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「スーツ派、欧州はもう銀行だけ」伊藤忠育ち塩川社長

ジョイックスコーポレーション社長 塩川弘晃氏(下)

「ものやブランドの背景に語れるものがたくさんある英国で、服や雑貨に魅了されました」と話すジョイックスコーポレーション社長の塩川弘晃さん(東京・千代田の本社)

ポール・スミスやランバン コレクションの商品を販売するアパレル会社、ジョイックスコーポレーション社長の塩川弘晃さんは、伊藤忠商事時代、10年にわたり欧州でファッションの仕事に携わってきた。中でも2020年3月まで滞在し、2度の駐在で計9年間を過ごした英国では、伝統に裏打ちされた装いのスタイルに深く魅了されたという。ただ、カジュアル化の波はこれら欧州のビジネス界にも押し寄せている。現地で目の当たりにした、ファッションの大転換期の様子を聞いた。(この記事の〈上〉は「気分アゲる『ええもん着ましょう』伊藤忠育ち塩川社長」




愛着の一足 修理代にびっくり

――いま履いていらっしゃるのはボルドーの美しいダブルモンクストラップ。新品みたいにぴかぴか。靴のお手入れは自分でしているのですか。

「この靴は自分で鏡面磨きをしました。黒い靴よりも、こういうボルドーや茶系のほうが手入れのしがいがあって、楽しいですね。欧州に駐在している間に英国の靴にどっぷりハマって、たどり着いたのが僕の足形に合うこのエドワード・グリーンです。もう1足、一番好きな靴を持ってきたのですが……」

「これは最初に英国に駐在した04年ごろ、パリのセレクトショップで購入したもの。エドワード・グリーンとセレクトショップのダブルネームです。1枚革で最初は足が痛かったのですが、だんだんなじんできて、一番いい具合になった頃に底に穴が空き、ソールを張り替えました。まるまる取り換えたら、靴がもう1足買えるぐらい、えっ!と驚く修理代でした」

15年以上履いてきたお気に入りとのエドワード・グリーンの靴。こちらもきちんと手入れされ、ぴかぴかだ

――日々の着こなしでは靴や小物にどう気を配っていますか。

「ポール・スミスを着るときは特に、小物使いでちょっとしたアクセントをつけよう、と心がけています。今日は靴と時計以外はポール・スミス。ポップな靴下やユニークなカフリンクス、色を生かしたチーフなどでポールらしさを引き出すよう考えました。ランバン コレクションでコーディネートする時には逆に靴下は黒など無地にして、全体をシックにまとめます」

身なりの「格」 小物の使い方もポイント

――眼鏡や時計もしゃれていますね。

「この眼鏡もポール・スミスです。製造したのはアイヴァンで、帰国してすぐ衝動買いしました。私は背が高くないですし、童顔なので丸い眼鏡はしてきませんでした。それでもなぜ、これに手を伸ばしたのかというと、雰囲気を変えてみたかったからです。人事異動は印象を変えるいいタイミングだと思い、4月から眼鏡を変えたのです」

「時計には、若い頃にはまったく興味がありませんでした。服に気を使うようになってから興味が湧いてきましたが、なにせ高価なので、買うのをためらっていました。このロレックスは09年、最初のロンドン駐在から帰国する直前に、これまでで一番高いモノを買うぞ、と気合を入れて買ったものです。ですからすごく思い入れがあります」

最初の英国駐在から帰国する際に「気合を入れて買った」というロレックスの時計。いまは手に入れるのが難しいモデル

――英国は紳士用の小物が充実しています。小物の使い方やコーディネートが巧みなのは、欧州での経験が生きているのですか。

「10年に及ぶ駐在期間は日々勉強でした。着るものにお金をかければ、それなりに身なりの格は上がる。まずは身をもってそのことを知りました。さらにポール・スミスを手掛けていくうちに、いや、それだけではない、小物の合わせ方でスタイルはどんどん変わっていくものなんだ、ということも分かってきました。それで英国の靴にも開眼しました」

「英国でよかったのは、靴や傘や小物などの逸品を扱う専門ブランドが数多くあることです。カフリンクスの有名ブランド、タテオシアンの時計をかたどったカフリンクスがほしくてほしくて。アウターではマッキントッシュ、バブアー、(キルティングジャケットの)ラベンハムなども手に入れました。あとは(ニットで有名な)ジョン・スメドレーで薄手のセーターに目覚めた。これらが手ごろな値段で買えるアウトレットやファクトリーまで探しに行きました。そうした逸品はやっぱり、着心地も付け心地も本当にいいんですね」

いま一番気に入っているという筆記具とカードケースはポール・スミス。色使いが美しく使い勝手抜群だそう

欧州の仕事スタイル オフィスではノータイが「常識」に

――英国は特に男性の装いの文化が豊かですね。

「ブランドやモノの一つ一つに物語がたくさん隠れている。ただ、英国人は身体が大きく、既製服のサイズは私には合わない。だからどうしても雑貨に走りがちになりました。服で買いやすかったのはイタリアブランドです。イタリア人は全般におしゃれ好きですよね」

――欧州のおしゃれの感性、価値観をどうみていましたか。

「英国人は、お金を持っている富裕層はええもん着ているな、と一目で分かるし、見栄えがします。この国では階層がくっきりと着るモノに反映されていて、ジェントルマンズクラブにいるような品のいい金持ちは正統派の服装、チャイナマネー、アラブマネー、ロシアマネーの金持ちは成り金的なおしゃれ、と分かりやすい。対してフランスはスマートといいますか、富裕層でもこれ見よがしに飾らないかっこよさがある。ただ、欧州滞在での一番の気付きは、意外とおしゃれじゃないなあ、ということでした」

欧州では、日本以上にビジネスシーンでのスーツ離れが激しいという。「スーツを着るのはもはや金融業だけです」

――日本ではカジュアル化が進み、スーツ離れが指摘されています。欧州はどうですか。

「本当にもはや、スーツを着ているのはバンカーだけ、という感じでした。しかもそうした金融界のビジネスパーソンも、外に出向くときはスーツを着てネクタイを締めますが、オフィスのデスクで仕事をするときはネクタイをしていません。あらゆる世代がそうでしたね」

――スーツはあくまで外へ出て行くときのための制服なのですか。

「そうです。スーツは信頼を得るための服装なのです。金融マンは夏であっても、大事なクライアントに会うときや、まだ信頼関係が築かれていない相手と話をするときはスーツとネクタイです。あるいはジャケットにネクタイが普通。ほとんどの職種が、仕事をするときはカジュアルでもいい、という雰囲気になっているなかで、やはり金融だけは違うと感じました。仕事の装いの変化といえば、日本よりも欧州の方がカジュアル化の波が激しいと思います」

(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)

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