
「富める者」襲う恐怖 「バイデノミクス」土俵際の出発
パクスなき世界 大断層(1)
歴史に残る1年が終わる。新型コロナウイルスの危機は低成長や富の偏在といった矛盾を広げ、世界に埋めがたい深い断層を刻んだ。過去の発想で未来は描けない。非連続の時代に入り、古代ローマで「パクス」と呼ばれた平和と秩序の女神は消えた。しばらく我慢すれば元通りになると、あなたは考えますか――。
「市民が互いに軽蔑すれば、米国は1つの国として生き残れない」。世界が米大統領選に注目した11月、米複合企業コーク・インダストリーズの総帥、チャールズ・コーク氏(85)は著書で、米社会の分断について「我々が台無しにしたのか」と後悔の念をつづった。
保有資産450億ドル(約4兆6千億円)という米有数の富豪は自由経済を徹底して求める「リバタリアン」の代表格だ。保守派を資金面で支え、いわば党派対立をけん引してきた。その成果の1つが4年前のトランプ政権の誕生と共和党による上下両院の独占だった。
勝利したはずなのに、この4年で逆に自由経済は遠のき、保護貿易や政府債務が拡大した。不公正や格差をめぐる暴力も米社会を覆う。今後、特定政党の支持から手を引くというコーク氏。自身の力がもたらした惨状におののく心情が透ける。
米ウォルト・ディズニー共同創業者の孫、アビゲイル・ディズニー氏ら資産家約100人は「私たちに増税を。すぐに大幅に恒久的に」と公言する。コーク氏と表現は異なりながら、「富める者」に通じるのは「このままだといずれ自分たちはしっぺ返しに遭う」という恐怖にも似た不安だ。
不安の震源は「1つの地球に2つの世界がある」...
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新型コロナウイルスの危機は世界の矛盾をあぶり出し、変化を加速した。古代ローマの平和と秩序の女神「パクス」は消え、価値観の再構築が問われている。「パクスなき世界」では、どんな明日をつくるかを考えていく。