜や果物を使っているので環境にも優しい」(土橋正さん)(1)にんじんやたまねぎなど4種類(2)550円(3)https://foodpaper.jp/
5位 きせかえレター 日本ホールマーク
相手に合わせた動物柄に

動物のキャラクターが身につけたマントなどの部分が切り抜かれた封筒と、柄や色の異なる便箋を3種類組み合わせたレターセット。封筒に入れる便箋を取り換えると、動物を着せ替えしている気分になり「遊び心が感じられる」(今津朋子さん)。「相手によって、柄を選ぶ楽しさもある」(やまぐちまきこさん)
便箋はミニサイズで「手紙を書き慣れていない人でも使いやすい」(北沢さん)。家族や同僚にちょっとしたメッセージを伝えるときにも便利だ。(1)トイプードルや猫など6種類(2)385円(3)https://www.hallmark.jp/DefaultBrandTop.aspx?bid=hallmark
6位 箔便箋 星海飛行 コスモテック
箔押し加工 職人の技

図柄からケイ線に至るまで、キラキラと輝く箔が目を引く。表面に微細な凹凸がある青い紙を使い、爽やかな星空をイメージしたデザイン便箋。青色とホログラムの2種類の箔を職人がそれぞれ時間をかけて押す手間をかけており「箔が豪華で、眺めているだけで楽しい。複数の箔が使われていることにもこだわりを感じた」(今津さん)。
創業者の箔押しの技を受け継ぎ、今も手作業にこだわる。「東京の下町の職人がいかに素晴らしい仕事をするか分かり、アート作品の領域」(広瀬さん)。美大を卒業して就職する人も多いという。(1)別売りの封筒もあり(2)10枚入り3000円(3)https://gyogyogyogyogyo.stores.jp/
7位 ロルバーン フレキシブルカバーL デルフォニックス
ページの入れ替え簡単

リングメモやノートを手がけるデルフォニックスが作った、リフィル(差し替え用の紙)用ノート。リフィルの穴の一部に切れ込みがあり、リングを開かずに脱着できる。ページを入れ替えるなど「自分の好みに使える自由度の高さが魅力」(やまぐちさん)だ。
ビジネス向けの商品だが「リングノートは半分に折って使うこともできるので、リモートワークの限られたスペースで使うのに最適」(土橋さん)。リフィルの交換のしやすさとあいまって、アイデア次第で利用の幅は広がる。
(1)ライトピンクやマーブルホワイトなど8色(2)カバーLは2530円(3)http://rollbahn.jp/flexible/
8位 乙女印刷便箋 乙女印刷
1枚ずつ色のせ手作り

和風の紙雑貨を手がける静岡県の乙女印刷は、アンティークの活版印刷機で便箋に手作業で色を印刷している。同じデザインでも色の異なる手紙があったり、版を押す際のズレを発見したりと手作りならではの魅力がたっぷりだ。「現在では貴重になった凸版印刷で印刷されていて、絵柄や色合いも良い」(宗村さん)
「色のチョイスも絵柄もかわいらしく、人に送りたくなる。和紙っぽい質感も日本人の心をくすぐる」(高橋さん)。レモンをデザインした便箋は表面の凹凸も分かりやすく、人気という。(1)リンゴやクリームソーダなど7種類(2)封筒2枚と便箋6枚で550円(3)https://otomeinsatsu.com/
8位 日々「ありがとう」日記 クローズ・ピン
身近な人へ感謝の言葉を

1日の出来事を書き残す日記の欄だけでなく、家族や友人など身近な人への「きょうのありがとう」を書き込む欄も設けた日記帳。女性社員4人が企画した。「日常が大きく変わった今こそ、日々の『ありがとう』を意識して日記に書くことで、小さな幸せを見いだせそう」(菅さん)。「自分を支える環境を見つめ直すきっかけにしてほしいとの願いを込めた」(クローズ・ピン)
表紙は花柄でふんわりしたイメージ。ページを開くと所々にあしらわれた文字が「手書き調で、温かさを感じられる」(浜田さん)。(1)「ダリア」など2種類(2)1210円(3)http://www.clothes-pin.co.jp/
10位 カンタカルタ ノート 日本能率協会
製本や装丁にこだわり

手帳などを販売する日本能率協会が「持ち歩けるアート」というコンセプトで作った。商品名はイタリア語の「歌う」「紙」という単語を組み合わせた。表紙はイタリアのデザイン事務所によるもの。
中の紙は「薄くてもインクのにじみが少ない。192ページもあるが厚みが抑えられており使いやすい」(萩原さん)。横開きしやすいように特殊な糸がかりの製法を選ぶなど、使いやすさにもこだわった。「製本、印刷、装丁などが全てハイレベルで所有欲を上げる」(清水さん) (1)「モダンペイント」など6種類(2)2530円(3)https://cantacarta.jp/index.html
コロナ禍で変わる紙文具の潮流
コロナ禍による巣ごもり生活で紙文具のトレンドにも変化が起きている。文具専門店の伊東屋が昨年開催したイベントでは大きめのシステム手帳も人気で、同社は「外に持ち運ぶことが減ったためではないか」とみる。ロフトではノートなど紙文具をビジネス用途だけでなく「おうち時間用に購入する人も多い」(広報担当者)。
アナログ文具は見た目も楽しめる。昨年11月の東京の文具女子博には紙文具以外にも、有名小説を題材にしたマスキングテープやラメ入りペンなどが多く出品されていた。デジタル化が進むからこそアナログ文具に回帰してみるのはいかが。
ガラスペンも人気
匠(たくみ)の繊細な手作業で生み出される造形美や色合いと、独特な書き味を楽しめるガラスペンの人気も広がっている。

沖縄や岡山の作家の作品を扱うジュリエットレターズ(福岡市)の昨年のガラスペンの売り上げは一昨年の1.5倍ほどだった。「おうち時間に手書きを楽しむ人が増え、人気が広がったのではないか」(同店広報の堤萌子さん)
近年、万年筆の人気が広がっている。ガラスペンは使用後にペン先を水で洗うだけですみ、様々なインクを使い分けるのに向く。万年筆ファンが、手書きの選択肢を増やすためにガラスペンを始めるケースも目立つ。東京都の会社員、宮入有希子さん(39)もガラスペンを愛用する1人だ。「洋服と同じ感覚で、新しいペンを購入している」といい、コレクションは30本以上に。宮入さんのインスタグラムにはガラスペンで書いたおしゃれな文字の写真も並び、フォロワーは8000人を超える。
国内各地の作家が個性的なペンを生んでいる。福井県坂井市のグラススタジオ嘉硝(かしょう)は、実用性にこだわる。六角形で机から転がり落ちにくく、太字~極細字まで4種類のペン先から選べる「ヘキサゴン」は量販店にも並ぶ。
初心者がガラスペンを選ぶ際のポイントは何か。インクスタンドの広瀬琢磨代表は「見た目も大切だが、書き味にこだわるべきだ」と話す。「作家の名前を表に出している商品は品質も担保されている」と助言する。手に取って眺めて、心癒やされるガラスペンも巣ごもり生活を充実させてくれそうだ。
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今週の専門家
(生活情報部 荒牧寛人)
[NIKKEIプラス1 2021年1月16日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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