石段が映える寺社10選 日本屈指のパワースポットも

自然と調和する石段のある寺社は全国に多い。写真を眺めても、コロナ禍が一服してから訪れてもいい。石段が映える寺社を専門家が選んだ。
1位 出羽三山神社
神仏宿る静寂と荘厳の空間

樹齢350年を超える巨大な杉木立に守られるように続く苔生(こけむ)す石段。出羽三山神社は羽黒山の中にある。「東北を代表する霊山で石段も神仏の一部」(鵜飼秀徳さん)。老木の杉林には「空気が張り詰め、いにしえの歴史の香りが漂う」(石橋睦美さん)。
600年前に再建されたと伝わる国宝の羽黒山五重塔が「静寂の林に溶け込むようにたたずむ姿は見る者を圧倒する」(小塩稲之さん)。日本屈指のパワースポットとしても知られ、「荘厳な石段を登ると、自然からの力をもらえるように感じる」(加藤誠治さん)。
山形県の中央にある月山(がっさん)、羽黒山、湯殿山を出羽三山といい、それぞれに神社がある。羽黒山は現在、月山は過去、湯殿山は未来を表し、江戸時代から広がったこの三山信仰は日本遺産に認定された。雪深い冬は出羽三山神社だけ参拝できる。「山岳修行の厳しさを感じながらも、陽光を反射してきらめく清流の脇を歩くと、凜(りん)とした空気に身が清まる思いがする」(Mr.tsubaking)。2446段の石段参道は約1.7キロメートルも続く。
「石段を上がるごとに空気感が変わるパワースポットでありフォトスポットでもある」(富本一幸さん)。冬場、人けの少ない参道を歩けば「静寂と巨木に抱かれ、自分の内面と向き合える」(山田祐子さん)。(1)羽黒山の表参道石段(2)http://www.dewasanzan.jp/
2位 金刀比羅(ことひら)宮
並ぶ店舗 長丁場楽しく

「こんぴらさん」の愛称で親しまれる、全国に約600ある金刀比羅神社、琴平神社などの総本宮。年間300万人以上が参拝に訪れる。「香川屈指の観光スポットで、長く伸びた石段の参道はあまりにも有名」(山内絵梨さん)だ。石段沿いに土産物店や飲食店が並び「長丁場だが楽しく参拝できる」(加藤さん)。
石段は参道口から御本宮までは785段、奥社までは合計1368段。雰囲気の違う石段が続く。「途中で振り返ると、香川の素晴らしい景色が望める」(三ツ橋典子さん)
御本宮横の展望台からは讃岐富士と呼ばれる飯野山や讃岐平野の田園風景、遠くには瀬戸大橋が見渡せる。「登り切ったところで感じる風は心地よい」(小塩さん)(1)旭社前の石段(2)http://www.konpira.or.jp/
3位 長谷寺
四季の美映すたたずまい

真言宗豊山(ぶざん)派の総本山。屋根付きの399段の長い階段「登廊(のぼりろう)」は長谷寺ならではの景観だ。「果てしなく真っすぐに見えるしつらえが圧巻」(加藤さん)で、「国宝の本堂に続く石段の廊下は独特の美しさ」(山内さん)がある。時間帯によっては「登廊に差し込む日の光が変化を与える」(富本さん)。「春は桜、秋は紅葉に彩られる登廊のたたずまいを楽しめる」(石橋さん)
清少納言や紫式部も上ったといわれ、「色とりどりの装束を着たお坊さんとすれ違うこともあり、階段と色彩の調和が目に楽しい」(Mr.tsubaking)。この時期、「敷地が広く人混みにならないのも良い」(三ツ橋さん)。大みそかから新年にかけて登廊の各段の両側が点灯される「観音万燈会」が開かれる。(1)登廊(2)https://www.hasedera.or.jp/
4位 立石寺(りっしゃくじ)
芭蕉も一句 格別の原風景

「山寺」の名前で親しまれる。「860年に建立された東北を代表するお寺」(小塩さん)。急勾配の山上まで続く石段は1015段。まさに石段の寺で1位に選んだ専門家も。斜面には伽藍(がらん)が並び「山寺信仰の痕跡を感じる」(石橋さん)。
「閑(しづか)さや岩にしみ入る蝉(せみ)の声」と松尾芭蕉が詠んだ句にちなんだせみ塚が途中にあり、「芭蕉と同化できる」(鵜飼さん)。「表情を変える麓の美しい風景が望める」(加藤さん)、「五大堂から望む山形の原風景は格別」(山内さん)との声も。冬場は登山靴を準備した方が安心だ。(1)開山堂に向かう石段(2)https://www.rissyakuji.jp/
5位 室生寺
お堂への一歩 別世界気分

高野山(和歌山県)が女人禁制の霊場だったのに対し、室生寺は女性の参詣ができたため「女人高野」の別名がある。金堂に向かう石段・鎧(よろい)坂は「昔から参詣人に踏み締められてきた趣がある」(石橋さん)。四季折々の風情があり「周囲の豊かな自然と調和した景観が生まれている」(Mr.tsubaking)。
「一段一段上ると重厚な金堂が姿を明らかにする様がいい」(富本さん)。いずれも国宝の金堂、本堂、五重塔へと石段が続き、「御影堂の重厚な木組みが見えると、現実を離れた別世界に入る不思議な気分になる」(宮澤さん)。(1)鎧坂(2)http://www.murouji.or.jp/
5位 鵜戸(うど)神宮
海と断崖絶壁 圧巻の景観

日向灘(ひゅうがなだ)を望む断崖にたたずむ鵜戸神宮一帯の景観は国の名勝に指定されている。「海辺の崖にある洞窟の中に本殿が建てられている」(小塩さん)。岩場に白波が打ち付ける光景を眺めながら本殿へ降りていく石段は「海の国・日本の原風景」(宮澤さん)。
目の前に広がる「海と断崖絶壁からの景観は圧巻」(三ツ橋さん)。色彩美も特徴で、「潮香る崖に朱色の欄干が鮮やか」(石橋さん)。「海と空の青に朱色の対比がフォトジェニック」(山田さん)。海の石段に対して「寺があった場所の山の階段も雰囲気がある」(鵜飼さん)。(1)本殿に向かう石段(2)https://www.udojingu.com/
7位 知恩院
権力感じさせる重厚な巨石

浄土宗の総本山。京都・東山にある寺はどこも石段や坂を上って参拝するが、知恩院の石段は「一段一段がしっかりとした重厚な石造り」(山内さん)で険しい。「日本一の規模を誇る三門から続く巨石の石段は技術力だけでなく権力の大きさも感じる」(鵜飼さん)。「男坂」と呼ばれるゆえんだ。「三門と奥に伸びる男坂の石段がシンメトリーで美しい」(山田さん)。三門も石段の上にたたずむ御影堂も国宝で、見どころが多い。全身を使ったダイナミックなつき方が有名な除夜の鐘だが、今年は12月27日の試しつきも大みそかも参拝できない。(1)三門奥の男坂(2)https://www.chion-in.or.jp/
8位 釈迦院
3333段との闘い 修行そのもの

九州を代表する霊場で「西の比叡」と言われる。釈迦院へと続く高低差600メートル以上、3333段は「日本一の石段」として知られる。石段をつくった美里町では「アタック・ザ・日本一」のイベントも開かれ「自分の足腰との闘いは修行そのもの」(山田さん)。日本らしい里の風景が望める。「国内外の17種類の御影石が使われていて、自然の中で黙々と石段に向き合える」(小塩さん)。「直線的に貫く石段に何か意志を感じる」(Mr.tsubaking)との声も。「階段は新しいが、日本一の階段を作った心意気が素晴らしい」(鵜飼さん)(1)釈迦院御坂遊歩道の登り口(2)https://kumamoto.guide/spots/detail/12143
9位 愛宕(あたご)神社
出世願った故事 都会のオアシス
港区のオフィス街にたたずむオアシス。急勾配の石段は「思わず足がすくむほど」(小塩さん)。馬で駆け上がったという馬術家の故事から「出世の石段」と呼ばれる。標高約26メートルと東京23区の天然の山としては最も高い愛宕山の上に社殿がある。「都会の真ん中とは思えない静けさ」(山内さん)を味わえる。高齢者向けに愛宕山にはエレベーターも設置されている。深い木々に囲まれているが、「階段上から高層ビルが見えるギャップが良い」(三ツ橋さん)。周辺には寺も多い。緑に覆われた都心の急階段は「出世を望まずとも上りたい」(富本さん)。(1)出世の石段(2)https://www.atago-jinja.com/
10位 両子寺(ふたごじ)
仁王像と山岳信仰の息吹

国東(くにさき)半島にある古刹(こさつ)。境内は瀬戸内海国立公園内に位置する。山門に続く石段の両脇には同寺を象徴する高さ約2.5メートルの剛健な「仁王像とゴツゴツとした石段が山岳信仰の息吹を感じさせてくれる」(宮澤さん)。緑色に茂る幻想的な杉木立の中、「石段から生まれたように同じ色味を持った仁王像が迫力満点」(Mr.tsubaking)で、「趣のある石段と仁王像を組み合わせた構図が写真映えする」(加藤さん)。山岳修行の場でもあり、森林浴の森100選にも指定され、「パーフェクトな構図にエネルギーを感じる」(山田さん)。(1)仁王門の石段(2)http://www.futagoji.jp/
変化する景色 人の心を演出

急峻(きゅうしゅん)な土地が多い日本には、各地の寺社にも趣のある石段が多くある。上がるたびに景色が変わる階段には人の心を演出する効果があると言われる。今回選ばれた石段はいずれも自然と調和した個性派で、ベスト10のうち4つは千段を超える。石段は踏みしめるごとに厳かな気分にもなる。
寺社だけでなく、大きな石段そのものが景観のシンボルになっているスポットは各地にある。例えば、京都市の伏見桃山陵(明治天皇陵=写真)のような石段が周囲の自然と溶け込む場所は少なくない。
今年は新型コロナの影響でイベントを縮小する寺社も多い。東京・愛宕神社の半田りえ子さんは「万全の感染対策をして年末年始も安全に参拝客をお迎えしたい」と話す。晴れやかな気持ちで参拝するためにも、今は「我慢」の時だ。
ランキングの見方
調査の方法
今週の専門家
(生活情報部 大久保潤)
[NIKKEIプラス1 2020年12月12日付]
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