激レアな白いピューマ ブラジル育ち、ネットを闊歩

白いピューマが脚光を浴びている。ブラジル南東部の大西洋岸森林のセラ・ドス・オルガンス国立公園を闊歩(かっぽ)する白っぽい若いオスをとらえた2013年の写真が、最近になって写真共有アプリ「インスタグラム」に投稿され、再び注目を集めているのだ。野生のピューマでリューシズム(白変種、体の大部分が白くなる遺伝子変異)が確認されたのは、これが初めてだった。
「極めて珍しいことです」と、野生生物保護協会(WCS)の大型ネコ科動物保護プロジェクト「Big Cats Program」のエグゼクティブ・ディレクターを務めているルーク・ハンター氏は話す。「とても印象的な写真です」。氏は、書籍『野生ネコの教科書』(エクスナレッジ)の著者でもある。
全身の色素が欠乏するアルビニズム(先天性白皮症)や、リューシズムなどの遺伝的な色素の多型は、野生のネコ科動物の間では比較的よく見られる。だが、カナダからチリにかけて君臨する捕食者で、南北米大陸最大の野生のネコ科動物でもあるピューマに関しては、ほとんど前例がなく、その理由はわかっていない。
例えば、メラニン色素(黒色素)が過剰に生成されるメラニズム(黒色素過多症)は、既知の野生のネコ科動物40種のうち14種で確認されているが、黒いピューマの記録は、これまで飼育下でも野生下でも確認されていない。
一方、色素をまったく生成できず、目が赤っぽくなるアルビニズムに関しては、2例だけだが記録があると、ハンター氏は言う。1つは動物園で、もう1つは猟師たちが米国西部で野生の個体を木の上に追い詰めたときのものだ。
リューシズムのピューマの例は、同氏によると、このブラジルの個体を除いて知られている限り1つだけだ。それはネット上の写真で、動物園(詳細不明)で撮影されたものだという。
「私の生きている間に、白いピューマがもう1頭現れることはないかもしれません」と同氏は話す。
バリエーションが少ないピューマの毛色
ピューマ(クーガーやマウンテンライオンとも呼ばれる)は、全体的に毛色のバリエーションが非常に少なく、ほとんどが目立たない黄褐色や灰色などの土のような色合いだ。
なぜピューマに関しては、色を変える遺伝子がこれほど珍しいのか、その理由は誰にもわからないと、ハンター氏は言う。
「私が最も可能性が高いと思うのは、ピューマの遠い祖先が皆同じ色をしていて、その時からずっと色が変わっていないのではないか、ということです」と同氏は話す。「しかし、それはランダムな突然変異の結果に過ぎません。遺伝子のサイコロの目次第なのです」
白いピューマの写真が撮られた後、研究者たちは、その個体を捕まえて遺伝子を分析したいと考えていた。しかしながら、このピューマが目撃された国立公園の環境アナリストであるセシリア・クロネンバーガー・ジ・ファリア氏によると、その後、このピューマは見つかっていないという。
「昨年、カメラトラップ監視プロジェクトが再開されましたが、この個体やほかの変わった色のピューマに関する新たな記録はまだありません」と、クロネンバーガー・ジ・ファリア氏は、ナショナル ジオグラフィックへの最近のメールに書いている。同氏は、国際自然保護連合(IUCN)が発行するニュースレター「Cat News」で、18年にこのリューシズムの個体について述べた報告の著者でもある。
おそらく、ピューマの色にバリエーションがないことは、進化上のメリットにもデメリットにもなっていないが、ブラックパンサー(黒っぽい毛皮の大型ネコ科動物の総称)に関しては、暗い色の毛皮がカムフラージュになっているという説もある。
ライフスタイルは変わらない
Cat Newsの報告では、リューシズムのピューマは、急速に小さくなりつつある大西洋岸森林において、群れが分断され近親交配が行われている印である可能性が示唆されている。ピューマは生息地の喪失や餌の不足により、ブラジルをはじめ多くの場所で減少しつつあるものの、IUCNのレッドリスト(絶滅危惧種リスト)では「低危険種(least concern)」に分類されている。
しかし、ほかにリューシズムのピューマが目撃されていないため、「近親交配については、疑わしいと思います」とハンター氏は話す。
さらに、リューシズムのピューマの白っぽい毛皮は、ハンデにはならない可能性が高い、と同氏は付け加える。ピューマは森に隠れてすぐ近くまでやってきた小型哺乳類などを攻撃する待ち伏せ型の捕食者だからだ。一方、白いピューマが、米国西部の広大な平原でシカを狩るのは難しいだろう、と同氏は指摘する。
交尾相手を見つけることに関しては、同氏は笑って「メスは毛皮の色なんて、まず気にしないと思います」と答えた。
(文 CHRISTINE DELL'AMORE、訳 牧野建志、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年12月7日付]
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