研修中止・配置転換… 新社会人「それでもよかった」
コロナ下のU22座談会(4)

新型コロナウイルスの感染拡大によって働き方やビジネス環境は大きく変わった。12月中旬にオンラインで開催した「コロナ下のU22座談会」の最終回は、2020年春に入社した新社会人が主役だ。参加してくれた3人のうち2人は19年末の内定者座談会にも出席してくれたメンバー。学生時代に描いていたイメージとのギャップなどを聞いた。(司会はU22編集長・安田亜紀代)
Aさん 証券会社の新人男性。地方支店に配属され、営業を担当。
Bさん イベント制作会社の新人女性。動画編集やウェブサイト制作を手掛ける。
Cさん 人材サービス会社の新人男性。新規事業の企画を担当。
――入社後いきなりのテレワーク、どんな日々でしたか。
Aさん 6月末までテレワークで出社は4日ほど。仕事の進め方などはリアルじゃないとわからないことも多々あって、支店配属後は戸惑いました。今はテレワークと出社が交互にある状況で、勉強や資料作成の日と、営業する日と、メリハリをつけられるので、それはやりやすいなと感じています。
Bさん 4月はイベントのオンライン対応などで先輩社員もバタバタしていて、2週間ほど放置されていました(笑)。本来は数カ月、全部署をローテーションで回って勉強する期間があるのですが、それもなくなり、いきなり配属になってトレーナーとも直接会わずに業務が始まりました。チャットで作業報告したり質問したりしていると、先輩から「頑張ってるね」と言ってもらえたりして、特にやりにくいということはなかったです。
Cさん 激動の10カ月でした。コロナによる経営悪化で一部社員を休業扱いにする会社が多かったと思いますが、当社の場合は営業社員だけ残して、企画など他の職から一部営業に転換させる動きがありました。新入社員ほぼ全員が夏まで、人材とは関係のない領域の新サービスの営業をさせられていたんです。毎日100件以上電話をかけて飛び込み営業というハードな状況で、新入社員のうち残ったのは3分の1ぐらいでした。
――3分の2は辞めたというのはすごい状況ですね。
Cさん きつくて辞めたという人もいますが、コロナの影響で経営方針が二転三転して、今後どうなるかわからない不安から辞めていく人が結構いました。
「コロナ第1世代」は活躍できる?
――コロナ禍で新入社員だったということは、皆さんどう捉えていますか。
Aさん 成果を出しにくいというマイナス面はありますが、「コロナ第1世代」なので、より柔軟な思考を持っていると思うんですよね。新入社員だからこそ、何も染まっていない段階にコロナ禍での営業スタイルを自分なりに考えられる。ある意味、その第一人者になれるように思います。
Cさん 景気がいいときって勝手に業績があがっていくので、企画の価値が見えにくくなります。でも(08年の)リーマン・ショックのときに就職した方がこの数年活躍していたように、僕らもコロナの苦しい中でどうやって成果を上げられるか、通常時より深く考えることができるので、このタイミングでの入社でよかったと思っています。
Bさん 私たちの世代はネットリテラシーが高いので、ZoomやYouTubeなどの設定も慣れている面があって、ベテラン社員に「えっ、これも知らないんですか。そんなの簡単にできますよ」みたいなことは言えますね。あと、今まで得意先や代理店との打ち合わせは会議室のキャパシティーの関係で偉い人だけが行ける感じでしたが、リモートになると人数制限もなくて、自分が得意先と直接話したり提案内容を説明できたりするんです。そういうチャンスが増えたのも良い面だなと思います。
――皆さんわりとプラスに捉えているんですね。今の会社に対する満足度を5段階で表現するとどうなりますか。(以下、カッコ内の数字はそれぞれの評価)。
Aさん 「3」 証券会社は飛び込み営業しながら自由にお客様と話すというイメージでしたが、意外とコンプライアンスが厳しく、コロナ禍ということもあって、思ったより自由にできなかったのが残念でした。あとはそもそも証券会社に対して良いイメージを持っていない方も多いので、コロナに関係なく新規開拓が厳しい。私の認識が甘かったのですが、自分の成長スピードが当初思い描いていたようにはなっていないというのが正直な感想です。
Bさん 「4」 もともと希望していた、制作寄りの部署に配属してもらえて、基本的にはやりたい仕事ができているので満足しています。強いて言うなら若手社員にはテレワークする権利がなくて、夏からオール出社。偉い人に都合のいい仕組みになっているところが少し気になるというぐらいですね。
Cさん 「4」 キャパオーバーになるくらいの責任ある仕事を任されている実感が持てているので、そこは満足しています。コロナの影響で週2日出社という扱いになっていますが、他の日も実質リモートで働いていますし、土日もやらないと追いつかない状況で、すごくハードですけど。待遇面は不満ですね。営業だと成果が目に見えるけど、企画は自分の成果を数字で語ることが難しいので、給料が上がりにくいんです。

「給料よりやりがい」と言うけれど…
――入社して見えたこともありますよね。もう一度就活するなら、今の会社を選びますか。
Aさん 選ばないと思います。証券会社は色々学べてスキルアップできるイメージだったのですが、営業をしてみると「今月はこの商品が出たから必ず売ってください」と、意外とトップダウン型なんです。ではどんな会社を選ぶかというとまだイメージできないので、「営業以外」という表現になるかなと。企画や人事など、スキルを積んでいけそうな仕事を選ぶと思います。
Cさん 僕はもう一度就活するなら、外資やコンサル企業を受けると思います。先ほど待遇の話をしましたが、やはり外資は成果主義で、その成果に対してしっかりと報酬が支払われていますよね。外資で働いている友達の話を聞いていても、やっている内容はあまり変わらないのに、給与は全然違うなと感じて。
Bさん やりたいことができているので今の会社を選ぶと思いますが、福利厚生のちゃんとしている会社も受けておくべきだったと思います。打ち合わせが土曜日だったり、昨日終電で帰ったのに明日朝6時に現地集合だったり。そういう業界だとは知っていたけど、いざやってみると体力的にきついなと思うことがあるので。
――わりと待遇面が気になるんですね。
Cさん 就活あるあるで、「給料よりやりがい」ってよく言うじゃないですか。僕も就活生のときはそう思っていたのですが、「とは言え、給料や待遇だってめちゃめちゃ大事」ということは、就活の学生に声を大にして言いたい。給料だけで選ぶのは良くないですが、自分が生きていく上で、そこを全く見ないのはリスクだと思います。
――いずれ転職すると思いますか。
Aさん もともとスキルアップができるファーストキャリアとして証券会社を選んだので、ずっといようとは思っていないですね。
Cさん 僕も学生時代から、3~5年で環境を変えていこうと考えていました。入社して感じる違和感って、誰しもあると思いますが、数年続けるとその違和感が当たり前になって、その会社に染まっていくというのが嫌なんですよね。
――「働いている」と実感するのはどんな場面でしたか。
Bさん 芸能人が出演するウェブCMで、台本のセリフを考えてみなよと言われて、自分で考えて提案したものがそのまま採用されたんです。CMが編集され世に出て、実際に広告として回って、ファンの人たちが喜んでくれる反応を見たときは、やっぱりこの仕事は楽しいなって思いました。
Aさん 想像以上に営業が難しいなかで、8月に初めてお客様から「イエス」という言葉をいただき、契約を獲得できたときは、帰り道にガッツポーズしました。その日、毎日必ず怒っている隣の課の課長からも、さりげなく褒めてもらえて、そのうれしさは忘れられないです。
Cさん 企画内容を通すための関係調整を各部署としているときに、働いているなとすごく実感します。新規事業をするとき、営業としては早く始めたい。一方、法務部からするとリスク面からここの論点をつぶしておきたいから、もうちょっと待って、と言われる。早く始めたい人たちとリスクをしっかり見ていきたい人たちの間に立って関係調整しているときに仕事っぽいなと感じます。
学生時代はやりたいことを
――企画の仕事をしたいという学生は多いですが、実際に働いてみて見えてきたことはありますか。
Cさん 企画って華やかに見えがちですが、アウトプットまでに膨大な時間がかかったり、だれかの意向で差し戻しが発生したり、自分の思い描いた通りには絶対いかない。一番大事なのは、他人の思いをくみ取り、それを伝わりやすい柔らかな言葉にかえながら、スピード感をもって進めていく調整能力です。想像以上に難しいので、毎日が工夫ですね。
Bさん 得意先も部署や担当者で言うことが異なることがあり、振り回されることはありますね。私はそれも含めて楽しいと思っています。広告制作会社ってこんなにしんどいのかということは学生時代のインターンで味わっていたので、そこまでギャップはなかったですね。そういう意味でもインターンで現場を見るのはおすすめです。
――コロナ禍で色々と活動が制限されていますが、学生生活の過ごし方でアドバイスはありますか。
Bさん そのときやりたいことを、我慢せずにやるのがいいのかなと。それで身についたスキルが意外と仕事で使えることがある気がします。私はコールセンターのアルバイトが電話対応で役立っているなあと思っています。
Aさん 「学歴が大事」と話した昨年の座談会での発言をちょっと訂正させていただきたいです(「就活は足を運んで会話して 後輩たちへ体験的心得」参照)。社会に出たら学歴よりも、その人自身の能力の方が重要で、入ったら本当に関係ないんだなというのを痛感しています。どこの大学であろうと、学生は社会人に比べて時間があるのは変わらない。やったことのないこと、初めての経験をたくさんしておくことがいいかなと思っています。
U22編集長あとがき
「コロナ下のU22座談会」を3回に分けて実施したのは2020年12月だが、年明けすぐの緊急事態宣言再発令で、リアルの活動はさらに制約されることになった。企業はテレワーク、大学ではオンライン授業が続きそうだ。こんな時代に入学や就活なんてかわいそう、とひとくくりにされがちだが、座談会の参加者に共通していたのは、目の前のことに真摯に向き合う姿勢だった。やりたいことができないとわかったら軌道修正するしたたかさも見えた。
この異常事態がU22世代にもたらしたのは、マイナスばかりではなかったとも感じた。コロナ以前は、若者の多くが大人の価値観やオンラインの情報に振り回され、少し生き急いでいるように見える部分があったからだ。少し立ち止まることによって、大事なものが見えてきたということがあるように思う。
アイザック・ニュートンが万有引力の法則などを発見したのは、英国ロンドンでペストが大流行して大学が閉鎖になり、自宅に引きこもっていたときだ。そんな世紀の大発見でなくとも、平常時には気づかなかった家族や友達の思い、感染症にかかわりなく巡る四季の風景、あるいは忘れかけていた自分の趣味などを「発見」しておくことは、より豊かに生きる糧を与えてくれるのではないだろうか。
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