損害保険会社がDXで実現できる社会貢献とは?
原典之・三井住友海上火災保険社長 経営者編第6回(12月7日)
コロナ禍で企業のビジネス環境は大きく変わりました。損害保険会社でも在宅勤務や非接触型の働き方が増え、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいます。こうした動きはコロナ後も変わらないと考えています。

保険金支払部門の在宅勤務は、自宅に家族がいるうえ、上司や同僚を頼ることもできないため、当初は難しい示談交渉などに対応できるだろうかと心配していました。ところが被害者の方にも接触を避けたいとのお考えがあり、業務をスムーズに遂行できています。これは意外な気づきでした。社会全体に非接触型の対応を受け入れる機運が出てきたからではないでしょうか。
こうした環境変化はDXを推進するチャンスになります。たとえば我々の代理店では、人工知能(AI)を積極的に活用しています。AIが契約者の年齢や属性を読み込み、最適な商品の設計や提案、説明動画の作成までこなします。従来は代理店の経験や知識の差によって提案にばらつきが出ましたが、均質的な提案をしやすくなりました。
DXは保険金支払い業務の向上にも役立ちます。2019年から販売を始めたドライブレコーダー付きの自動車保険では、AIがレコーダーの映像から事故の状況図をわずか数分で正確に描いてくれます。従来は契約者の方に電話などで確認していましたが、事故状況の把握にかかる時間を大幅に短縮できるようになりました。しかもAIは使い込むほど、精度も向上していきます。
21年度からは契約者の方のスマートフォンで事故への対応状況の確認や保険金請求手続きが完結するサービスを始める計画です。顧客満足度を高められるうえ、我々の業務も効率化できると思います。

DXを生かした新たなビジネスにも取り組んでいます。具体的には、リスクとテクノロジーを掛け合わせた「リステック」という事業に乗り出しています。たとえば多店舗展開する小売りチェーンの場合、企業が持つ設備の利用や故障のデータと、我々が持つ保険金の支払いデータを掛け合わせることで、最適な設備の性能や仕様、メンテナンス期間などを導き出せます。
また、運送会社の運転データと保険金のデータから事故発生リスクの予測モデルを作成したり、気象データと保険金のデータを掛け合わせて水害に弱い地域を診断したりするビジネスもスタートさせます。
これまでも損害保険のビジネスは変質を続けてきましたが、コロナ禍でさらなる社会の変化への適応を求められています。サイバーリスクなどの新たな領域も増えました。そこで読者の皆さんに質問です。損害保険会社がDXを活用して社会に貢献するには、どのようなビジネスが考えられるでしょうか。ぜひ柔軟で斬新なアイデアをお寄せください。
原典之・三井住友海上火災保険社長の課題に対するアイデアを募集します。投稿はこちらから。 |
編集委員から

7月に九州を襲った豪雨災害。コロナ禍で心が沈むなかで、追い打ちをかけられた被災者の方々の苦痛はいかばかりだったかと察します。当時、一つの記事が私の目に留まりました。「三井住友海上火災保険はドローンとAIを活用した新たな水災の損害調査チームを現地に派遣した」
水害を受けた住宅への保険金を支払うには浸水高や損害状況を正確に計測する必要があります。被災者の方は一刻も早く保険金を受け取り、生活を立て直したいはずですが、現地調査は二次災害リスクもあり、どうしても慎重にならざるを得ません。ところがドローンであれば水災直後に浸水高を計測できるうえ、AIを使えば保険金の査定も速やかに進められます。
DXを社会貢献にどう生かすか。社会に役立つアイデアを想像することは、とても有意義です。それは損害保険会社も同じ。社会貢献は利益以上の大きな付加価値を生みます。私もぜひ新しいアイデアを考えてみたいと思います。(編集委員 小栗太)
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今回の課題は「損害保険会社がDXで実現できる社会貢献とは?」です。400字以内にまとめた皆さんからの投稿を募集します。締め切りは12月16日(水)正午です。優れたアイデアをトップが選んで、28日(月)付の未来面や日経電子版の未来面サイト(https://www.nikkei.com/business/mirai/)で紹介します。投稿は日経電子版で受け付けます。電子版トップページ→ビジネス→未来面とたどり、今回の課題を選んでご応募ください。