あなたは70歳まで働きたい? 春の法改正のポイント
人生100年時代のキャリアとワークスタイル

人生100年時代と言われますが、寿命が延びる中で、あなたはいつまで働きたいと考えていますか。2021年4月1日から、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務になります。私たちの働き方にどのような影響を与えていくのか、改正のポイントについて確認していきましょう。
改正の背景にあるもの
日本は少子高齢化で、今後の労働力不足は深刻な状況です。国立社会保障・人口問題研究所(2017年推計)では、生産年齢人口(15~64歳)は2040年に5978万人と15年と比べ1750万人も減少する一方、65歳以上の高齢化率は35.3%まで上昇すると推計しています。
また、年金の支給開始年齢の原則は65歳ですが、22年4月から60~75歳(現行は70歳)までに選択制で拡大します。こうした情勢を鑑みて、国内の経済社会の活力を維持するためにも、働く意欲がある人が年齢にかかわりなく働ける環境整備を図るために、21年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行されることになりました。
家電量販店のノジマでは、施行に先駆けて20年7月より、定年後の再雇用契約を65歳から最長80歳まで延長できる制度を導入。シニアの豊富な経験や能力を生かしたいと制度を大幅に見直す企業も出始めています。
改正前と後、どう変わる?
会社が定年を定める場合、60歳未満の年齢に定めることは禁止されています。この点は、改正後も変わりません。それでは、いったい何が変わるのでしょうか。
これまでは、定年を65歳未満に定めている会社において、(1)65歳までの定年引き上げ(2)定年制の廃止(3)65歳までの継続雇用制度の導入――いずれかの措置を講じることが義務付けられていました。継続雇用制度については、原則として、希望者全員が対象となります。
改正後は、上記に掲げる65歳までの雇用確保義務に加えて、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、以下のいずれかの措置(これを「高年齢者就業確保措置」といいます)を講ずる努力義務が新設されます。
いずれの措置を適用するかについては、労使間で十分に協議を行い、高年齢者のニーズに応じた措置を講ずることが望ましいとされています。
対象となる高年齢者就業確保措置
(1)70歳までの定年引き上げ
(2)定年制の廃止
(3)70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
(5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
b. 事業主が委託、出資(資金提供)などする団体が行う社会貢献事業
簡単に言えば、高年齢者就業確保措置の(1)と(3)が、65歳から70歳に引き上げられ、さらに(4)(5)が新たな選択肢として加わったイメージとなります。
なお、高年齢者就業確保措置は努力義務のため、会社が対象者を限定する基準を設けることができます。ただし、上記(1)、(2)を除きます。
この高年齢者就業確保措置の努力義務があるのは、「定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主」と「65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を導入している事業主」です。
厚生労働省の調査によれば、65歳までの雇用確保措置のある企業は99.8%ですが、66歳以上働ける制度のある企業は30.8%(2019年「高年齢者の雇用状況」)にとどまっています。つまり、国内にある多くの企業が努力義務の対象になります。
継続雇用制度の留意点
定年を70歳まで引き上げることや定年制自体を廃止するといった思いきった措置に踏み切る企業はまだそれほど多くないと思われるので、おそらく(3)70歳までの継続雇用制度の導入を検討する企業が多いと考えられます。
この場合、65歳までの継続雇用とどう違うかといえば、自社・特殊関係事業主に加えて他社も含まれるという点です。「特殊関係事業主」とはあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、いわゆるグループ関連企業のことです。
これまでもグループ企業への出向や転籍などは、技術協力や雇用調整的な意味合いで行われているので、イメージしやすいかと思います。それが関連のない他社にも対象が広げられるということです。
他社で働く場合も、可能な限り個々の高年齢者のニーズや知識、経験、能力などに応じた業務内容や労働条件とすることが望ましいとされていますが、どこまで対応されるかは企業によって変わってくるでしょう。
自社以外で継続雇用をする場合は、自社と特殊関係事業主・他社との間で、この法律に基づく継続雇用であることを契約に明記することが求められています。
もう一つの留意点として、無期転換ルールが挙げられます。無期転換ルールとは、同じ使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えて繰り返し更新された場合に、労働者の申し込みにより、無期労働契約に転換できるものです。
適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局の認定を受けた事業主(特殊関係事業主を含む)のもとで、定年後に引き続いて雇用される期間は、無期転換申込権は発生しません(65歳を超えて引き続き雇用される場合も同様)。
一方、これ以外の他社で継続雇用される場合、5年を超えて引き続き他社の事業主のもとで契約更新が繰り返されると、無期転換申込権が発生します。もし、本人がさらに長く働きたいと思い、無期転換の申し込みをすれば、期間の定めなく働くことも可能となります。
雇用によらない選択肢とは
高年齢者就業確保措置の選択肢には、業務委託契約で働くことなど、上記囲みの(4)(5)にある雇用によらない創業支援等措置も含まれています。
ただし、創業支援等措置の実施に関する計画を作成し、過半数労働組合などの同意を得て、労働者に計画を周知する必要があります。これは企業側にとっても負担が大きいため、今のところはそれほど多く実施するとは思えません。
この措置が実施される場合、働き手は「労働者」には該当しないため、指揮監督下にあるなど労働者性のある働き方となっていないか留意する必要があるでしょう。
改正高年齢者雇用安定法における70歳までの就業確保措置は、あくまでも努力義務であるため、これを講じないことで企業に即罰則が科されるわけではありません。ただし、70歳までの安定した就業機会の確保のために必要があると認められるときは、ハローワークなどの指導・助言の対象となる場合があります。
65歳の就業確保措置も、努力義務から義務化された経緯があります。今後の労働力人口減少など社会情勢を踏まえると、将来的に義務化されることを踏まえたうえで、企業も対応を検討していくことになるでしょう。
何よりも私たち自身が、長期的にどのような働き方をしていきたいか、主体的に考えていくことがますます大切になっていきます。

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